最初の停車駅
車窓の風景から大きな建物が無くなって来た。
たまに大きな商店街や市場のような場所があったけど、走って行くにつれて、それも小さなものに変わって行った。
見えてくるのは小ぶりな建物ばかりになった。郊外の住宅地なのだろうか?
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ゴ〜〜〜。
電車は大きな川の鉄橋を渡り始めた。
川には透き通るような水が流れていて、日本のようなコンクリートで固められたものとは違う、土と岩で出来た堤防があり、河原には葦が繁っていた。
ところどころに三日月湖のようなところもあった。
その三日月湖のほとりには木が植わっていて、ちょっとした林になっている。
良く見るとその林の中に、人間や獣人の家族が敷物を敷いて座っていて、楽しそうに談笑したり、お弁当を食べている。
その周りでは子供達が走り回って遊んでいた。
橋を渡り終えるとまた家が現れた。
小さな家が並んでいたのが、だんだん大きな建物へ変わっていった。
と言っても日本の建物のような雑居ビルやマンションでは無く、ちょっとした旅館のような建物や文化財に指定されそうな小さい洋風の建物だった。
ウォ〜〜〜オ〜〜〜ン、シュ、シューッ、シューッ。
モーター音が下がり、空気ブレーキの音が鳴り、電車は駅に止まった。
「河原宿―、河原宿―。停車時間は気の済むまで。」
車掌さんが通路に立って案内した。
顔はアフガンハウンドだ。帽子と制服が妙に似合っている。
でも停車時間が気の済むまでって何それ?
下手したら永遠に出発しないとか?
「降りてみない?」
ミナが上目遣いで聞いてきた。
かわいい・・・。
いやいや、それよりも途中下車?そんなの許されるの?
「切符には途中下車前途無効って書いてあったけど降りて大丈夫なの?」
「大丈夫よ。同じ電車だったら自由に降りてまた乗る事が出来るの。」
そうなのか。なんとも都合がいい。けど・・・。
「停車時間が気の済むまでって何?」
「ああ、それはね降りたお客さん次第で発車するの。」
「ん?。良く分からないんだけど?」
「ごめんなさい。上手く説明出来てなくて。つまり降りたお客さんがその場所にそのまま住んでしまえば発車するし、電車の旅を続けたい人がいれば戻って来てから発車するの。」
?????何その謎の仕組み?????
「そんなんでいいの?」
「それで良いのです。」
突然車掌さんが応えた。
「お客様がそのまま定住するなら置いて出発します。戻って来られたらお乗せして出発します。」
うーん。同じ答えを別な言い方に変えただけで、説明になってない気がする。
理解出来ない。
これも深く考えない方がいいのかな?
さっき電車に乗る時に発車時間がどうだとか言っていなかったっけ?
いろいろと突っ込みたいところはあるのだけど・・・。
早い話、降りたければ降りて、そうで無ければ戻って電車に乗れば良くて、どっちにするか決めるまで電車は待ってくれるという事か?
ただどうやって確認するのか良く分からないけど。
「じゃあ行きましょうか!」
降りるともなんとも言っていないのだが、ミナは僕の手を取ってホームへ降りた。
手を握られるとやっぱりドキドキする。
顔が少し熱くなった。