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「こんな人生を送って、ついにお前は最後まで誰も憎まなかったし、恨みもしなかったな。あいつらが勝手に神の世に攫ってきて、お前は神になる予定もないのに神にされたが。確かにお前は、あいつらの言うとおり、人の世にはもったいない魂の持ち主だったのかもな。まぁ、お前は何か勘違いしてるみたいだから言っておくが。神っていうのはな、禍福をもたらす存在だ。福ももたらせば、禍ももたらす。人に福だけをもたらす神なんてどこにも存在しやしない。それでもお前は人の福を願い続けた。人に禍が起こることなど望まなかった。お前は人であるには綺麗すぎた。そして神であるには浅はかだった。この惨劇は全部、お前が招いたことだ。この村の者は皆、お前も含め祟り殺された。外は酷いもんだぞ。俺も神になって久しく、随分と長い時人の世をみてきたが、これ程のものは見た事がない。お前がもう少し自分勝手で薄汚い奴だったらな。これ程の事にはならなかっただろうに。なぁ、りん。神っていうのはな、自分勝手で横暴なものだ。お前にゃそれは向いてねーよ。まぁ。そんな事、言ったところでもうどうにもなりはしないんだがな。」

そんなことをぼやきながら、神は座敷牢の中の凛のもとを訪れた。

「祟り殺されたっていうのに、随分と安らかな顔してるな。祟り殺されたにはそぐわない、随分と幸せそうな、そして綺麗な顔をして死んだものだ。」

凛の亡骸を見下ろしながら神がそう言う。

「牢の中だっていうのに。外の惨状とは打って変わって、本当にここは綺麗で穏やかだ。はてさてこれをした本人が最後に囚われたのは、この村の連中への強い怨みと憎しみか。それともお前への未練と愛情か。いったいどっちだろうな。なぁ、凛。」

そう言って神は、凛の亡骸から視線をそらし、その傍にいた凛の魂へと視線を移した。

すっかり怨霊と成り果てた黒い塊に覆われて、完全なる神となった凛の魂は動けずにいるようだった。それを見て、神はめんどくさそうにため息をついた。

凛。凛。一緒にいこう。そうやって凛の魂を連れて逝こうとする怨霊に手をかけて神はそれを引き離した。

「諦めろ。それはもう人じゃない。そいつはもう人の理の外にいる。お前がそれを連れていくことは絶対にできはしない。」

そう言って、神はその怨霊がちゃんと人の輪廻の輪に入れるように、その穢れを祓い成仏させようとした。でもそれをする事ができなくて、そして、ハタとあることに気づく。

「まったく。こいつが連れて逝こうとしてただけじゃないのか。お前がこいつを離してやらないのか。」

そうぼやいて、神は怨霊の手を掴んで離さない凛の手に触れて、もう離してやれと声を掛けた。

「神であるお前が離してやらなければ、こいつは永遠にここに囚われたままだ。怨霊になるほどの強く苦しい想いに囚われたまま、こいつの魂が救われる事はない。ちゃんと逝かせてやれ。」

そう言われても、凛が怨霊の手を離すことはなかった。むしろ絶対に離すまい。絶対に離れまいとするその様子に、神は困ったような顔をした。

「凛。離さなければ、お前も神の世に行けないぞ。お前みたいな神は人の世にいるべきではない。神の世で安穏と過ごすのが一番だ。なぁ、凛。なぜ人が、神が福ももたらす存在だと知りつつも、人と神の領域を明確に分けているのか。禍福をもたらす神をそれがどんなものであっても区別することなく一括りに、人の集落に入って来ぬよう、境界に結界をはり退けようとするのか。お前にはその意味がわかるか?それはな、それが良いものでも悪いものでも、人には過ぎた力を持つものは全て、人にとっては禍だと言うことだ。お前がどんなに良い存在だったとしても、お前の方がちゃんとそれを理解し節度を持たなくては、今回のようなことになる。一方に傾き過ぎてるお前は、人にとって大きな禍にしかならないんだよ。ここに居続けるのなら、それをちゃんと肝に銘じておくんだぞ。」

そう言って、神は早々に凛を説得するのを諦めて、彼女から離れた。

「自分の事で心から何かを願ったことのないお前が、最初で最後、唯一自分自身のために願ったのが、その男と共にあることなのだから。離してやる事が出来なくても仕方がないのかもしれないな。でもな、凛。いつかは離してやれ。時間を置いて、頭を冷やして、そのうちいつか必ずその手を離してやるんだ。お前だって、自分が愛した男に苦しみ続けて欲しくはないだろ。いつかはその手を離し、その男の輪廻の先に幸多いことを願って送り出してやれ。」

そう凛に語りかけて、神はその姿を僧侶のそれへと変化させた。

「これの責任は俺にもある。だからな。しかたがないから、少しだけ、尻拭いはしといてやるよ。」

そう言って、神はその場を立ち去って行った。

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