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セシルからの返信

セシルは勤め先のクレモント商店に配達された郵便物の中に自分宛のものがあることに気づく。


見るからに他のものとは違う上質な紙質の封筒。

それはルシファーからの手紙だった。


それを手にしてセシルは「手紙をよこすのが遅すぎる」とつぶやいた。




その長い手紙には孤児院を出てからルシファーの身の上に起こったことが書かれていた。


想像以上だった知らせの一族への世間からの風当たりの強さや差別。

人の輪のからはじき出される辛さ。

中庭でセシルに拒否された時の気持ち。

カリイナを連れて帰った経緯。


使用人の解雇や談話室でのことなども含めたその後の日々のことも書かれていた。


リンカの策略。

カリイナの出奔。

自分と父との間にある水面下の確執。


今の自分は周りの状況だけではなく、自分自身が変わってしまったような気がするというような心うちの吐露。


そして最後には君の目の前でカリイナを連れ出して悪かった、あの時は君の気持ちを気づかう余裕がなかったという詫びが書かれていた。




「そういうことだったのね…」


セシルは手紙を読んで色々と腑に落ちることがあった。

何回も何回も読み返してからルシファーに返事を書いた。

まずは恨み言から書き始める。挨拶を飛ばして。




確かにあの時、差し出された手を取らなかったことは申し訳なかったけれど、カリイナを目の前で連れていかれたのを見て、二股かけられていたのではないかと疑いそれなりに私も傷ついた。

元々私は誰にでも、特に女の子に優しいあなたに不満があった。

そしてあなたのことは大好きだったけれど、将来を共にする相手を狭い孤児院の中で、早いうちに決めてしまうことには迷いがあった。

その迷いがあの瞬間出てしまったのだと思う。

ごめんなさい。


そしてリンカのことだけど…

小さい買い物でもいちいち領収書を欲しがるので不思議に思っていた。

それは多分私の筆跡を手に入れたかったからだと思う。

リンカのしたことは許されることではないのかもしれないけれど、それでもやっぱり私はあの人の境遇には同情する。


カリイナのことは…

あの子はおとなしいだけで芯はしっかりしているし、人の庇護欲をくすぐるところがあるから、必ず助けてくれる人に出会える。

あなたのお父様の言うとおりそんなに心配しなくても大丈夫よ。


それに、愛のことばもささやかず、男はいきなり襲ってくるものだと学習してるから若い男への警戒心は研ぎ澄まされているでしょう。

だからその点は安心しなさい。


話は変わるのだけれど、私はいつか基金を集めて孤児院所有の農場を持ちたいと思っているの。寄付金や公費に運営を頼るのではなく、経済的に孤児院を自立させたいの。

まだまだ先のことになるだろうけど、時が来たらあなたにも協力を求めるつもり。


その時はよろしくね?


あなたはどんな困難にも悩みにも囚われず前に進める人だということを私は知っています。


大丈夫よ、ルシファー。

私はあなたが幸せになれることを疑っていないわ。


お互い幸せになりましょうね。



追伸

あなたがあの日のことを許してくれるなら、私もあなたを許してあげる。




ほぅ…とルシファーは息を吐いた。


なんと力強く励まされる手紙だろう…


セシルから届いた返事を読んで、思い切って彼女に手紙を書いて良かったな、とルシファーは思う。


それにしても、セシルは孤児院の経済状況を変えるシステムを考えているのか。

何というか…器が大きいな…

孤児院では腹を空かせていたと父親に恨みを言っていただけの自分が恥ずかしくなる。

彼女なら本当にこの国初の女性村長になれるかもしれない…


ルシファーは何気なく両手を広げてみる。


そうか、もともとこの腕の中には収まりきれない女性だったのかもしれないな、セシルは。

だとしたら、あの時のセシルとの別れは必然だった…


ではカリイナは?

カリイナとの別れも何か意味あることなのだろうか…


そんな事を考えながら便箋を封筒にしまっている時、部屋にメイドが飛び込んできた。


「何事だ?ノックもせずに」と注意したルシファーに向かってメイドは叫んだ。


「大変です!坊っちゃま!

ビルドが…ビルドさんが坊っちゃまに会わせろとやって来たリンカを殴っています!」


それを聞きルシファーは慌てて部屋を飛び出した。

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