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ヒースの決断

ヒースは憂鬱な気持ちで見合いに臨んだ。


彼は決して不細工ではなかったが、体の大きさが規格外れだったので、初対面の女性には少々引かれてしまうことも多かった。


自分がお見合い向きでないことはわかっていたし、カリイナのことも気にかかっていた彼は見合いに乗り気ではなかった。

けれどお見合い相手のエレンはそんなヒースの気持ちを変えてくれる素敵な女性だった。


容姿は十人並み。

年はヒースと同じ二十五歳。

少々行き遅れた感がある。

この辺りにしては珍しく高度な学問を修めた女性だったことが男性に敬遠された原因の一つかもしれない。


彼女はヒースに対して怯むことなく、そして馬鹿にすることもなく自然体で接してくれた。

彼女と話をして、ヒースは久々に心が和んだ。




いい人だ…

こんな女性を妻に迎えられたら、きっと穏やかで安定した家庭が築けるに違いない。

それにエレンなら、感情的ではあるが根は悪くない母親のことも理解し、仲良くしてくれそうだ。


ヒースは自分の片思いに引きずられることなく、人生の駒を進める決意をする。


…カリイナに恋することは周囲も自分も幸せにしないし、何よりも…


ヒースは彼女と交わした会話や、その時の雰囲気を何度も何度も思い出しているうちにカリイナにはすでに好きな男がいることになんとなく気づいた。

そして彼女はたおやかに見えるけれど、とても意志が強そうで、簡単に気持ちを動かす娘ではないということにも。


少し胸がうずくが…

彼女との出会いを肯定的に捉えよう。

独身時代の最後に綺麗な子と出会い恋をして、切ない思いができたことは男として幸せなことだったと。




エレンとの結婚が決まり、ヒースは農園経営の全てを父親から引き継ぐことになった。

父親が隣国との境に新たに作る市場の準備、運営に専念するためである。

それを機にカリイナはヒースの家がもともと持っていた畑や果樹園で働くことになり、自然と二人は顔を合わせる機会が増えていった。




ある日隣国の貴族に納める桃の選定のため自ら鋏を持ち桃園を歩いてたヒースは雑草をむしっているカリイナに出会う。


「ヒース、さん」とカリイナの方から声をかけてきた。


ずいぶん日に焼けたな…と思いながらヒースがカリイナを眺めていたら「ご婚約おめでとうございます」と彼女は屈託なく言った。


一瞬それが辛く感じた。

けれどヒースは笑った。


「カリイナ、君随分はっきり話せるようになったね?

初めて会った時は、もそーもそーとした喋り方だったけど」


その言葉に今度はカリイナが笑う。


「結婚式は盛大にやるって母親が張り切ってる。

さすがに君たちまで招くわけにはいかないけれど、祝い菓子は振る舞うからね。

楽しみにしてな?」


「…はい。楽しみにしてます。

ヒース、さん。幸せに…なってくださいね…」


そう言われてヒースは意外なことに気づく。


このカリイナの慈しみに満ちた眼差し。

これは母親が息子を思いやるような眼差しだ。


なんでことだ。

カリイナは僕を自分より下に見ている…




「あっはっはっ!」


いきなりヒースが上を向いて笑い出したことにカリイナは戸惑う。

今の会話のどこにこんな大笑いする要素があったのだろうかと。


そんなカリイナをその場に残し、ヒースは「生意気、生意気」と笑い、ハサミをカチャカチャ鳴らしながら去っていった。


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