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解雇

解雇の通達の際、カリイナは使用人全員を玄関ホールに集めた。

もちろんルシファーや父親にも同席してもらった。




「皆さん、今までこの屋敷に勤めて頂いてありがとうございました。

知らせの一族の屋敷で働くというのは世間体も悪く皆さんは強い心理的負担を感じられていたことでしょう。

それは皆さんの態度から推測できます。そこで当家は今月末を持って皆さんをその苦しい職場から開放して差し上げることにしました。

皆さんに解雇を通達いたします!」


カリイナのこの通告に、使用人の間からはどよめきが起こった。


表向きは良かった、これで忌まわしい仕事から開放されるなどと口々に言ってはいたが皆、動揺しているのは明らかだった。

ここでは相場の二倍近い給金をもらっていたのだから。


皆の動揺を気にせずカリイナは話を続ける。


「ただ、なかには色々事情があってこのまま勤めたい方もいらっしゃるでしょう。

ですので希望があれば再雇用いたします。

…そんな人はいらっしゃらないかもしれませんが。


雇用する人数は厨房に二名、メイド二名、清掃係五名、馬番と庭師と御者と家畜の世話係を兼ねて五名、執事一名。以上です。

再雇用の希望のある方は今週中に当主様に申し出てください。今でもかまいません」


この呼びかけに応えたのは執事のビルドだけであった。

他の者は皆ツンとして自分の持ち場に戻って行く。

「何様?あの小娘。もうこの屋敷の女主人気取り?」とカリイナの偉そうな態度に悪態をつきながら。




ルシファーの父親は皆の前でカリイナが話す間中、震える右手を震える左手で抑えているのに気がついていた。

大人しいカリイナにとって大勢の人前で話すと言うことは耐え難い恐怖だったのだ。


ルシファーはカリイナが孤児院にいたときの頼りないカリイナとは別人のようだと思って彼女の奮闘を見守っていた。




解雇を言い渡された使用人たちは集って話し合いをした。

決して再雇用を申し込むまいと。

困った当主が自分から雇用の継続を申し出てきたら、そのときは賃上げを条件に全員残ることにしようという案で話はまとまった


この広い屋敷をそんな少人数で維持管理できるわけなどないのだ。

そして知らせの一族のもとで働こうと思うものなど、そうそうおるまいと使用人たちは考えていた。




翌日の早朝、日が昇る前にカリイナは大きな布と短く切った細い綿のロープを持って屋敷中を走りまわった。


そして使っていない部屋の家財に布をかけ、それが終ると観音開きのドアの縦に付いた豪華な取っ手をロープで結わえて封鎖した。


朝、いつものように出勤してきた掃除婦たちは今まで掃除してきた部屋の大部分が閉鎖されていることに驚く。

そして残されたわずかな部屋の掃除に人が集中する。


本気だ…

知らせの一族は本気で使用人を減らそうとしている!


この不吉な人たちに頭を下げることや常に陰気なこの屋敷で働くことを不満としてきた使用人たちだったが、いざ解雇されるとなると自分たちの職場がどんなに楽な労働で高給を与えていてくれたかに気づく。


使用人たちはこれから先のことに不安を感じ始めていた。




使用人に解雇を言い渡した三日後、カリイナの許に一通の手紙が届く。

カリイナはその手紙を持って城から帰ってきたルシファー父子を出迎えた。


「当主様、今日孤児院にいた頃の友人たちから手紙が来ました。

田舎では職がなく、良ければこちらの屋敷で働かせてもらいたいと。

この者たちは体も丈夫で気の利く人たちです。

身を粉にして私達の為に働いてくれるでしょう。

承諾の手紙を出してもよろしいでしょうか?」


「もちろんだ、カリイナ。

その返事の手紙は私が明日登城する際、配達担当者に直接届けることにしよう」


このカリイナと当主の会話を聞いた使用人達は慌てた。

今日のうちに再雇用を申し出なければ間に合わない!と思い。


こうして解雇を機に遠方で堅気の仕事に着こうと思った数人を除いて、ほとんどの使用人がその日、再雇用を求めて当主の部屋を訪れた。




当主やルシファーはカリイナの許に届いた手紙が友人からではなく、実はカリイナの孤児院退院に関する書類だったことを、多くの使用人が再雇用を求めてきた後に知ったのだった。

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