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これで良かった

翌日、レインはカリイナを連れて質屋を回った。


根気よく、自分の希望する金額を出してくれる店を探し、そういう店に巡りあえたのは四軒目。


カリイナの持ち物は金貨一枚強の値がついた。

支払いは金貨ではなく銀貨、銅貨でしてもらい、それをいくつかに分散して巾着袋に入れ、レインはカリイナに持たせた。

何かの支払いの際に大金を持ってるなると目をつけられないように。


本当はもう少し高値がついても良いとレインは思ったのだけれど、昼にはこの街を出たいと思っていたのでこの値で手を打った。


カリイナが、着替えた服やバックなどはレインが交渉のすえ、店主にサービスとしてタダで提供させたものである。


色あせたピンクの木綿のワンピースも、毛羽立ったモスグリーンのウールのコートも布のようにくたくたになった豚革の旅行鞄も、捨てても良いと思わせるようなものだったので、さっきまでの姿との差にほんの少しレインはカリイナを気の毒に思う。


けれど当のカリイナは鏡に映る自分の姿に満足していた。

良い暮らしをしていた頃の名残は髪を縛る黒いサテンのリボンと黒い靴だけだったけれど。


これで良いんだ…

これで私は元の私に戻った。

知らせの一族の嫡子ルシファーの婚約者ではなく、孤児のカリイナに…




カリイナは硬貨が入って重くなった鞄を持ち、荷馬車を置いてあるホテルに戻るレインの横を歩く。

すると彼は立ち止まってこんなことを言う。


「?なんでついてくるんだ、君」


「え…?」


「は?ま、さ、か、うちの荷馬車に乗ってこの街を出ようとか考えてるわけじゃないだろうな?」


カリイナにそんなつもりはなかったが、もしかしたらレインはそんなことを申し出てくれるのではないかという淡い期待はあった。

それを察しレインはボリボリと頭を掻く。


「あのな、カリイナ。

私はこの旅の前に五キロ体重を落とした。

何故だかわかるか?

馬に負担をかけたくなかったからだ。

引く荷が重ければ重いほど馬に負担がかかる。

今日は日暮れまでに川のある場所に行きたいんだ。

そこで野宿する予定だ。

だから私はこれ以上君の面倒はみれない。

君を乗せる余裕があるのならもう一本苗木を積みたい」


その説明にカリイナは自分の甘えた考えが恥ずかしくなる。


「しかし君は図々しい女だなー」とレインは笑う。


図々しい…

図々しい?!

カリイナはそう評価されたことにひどく驚いた。

物心ついてからはずーっと大人しい、遠慮がち、引っ込み思案と言われ続けてきたので。


「でも逆に安心する。

その図々しさがあればこの世の中をなんとか渡っていけるだろう」


ここでカリイナはハッとする。

ホテル代!ホテル代を返さなきゃと思い。


「レインさん、昨日のホテル代…」


「いいよ、君これからが大変なんだから。

金は取っておけ。

良い働き口を見つけられるといいな。

もし働かせてくれるところがどうしても見つからなかったらリングヤード州のF村に来な。

果樹農園で栄えてる村だ。

そこでなら就職の口利きをしてやれる。

まあ、リングヤード州は遠すぎるから君はここら辺の食堂の下働きでもさせてもらうのがいいと思うけど」


リングヤード州…

そんな遠くから来ていた人だったのか。

カリイナは家庭教師に地理を教わった時に広げられたこの国の地図を思い浮かべ、その位置を確認した。


「じゃあな、カリイナ」


そう言って早足で立ち去るレインの後ろ姿にカリイナは慌てて声をかけた。

色々ありがとうございましたと。


するとレインはくるっと振り返り「声が小さい!」と最後のダメ出しをした。

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