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18歳までは

もちろんカリイナはその手をとった。

何も考えずに。

瞬間的に。


ルシファーはまるでさらうように孤児院からカリイナを連れ出した。




屋敷に向かう馬車の中、ルシファーは尋ねる。


「カリイナ…よかったのか?」


そう問いかけられた言葉にカリイナは無言で何度も頷いた。


この時のカリイナの心には後ろめたさがあった。

カリイナにはわかっていた。セシルの気持ちが。

ルシファーを拒否したわけではない、戸惑ったのだ。


ルシファーが私を連れ出さなかったらセシルはルシファーを追いかけていたかもしれない。

なんだかセシルに…申し訳ない…


眉をひそめうつむいたカリイナを見て彼女はこれからのことに不安を感じているのだと思い、ルシファーはカリイナの手を強く握った。

ただそれだけなのにカリイナは顔を真っ赤にした。

そんなカリイナを可愛く思いながらもルシファーはセシルのことを考える。


セシルを恨んではいけない。

あそこにいる者たちは幸せへの憧れが誰よりも強い。

当然のように愛してくれる親がいない分、自分が親になって子供に惜しみなく愛情を注ぐことを夢としているのだ。

孤児として見下されてきたからこそ愛する者と家庭を持ち、世間に受け入れられたいという欲求が強いのだ。

自分もそうだった。

セシルは知らせの一族のルシファーと結婚したのでは自分が思い描いてきた未来が手に入れられないと判断したのだ。


…いい、自分は。

セシルと結婚できなくても。

セシルが幸せになってくれさえすれば…セシルが幸せに…

セシルが…


あ、だめだ。今はこんなことを考えては!


ルシファーは必死で頭の中をめぐるセシルとの思い出を追い出そうとする。

自分の手を取ってくれたカリイナのために。


ルシファーは改めててカリイナに知らせの一族の嫡子である自分に付いてきたことの意味がわかっているのかを尋ねた。


もうカリイナには戻る世間がなくなる。

それはすなわち…

カリイナ自身も知らせの一族の一員として生きていかなければならないというとこだ。


カリイナはルシファーの目をしっかり見つめて、今度は深く一度だけうなずいた。




ルシファーの父親は彼が娘を連れてきたことに驚きを覚えた。

そしてその娘が結婚を約束していた相手とは違う娘だと言う話を聞かされさらに驚く。


父親は少々戸惑ったが彼女を受け入れた。


「カリイナ、今ルシファーから君と結婚したいと申し出を受けた。

庶民は何歳からでも結婚できるが、私達特権階級の者はそうはいかない。

なのでルシファーが18歳になるまで君は客人としてこの屋敷で暮らすことになる。

王から婚姻の許可が出るまでは二人とも節度のある付き合いをするように」


ルシファーが18になるまでに、彼女も嫌すぎるほど現実を知るだろうと思いながら父親はそう告げた。




ここに来てカリイナを驚かせたのはこの屋敷の広さではなく、使用人の多さだった。


確かに広い屋敷だ。

でも十人も掃除婦が必要だろうか?

たった二人の家人のために料理人が三人、メイドが五人。

その他にも厩番、庭師、御者、執事…

総勢三十人もの使用人がいる。

一体なぜ…?とカリイナは疑問に思う。




たまたま、カリイナがルシファーの部屋にいたときメイドがシーツを替えにやってきた。

彼女にもメイドがこの部屋ではなるべく息をしないようにしているのがわかった。

カリイナは珍しく怒りの感情を表に出した。


「相場の倍のお給金を頂いてあるというのになに…?あの態度、すごく失礼」


ルシファーはおや、と思う。

長く一緒に過ごしてきたがカリイナが怒ったところを今まで一度も見たことがなかったから。


意地の悪い院生に仲間はずれにされようと、人より広い掃除の範囲を押し付けられようと、カリイナはただうつむいて受け入れてきた。

セシルも自分ももっと毅然とした態度をとれと散々彼女に説教してきたが無駄だった。

いつもその忠告を情けない顔をして聞くカリイナだった。




カリイナはルシファーや父親をないがしろにするメイドたちが許せなかった。

二人は外に出れば仕事柄人々に嫌悪の目で見られ、辛い思いをしているのだ。

家でも使用人にこんな態度を取られたのではこの父子の心が休まる場所がないではないか。


これはカリイナは生まれて始めて感じた激しい怒り。




この屋敷に暮らして一ヶ月くらい経った頃、カリイナはルシファーにある提案をする。


「ルシファー、この家の使用人を減らしたらどうかしら…」


「使用人を減らす?」


「そう、確かにこの屋敷の部屋数は多い…

居室や事務室を除いても、ゲストルームが4、晩餐の間1、ダイニングが1、調理場が1、談話室が2、書斎が2,ダンスホールが1,サニタリーが5。

でもその部屋のほとんどがが使われることはない、多分これからも。なのに毎日掃除をしている。

無駄だわ…


使わない部屋を閉鎖して、掃除婦を今の半分にしたらどうかしら。

メイドも二人いれば十分だと思う…」


この提案にルシファーは少し驚いた。


合理的な考えだが…

カリイナはこんなものの考え方をする娘だったろうか?


「人が多ければ普通賑やかで活気が出るはずよ。

だけどここの使用人は家の人を嫌っている。

そんな人たちをいくら数多く置いても活気も温もりも生まれてこない。

むしろ逆だわ。

あの人たちの嫌な態度がこの屋敷の空気を重くしてると思うの…

だったら人数を減らしてしまった方がまだ快適に暮らせるんじゃないかしら…」


カリイナの意見に納得したルシファーはこの話を父親にしてみた。




「言われてみればその通りだ。

私は祖父に犯罪人を持つ、君もだが…

そのせいでどこか後ろめたい気持ちをいつも抱えていた。

それは使用人に対してもだ。

その為不快な態度を取られても解雇することができなかった。

それどころか辞められてしまうことを恐れていた。

人数を多く抱えていないと不安だった。

それを感じ取り使用人たちも無礼な態度をとっていたのだな…


よし、この件に関してはカリイナに任せてみよう」

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