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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
みんなでお出かけ
94/95

94.ユリ咲く

海だけでは無く、山や、観光スポット。いろいろ出かけた。


ソルトに頼まれたことが大きかったけど、僕もユリも出かけるのが楽しかった。

リクさんもずっと研究所から出ていなくて、色んなところに行くのを楽しんでいた。

ソウにも色んなもの見て触らせた。


笑い声。皆の笑顔がいっぱいだ。


嬉しい。楽しい。幸せ。


***


ん。


ふっと目を開けると、ユリが逆さ向きで僕を見ていた。


「・・・ユリ」

「ちがうよ、カオルだよ」

と少し気分を害した高い幼い声。


「・・・あぁ」

起き上がる。ソファーでうたた寝をしていたようだ。


「ママー、パパ起きたよ」

「まぁ」

ユリは向こうの部屋にいるらしい。

ふぁ、と僕は欠伸をしてから少し伸びをした。


「おはよう、パパ」

とユリが来てくれた。

「パパ、僕をママと間違ったよ」

カオルが少し拗ねたようにユリに教える。


僕は肩をすくめて見せた。

「ごめん、カオルはママそっくりだから間違ったんだ」

「うん。良いよ」

コクリと頷く息子は素直で良い子だ。


「カオル、キヨラと一緒に朝ご飯食べてきて」

向こうに娘のキヨラもいるらしい。ユリの言葉に、カオルは返事をして隣の部屋に行った。


僕は傍に来てくれたユリに苦笑を見せた。

「うっかり寝てた」

「そうね」

とユリが笑い返してくれる。


「今、何時?」

「もう9時半。もうそろそろよ」

「そっか。ありがとう」

なんだか、ユリが嬉しそうだ。僕をじっと見つめている。なんだろう。


「今日で25歳でしょう、サク」

と、ユリは小さな声で僕に教えるように言った。『パパ』と呼ばないので二人だけの会話だ。

「うん」

と僕も頷く。


研究所で生まれた人は大体、公式の誕生日が4月1日だ。

本当に生まれた日は、その時の事情によって違うらしいけど、大体4月生まれで調整されるので、同じ日にまとめられているらしい。


「・・・『サクさん』に会えた、って思ったの。出会った頃の」

ユリがはにかんで、その表情に僕も出会った頃のユリを重ねた。

「懐かしい?」

と聞いてみる。


「嬉しい。私、だって、『サクさん』を好きになったのが始まりだもの」

僕は昔、姿を25歳にして、バスの運転手をしていた。

「懐かしくて嬉しくてあの頃を思い出してしまうわ。だけど、私だけ年を取ってしまった気分」

ユリの苦笑に、僕の方が苦笑してしまう。


手を伸ばして頬に触れる。

「ユリは今も変わらず綺麗で可愛いよ。愛してる」

「もぅ・・・。嬉しい。私もよ、サク」


結婚して9年目だけど、新婚みたいな気分になった。

お互いに照れてはにかむ。


***


さて、今日から新年度。

僕は25歳になり、息子のカオルは今年度に6歳になる。ちなみに娘のキヨラは2歳。


今年度から、6歳から11歳の子どもたちを、月に1度程度、小さなグループごとに集め、一緒に遊ばせる、という日が設けられることになった。少子化が進む社会の新しい試みとして。

ちなみに今までは、学校に行くのは12歳からで、それまでは自宅で過ごすのが普通。


そしてこの度、僕は、この地域付近の皆を集めて回るバスの運転手をすることになった。

タイミングが計られていた気がするけど、丁度息子のカオルが対象年齢になるので、カオルもその方が嬉しいかなと思ったからだ。同伴する保護者も兼ねられるし。


なお、研究所のソウも対象だ。

ソウは今年度で11歳。元気に過ごしている。ソルトに言わせれば、無事に統合が進み、生まれてくる前の記憶などは消えたようだ。

確かに、話していても、『昔はこうだった』なんて不思議なことを言いだす事もなく、ごく普通に思える。そしてソウは好奇心旺盛な性格に育っている。たまに意外な行動をして度肝を抜く。


なお研究所は別のプログラムで教育がされるから、僕もソルトも普通の学校に行ったことが無い。

だけど、研究所で育っている子どももいると広く知られたので、ソウは行ける事になったんだろう。


***


さて。


「じゃあ、行ってきます」

「ママ、いってきます」

「いってらっしゃい。カオル、みんなを優しく出迎えてね」

「うん」


お迎え用のバスの運転座席に乗り込んだ僕と、その後ろの座席に座ったカオルとを、ユリが、娘のキヨラを連れて、見送ってくれる。

キヨラは、僕たちがどこに行くのか不思議そうだ。


一緒に行けたらいいんだけど、色々あって、ごめんね。


***


今年度対象となったのは、僕の住む地域には、カオルとソウもいれて6人だ。

なお、バスの運転手に決まってから、僕は皆の家にカオルを連れて挨拶に回り連絡先も交換しているので、一応ちょっと顔なじみだ。


とはいえ6人全員が顔見知り同士でもないので、それぞれ緊張している。

一方で、明らかにワクワクと乗り込んでくる子もいる。それぞれ、保護者が1人ついている。


「今日、カオルくんの家にいくんだよね」

と一人がカオルに声をかけた。

カオルがコクン、と頷いた。

「うん」


「畑があるんだよね」

「うん」

他の子も興味を引かれたようで会話に耳を澄ませている。


「ウズラ、生きてるの、何羽いるの」

「6羽だよ」


「カオルくんも世話してるの?」

「うん」


「僕も触って良い?」

「駄目だと思う。ウズラって怖がりなんだよ。僕もあまり触らない。キヨラも触ったことが無いよ」


「キヨラって?」

「妹」


「妹がいるんだ」

「うん」


子どもたちのそんな会話も聞きながら、最後に研究所へ。


ソウとソルトが待っている。ソルトがソウの保護者としてついてくる。

意外にもソウは緊張しているように見える一方で、ソルトはなんだか嬉しそう。ソルトも学校に行ったことが無いので、この日を楽しみにしていたのだ。

リクさんが、2人の見送りに出ている。


ところで、ソルトは今もリクさんにアプローチ中だ。


たぶん、僕よりユリの方が詳しい状態だけど、どうもリクさんは、ソルトには幸せになって欲しくて、自分は親で、だから他に目を向けて欲しいと願っている様子だ。

そこをソルトが一生懸命頑張っている。


どうなるのか僕には分からないし、誰にも分からないような気がする。


とはいえ最終的には、ソルトが諦めるか、リクさんが受け入れるかの2択のはず。

ソルトはまだまだ諦めなさそうだし・・・どうするのかな。


さて。


「サク。なんかその姿懐かしいね」

なんて、ユリと同じ様な事をリクさんは言った。

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