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探すな

「朝、ノックの音で寝室のドアを開けたらそこにカリイナが立っていた。

グレーの外套を着て。

その姿を不思議に思い尋ねた。

なぜこんなに朝早くに外套を着ているのだと。


そうしたら彼女はルシファーのことが嫌いになったので今からこの屋敷を出ていくと言った」


「…!」


「理由を聞いてもとにかくこの屋敷を出たいの一点張りだった。

けれど私は君の保護者だ、訳も分からず君を手元から離すわけにはいかないと言ったら、彼女はルシファーは隠れてリンカと付き合っているようだと言ってきた。

夜中に彼女を屋敷に引き入れて調理場で逢い引きしていたと」


「それで…父上はそれを信じ、彼女に屋敷を出る許可を与えたのですか…?」


「与えた」


「なぜ引き止めてくれなかったんです!

なぜすぐ私に知らせてくれなかったんですか?!

その時私に知らせてくれればカリイナの誤解を解けたはずだ!」


「カリイナが見たこともないような清々しい顔をしていたから」


「え…」


「彼女はこの屋敷に来てからずっと苦しんでいた。

この屋敷を出ることで…君と別れると決めたことでそれから解放されるのだと思ったら、私はカリイナを引き止めることができなかった」


そう言った父親の顔にはかすかな憂いが浮かんでた。




この人は…息子である私のことより、カリイナの幸せを思いやってこの屋敷から彼女を放してしまった…

それはカリイナを可愛がっていたこの人にとって間違った判断ではないのかもしれない。けれど私に対してはあまりにも冷たい行為だ…


ああ…打ちひしがれている場合ではない。早くカリイナを連れ戻さなければ!


ルシファーは父親に尋ねる。


「…どこへ行くと言ってましたか、カリイナは?」


「聞いていない」


「無責任な!

父上はあんなに頼りない娘が一人で生きていけると思ったのですか?」


「カリイナなら大丈夫だ」


「大丈夫じゃない!お願いです、今すぐ彼女を探してください!」


「そのつもりはない」


そう言い切った父親をルシファーは思わず睨みつけた。


「…いいでしょう。では私は自分で探します!」


ルシファーはそう言うとくるり父親に背を向けた。


「探すな!」


ルシファーの父親は彼の前で始めて大声を出した。


「なぜだ!?」


ドアに向かって歩きかけていたルシファーは振り向きそう叫ぶ。


「リンカのことは多分引き金に過ぎない。

彼女には蓄積した苦悩があった。

一度カリイナを自由にしてやれ、ルシファー」


父親の言葉にルシファーの胸には彼にに対しての猛烈な怒りや不信感が湧く。

二人の間には緊張感のある沈黙が流れた。


再び父の方に近づいてからルシファーが口を開く。


「父上、聞いてよろしいでしょうか…」


「なんだ?」


「父上はリンカのことをどう思っていましたか?」


「リンカ?正直あまり好かなかった。態度が悪いだけではなくどことなく雰囲気が妻に似ているところがあって。

だかまさかこんな悪さをする人間だとは思わなかった」


「ではカリイナのことは?」


「カリイナはおとなしいが知恵のある娘だと…」


父親は話の途中でああと呟き、眉をひそめる。


「…もしかして君は男としての君への嫉妬から私がカリイナを君から遠ざけたと疑っているのか?」


この質問にルシファーは答えなかった。

ただ厳しい表情のまま父親を見据えているだけだった。


一方父親の表情は優しくなった。口調も。まるで幼児に語りかけるように。


「ルシファー、リンカに対してもカリイナに対しても私は君が思うような感情を持ったことはないよ。


いいか?私や君がカリイナを探すことで、カリイナはこの知らせの一族に紐付いた娘だと世間から認識されてしまう。

そうなったら今後彼女は社会で生きていくのが困難になる。


彼女は何を考える間もなく君に付いてきた。そして後から色々考えたんだ。

彼女は一緒懸命君を守ってきた。けれど多分それにも疲れたんだ」


「守る?カリイナが?私を?」


「気づいてなかったのか?」


「…」


「彼女は恋人に拒否され、傷ついた君の心を守るために君に付いてここに来た。

そして屋敷という狭い世間の中での君や私に対する冷たい風当たりを変えようと、能力以上の頑張りを見せた。


私も彼女には守ってもらった。君に責められた時。

彼女はさりげなく場の空気を変えてくれた。

カリイナは優しいな?

その優しさが今後生きていく上で人々の助けを呼ぶだろう。


彼女には金貨を5枚ほど待たせてある。

当分の暮らしには困らないはずだ。

もしどうにもならないことがあったらいつでも戻ってこいとも伝えてある」


そう言った父親から視線を外しルシファーは宙を見た。


「…戻っては来ない。

彼女はリンカと私のことを誤解して出て行ったのだから」


彼は急にハッと短く笑った。


「ああ、そうか。ちゃんと男として愛されていた。

嫉妬で私を嫌うほどに」


そう呟いた後ルシファーは再び父親を見ることなく書斎を出て行った。

ドアも閉めずに。

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