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衝突

ライアは住み込みで屋敷に勤めることになった。

今現在、この屋敷の住み込みの使用人は馬丁のアランだけである。

アランは馬屋の横にある小屋で一人寝泊りをしている。

その小屋にもう一つライア用のベッドを入れて今後は二人で暮らす。


老境に差し掛かっている男と狭い小屋での同居はどんなものだろうとライアは不安になったが、アランはひどく無口な男で必要最低限の言葉しか発しない。

つまり、その場に二人でいても会話をする必要がない。

それがライアには楽に思えた。




基本ライアは二つある当主の書斎に籠もって仕事をしていたので、ルシファーと顔を合わせることはなかった。

けれどそれは皆無ではない。


たまたま廊下ですれ違う時がある。

そんな時ライアは過剰なまでに深々と頭を下げた。


そんな慇懃無礼なライアがルシファーは気に入らなくて仕方ない。

父親が使用中の書斎にライアも一緒にいるかと思うとそれだけでムカムカしてくる。


父は人との同席を好まない人なのに。

私と一緒に食事をすることさえ稀なのに…


ルシファーは屋敷の女たちが、美少年のライアをチヤホヤするのも気に入らなかった。

そしてライアに優しい言葉をかける女たちを迷惑そうに扱っている彼の態度がまた気に入らない。


彼の雇用は、多分2、3年になるだろうと父は言った。

その間こんな精神状態で過ごさなければならないのかと思うとルシファーは気が滅入る。


ライアの性質が気に入らないと言うのもあるが、それ以上に賢い彼を父が気に入っていることに自分は傷ついている気がする。


嫉妬…?


こう言う感情を嫉妬と言うのだろうか?

だとしたら…


この時始めてルシファーは今まで自分は誰に対しても嫉妬の感情を持ったことがなかったことに気づいたのだった。




一方ライアもルシファーに対しての激しい嫌悪に苦しんでいた。


あの日、家の洗い場にあったあの白いシャツが彼の心に張り付きギリギリと胸を締め付けてくる。


自分の姉の今後の生き方を有無を言わせずルシファーが決めてしまったことに腹が立って仕方ない。

そしてもしもこの人が自分の父親だったらどんなによかっただろうと思う当主の息子であることも気に入らない。

屋敷の何人かの使用人がルシファーを好青年として扱うことも。




時々当主様に忠告される…


ライア、ルシファーを刺激してはいけない。

彼が君をこの屋敷に置いておくのが嫌だと申し出てきたら、私は君を雇い続けるわけにはいかないのだからと。


悔しいが衝突したら僕が負ける。

あっちは当主様の息子だ。

この圧倒的な立場の差。

嫌だけれどアイツに頭を下げなければならない。




今日も当主とルシファーが連れ立っての外出する姿を見送ったライアの胸はひどく騒ついている。

そのため目録を書くペンに変な力が入る。


彼は一回深呼吸をした。

雑念を払いあの方の満足のいく仕事をしようと思い。

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