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おかえり

ルシファーは痛みをこらえて馬に乗り、屋敷に帰った。

王女にもらった命令書は誰にも渡したくなかった。

自分の心を温めた王女との思い出の品として大切にとっておきたかったので。


馬屋に馬を戻し大きく屋敷の横を回り込み玄関に向かう道を歩く。

もう真夜中といって良い時間帯である。


ルシファーが玄関の扉を開けようと取手に手をかける前に扉が開いた。

玄関ホール内は明るく、そこにたむろしていた使用人数人が「ルシファー様!」と一斉に声を上げた。


ドアを開けたシンシアの他に、エマやビルド、馬番のアラン、リンカもいる。


「どこに行ってらしたんですか!アランから馬に乗り出ていったと聞いて心配していたんですよ。

尋ねても行き先を言わなかったって言うし、帰りがあまりにも遅いから何か事件や事故にでも巻き込まれたんじゃないかって」


シンシアがそう言ってルシファーに詰め寄ってきた。


「…すまなかった。

忘れ物を城に取りにいってたんだ。

途中落馬して城の従医に手当てしてもらっていた。

けれど心配は無用だ。

ただの打ち身なので」


ああ、父がいないなとルシファーは思い尋ねる。


「父上は?」


「心配しなくてもそのうち帰ってくるとおっしゃっられて先にお休みになっておられます」


そう答えたシンシアの声には薄情な当主の態度に対する怒りのようなものが滲んでいる。


「そうか…」


あの人らしいなとルシファーは思う。


「みんな、心配をかけてすまなかった。

今日は屋敷に泊まって行ってくれ。

空いてる客間を解放する」


この申し出にエマは密かに喜んだ。


リンカが一言も発せずむすっとして立っているのに気づいたルシファーは彼女に声をかけた。


「リンカ、いいのか。

やっと再会できた弟をほっといて」


「ライアはぐっすり眠っています」


少しつっけんどんにリンカは答える。


「…君も宿直室に戻って休め」


この言葉には素直には「はい」と答えた。

ああ、顔つきがいつものルシファーに戻っているな、と思いながら。


それにしても今日はなんと気持ちが上がり下がりした1日だっただろう。

でも弟もルシファーも無事で本当に良かった…


リンカは芯からホッとした顔をした。

ルシファーに背を向けてから。




ビルドは自分の事務室のソファーで寝ると言いい、部屋に戻る前にルシファーに当主からの伝言を伝えた。


「ルシファー様、当主様がお話ししたいことがあるそうです。

明日登城の前に書斎をお訪ねになってください」


「わかった。

すまないが朝起こしに来てくれ。

寝坊すると困るので。

寝坊は人の運命を変えるからな…」


ビルドにそう依頼した後ルシファーは手すりにつかまり、ゆっくりと階段を上って行く。


部屋に入り着替えもせずベッドでうつ伏せになり、胸元に入れてあったフロリナ王女にもらった命令書を取り出しそれを眺める。


整った美しい字だ。

なにか知性が滲み出ているような…


優しくて包容力のありそうなフロリナ王女はルシファーが子供のころ孤児院で思い描いていた自分の母親像そのままだった。


ルシファーは命令書を胸に抱き、患部に貼られた湿布の臭いを心地よく感じながら眠りに就いた。




翌日。

ビルドに起こされる前にルシファーは目覚める。


屋敷に泊まってもらったエマに頼み湯を張ってもらい風呂に入って身支度を整えてから父親の書斎に向った。


父親は昨日ルシファーが行方不明になったことについては全く触れず、淡々とリンカの弟の今後のことについて話し始めた。




「ライアのことだが…

私は彼にしばらく自分の仕事を手伝わせようと思っている」


うっとルシファーは声を出しそうになる。


ルシファーは面倒見の良いであったが、自分の懐に入ってこない人間にまで優しくできるほどには成熟していない。

自分にはっきりとした敵対心を見せてくるライアのことがとにかく気に入らない。


多分父もそれに気づいているであろうに。

相変わらず私の気持ちはどうでもいいのだな…


ふっと気づかれないように小さくため息をついてから父親に尋ねる。


「彼に手伝わせたい父上の仕事とは?」


「蔵書の目録作りだ。

何代かに渡って集めてきた本の量が膨大になってしまった。

私自身どこにどんな本があるかわからない。

目的の本を探すのに一苦労することがある。


そこで本の整理と目録作りを仕事として彼に与えようと思う。

ライアは理解力があるし字も綺麗だ。


当家の払う賃金で、彼らの母親も今よりは条件の良い民生院に移れるだろう」


全てをつつがなく収めようとする父上らしい考えだ、とルシファーは思う。


「わかりました。

ライアをこの屋敷に置くことに異を唱えることは致しません。

そのかわり…」


「そのかわり?」


「リンカのことは私の好きにさせて下さい。

私の気が済むように」


今度は父親の方がほう、と息を漏らした。

そして微かに目を細めたあと告げる。


「…いいだろう。

リンカのことは君に任せよう」


それを聞きルシファーは自分が考えているリンカの今後について父親に語った。


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