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また叱られる

遠乗り用の馬を選ぼうと馬屋に向かう途中、当主はシンシアと連れ立って歩いているルシファーを見かけた。

彼らは一緒に家畜小屋にニワトリの卵を取りに行った帰りだった。


「ルシファー、こちらに来なさい」とすれ違いざま声をかけられ、ルシファーは父親の前に進み出る。


父親は恐ろしく淡々と言った。


「君のそのだらしないシャツの着方はなんだ?」


この時ルシファーは普段着のシャツのボタンを二つ外しその上には上着を羽織らず防寒用のコートを直接着ていた。


ルシファーは急いでシャツのボタンを上まで止める。


なんとなく注意されているところを見ない方がいいと思ったシンシアは「調理場に戻ります」と声をかけその場を去った。




「ルシファー、使用人と心を通わせるのは構わない。

だが格好や振る舞いは彼らと同じようにしてはいけない。

鶏の卵の採取は君の身分にふさわしい仕事なのか?」


「いえ…けれど」


「けれど?」


口答えを許さない父の雰囲気に、ルシファーはまた叱られたと思い黙ってうつむいた。


「それにしても…

君は本当に…女が側にいないとダメ、な、タイプなのだな…

シンシア…は亭主持ちだ、ぞ…」


途切れ途切れの話し方に疑問持ち、そっと顔を上げたルシファーは父親が笑いをこらえていることに気づく。


この人も笑うことがあるのか!と驚くと同時に、ルシファーも何かおかしくなってきた。




後ろの方から笑い声が聞こえてきたのでシンシアは振り返った。


なんと、あの二人が笑っているではないか!

二十年近くここに勤めているシンシアは初めて当主の笑っているところを見た。


あの当主様を笑わすとは坊ちゃんは本当にすごい人だとシンシアは思う。

その笑いに自分も一役買っているとも知らずに。




シンシアが調理場に戻ると元はメイドだった雑務係が休憩に来ていた。

洗濯が終わったので調理場の暖炉で暖まりに。


彼女は観劇の話を聞きたいとシンシアにねだった。


「何回も聞かせたじゃないか」


「ううん、芝居の筋じゃなくて、どうしてご子息と観劇に行くことになったかを」


「だから、それも話したじゃないか。

坊ちゃんがお城の侍女に断られたからだって」


「ああん、どうしてシンシアさんを選んだんだろう、ルシファー様は」


この時、シンシアはいつも裏ではルシファーのことをアイツとか呼んでひどく嫌っていたこの娘の変化に気づく。


「あー、私は接触することが少なかったから。

そのせいであまり確執がなかったからじゃないかね?

あんたがメイド時代、給仕の際にっこり笑って坊ちゃんに接していたらはあの方はあんたを観劇の相手に選んでたかもしれないよ?」


「えー?それはない。だって私は不器量だし」


「そういうことは関係ないような気がする、あの方にとっては…」


ん?と雑務係は首を傾げた。


「なんだかずいぶん仲良くなったのね。

シンシアさんだって知らせの一族をうんと嫌っていたのに」


「確かに。

だけどよく考えてみたら、犯罪者の血は色濃く引いてはいるけれどこの一族からは犯罪者を出していないんだよね?

それに私らど庶民は彼らから不幸を告げられることはない。

別に恐る必要はこれっぽっちもなかったなと思って」


「そう言われてみればそうよね…

あーあ、ルシファー様が来たばかりの時にそれに気づいていたら私にもチャンスがあったかな?

ふ、知らせの一族の屋敷に勤めてしまったからにはどこにも嫁ぐことはできないじゃない?

それならこうして働くよりルシファー様と結婚してこの屋敷の奥様になった方が良かったかも?

親は泣くだろうけど」


「ふふ…」


「でももう遅いわね。

リンカがいるもの。

あの二人できてるって噂よ。

だからカリイナさん怒って出ていってしまったんでしょ?

きっとリンカがこのお屋敷の奥様になるわ」


「さあ、それはどうだろう…」


そうつぶやいたシンシアはカリイナの話をした時のルシファーの様子を思い出していた。




ちょうどこの日の午後だった。

リンカの弟が見つかったとの報告が屋敷に来たのは。


当主が城の行事の遠乗りに出かけていたので、ルシファーがそれについての対応をした。




街で浮浪児グループの争いがあり、リンカの弟はその取り締まりをした警備使に捕まったらしい。

彼は偽名を名乗ったが、リンカの描いた似顔絵が出回っていたので、警備使の一人が捜索されている少年ではないかと気づいた。


リンカの弟は15歳という年齢の割には体が小さく、12歳くらいにしか見えなかった。

そのため似顔絵がなかったら知らせの一族が捜索している15歳の少年だと気づかれなかった可能性がある。


リンカの描いた上手な絵が弟の発見を引き寄せた。


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