絶望した人生
「お〜い!こっちに来–い!集まれー!」
先生が叫んだ。
赤煉瓦の建物でホールのような作りのせいか、先生の声が良く通る。
大きなリュックを背負い、或いはキャリーバックを引いて、制服を着たクラスメートが冗談を言ったり、ぶつぶつと文句を言ったり、ワイワイと騒ぎながら一カ所に集まって来た。
ただでさえ音が響く建物なので、話声がうるさく感じる。
「いいかお前ら!これから改札を通ってホームの近くまで行く。そこで少し待ってからホームに行って電車に乗る。くれぐれも逸れるなよ!」
「せんせー!」
「なんだ?」
「おしっこした〜い。」
「バカ!小学生か?我慢しろ!」
みんなが笑った。反響音で笑い声がエコーがかかったようになり、大きな騒音になっていた。
だけど自分だけ笑わなかった。
笑いたくなかった。
友達がいなく、馬鹿にされ、いつも異物を見るような視線をクラスメートから向けられてる。
そんな雰囲気の中で、心から笑う事なんか出来ない。
周りは僕の事を笑う。
暴力を振るったり、馬鹿にしたり、いじわるをして笑う。
厳密に言えば、自分も笑う事がある。
だけどそれは無理やり笑えと言って笑わされている。
本当は泣きたいのに。
先生ですら自分をネタにして笑う。
本当はいじめに気づいている。
けれども助けてくれたり、相談に乗ってくれたりした事が無い。
良く言う「これも人生の試練」とか「いじめる奴も悪いが、虐められる奴も悪い」と言う事のようだ。
今回の修学旅行は行きたくなかった。
行った先で酷い事をされるのが分かっているし、楽しい旅行になる筈が無い。
さぼりたかったけど、さぼればさぼったでそれを理由にまた何かをされる。
もう嫌だ。
もう何もかも嫌だ。
逃げたいけど逃げられない。
もう生きる気力も無い。
いっそこのまま電車に飛び込みたい・・・。
・・・そうだ。みんなの見ている目の前で飛び込もう。
そうすればニュースになるし、先生もいじめてたクラスメートもこの先の人生が終わる。
これは復讐だ。
遺書はトイレへ行った隙に書けばいい。
それしかない。
もうこの苦しみから逃れたい。
改札口へ向けてみんなが動き出した。
面倒くさそうに歩く奴、ヘラヘラと笑いながら通る奴。
他の人から見れば、普通の中学生に見えるのだろう。
だけど自分にとっては悪魔にしか見えない。
自分がホームから飛び込み、電車に跳ねられる。
それを見たクラスメートが悲鳴をあげ、先生がオロオロする。
やがて遺書が発見されマスコミに出る。
ワイドショーや週刊誌が偽善者ぶって騒ぐ。
クラスメートや先生は、馬鹿で愚かなネット民に実名を晒され外出すら出来なくなる。
彼らの人生はこれでTHE END 。
・・・こんな妄想をしながら、クラスメートの一番後ろに付いて改札を通った・・・。
改札を通った?
いや、通ったはず?
なんだ?何か変だ。
いやなんだこれ?
突然、目の前が真っ暗になった。
目を開けているのかいないのか分からないほど暗い。
歩いているのか?立っているのか?
自分がどういった状態なのかも分からない。
振り向いても、首を上に向けても、暗闇ばかりで何も見えない。
そもそも自分の体がどうなっているのか?
音も聞こえない。
暗黒と静寂の世界で自分が何者かも分からなくなりかけた。
「僕は死んだのか?でも何故?何もまだしてないのに!」
どんな形であれ、死んだのなら儲けもの・・・なのか?
復讐に・・・なっていない?
死んだのなら考えても無駄・・・でも無い?
だんだん思考が停止・・・していない?
あれ?
あれ?
あれ?
突然、目の前が真っ白に輝いた。
今度は逆に眩しすぎて何も見えない。
音も少しずつ聴こえて来た。
人の歩く音がする。
呼び込みのような大声も聞こえる。
やがて「ヴォ〜ッ」っと言う汽笛の音が聞こえた。
目が慣れて来て、目の前の風景に驚いた。
「えッ?ここどこ?」