93.楽しかった思い出
ソルトが僕たちをチラ、とみて、視線と瞬きだけで僕に感謝を伝えてきたのが分かった。
うん、ソルトの依頼を成功させるため、結局、蒼と茜にも打ち明けたのだ。ソルトもそう分かったのだろう。
ソルトとリクさんが左の方に歩いていくのを見つつ、蒼たちと場所について相談する。
せっかくだから夫婦ごとに過ごすのも良いなとそれぞれ思っていたようだ。
結果、蒼と茜がこの場所に残り、僕とユリが右側に歩いていくことに。
***
昨日はみんなで見たけれど、ユリと2人だけで見る月は昨日より特別に感じられる。
月に照らされているユリの横顔。見ているだけで幸せになれる。月の光で瞳が煌めいて見えるのも本当に綺麗だ。
「・・・なぁに?」
手ごろな岩に2人ならんで腰かけてしばらく無言でいた後で、ユリは僕がユリに見とれているのに気づいておかしそうに笑った。
笑みを返して、頬にキスする。
くすぐったそうに笑って、ユリも頬に返してくれるところを唇に。
見つめ合ってまた笑み合う。
手を握り合って、月と海を見る。ユリがもたれる重さに暖かさと幸せを感じる。
「・・・ソルトちゃん、リクさんが好きなのね」
とユリは言った。
「うん。色々応援して欲しいって、前から言ってたんだ」
「そう。・・・ねぇ、リクさんには恋人はいないの?」
気付いたユリが僕の顔を見ようとする。
「隠されていたら分からないんだけど、聞いたことないよ。あんなに忙しそうだし、いないと思ってる」
「そう・・・」
「ソルトは自分がリクさんを幸せにする、って言ってるんだよ」
「そう」
「うん」
「サクはソルトちゃんを応援してるのね」
「うん。リクさんの気持ちは聞いたことはないけどね。もし困ってたら、考えないといけないけど。・・・ただ、まぁ、リクさんにとって、僕たちは全員、子どもで。リクさんが親という意味で。だから・・・ソルトはすごく頑張ることになるのかなと、勝手に思うよ」
「ソルトちゃん、叶うと良いな。可愛いもの」
「そうだね。2人で今、どう過ごしてるんだろうね」
***
時間に戻ると、丁度リクさんとソルトも手を繋いで向こうから戻ってくるところだった。
手は繋いでいるけど、いつも通りに見えるような?
ソルトにさりげなく視線を送ってみれば、ソルトには珍しく、戸惑うように視線を伏せてからまたチラと僕をみた。
うーん?
とはいえ、『どうなった』なんて聞くのも野暮だ。
ソルトが何か相談してきたら考える、という方向で行こう。
***
戻ってそれぞれの部屋で就寝に。
ちなみにソウは一度も起きなかったらしい。それは良かった。
なお、明日に帰る予定だ。
***
起床。
楽しいこの予定も今日で終わりか。と思うと残念だけど仕方ない。
朝ごはんのためにリビングへ。
ユリと移動中、後ろからつつかれたので振り返ったらソルトだった。1人だ。
「昨日は、ありがとう」
とソルトはちょっと澄ましたようにしながらお礼を言ってきた。
「うん。僕たちもそれぞれ過ごせてよかったよ」
「そう」
僕たちの会話を、ユリは微笑ましそうに聞いている。
ソルトはユリに視線を向けた。
「ユリちゃん、あの、また色々、教えてくれる?」
「?」
ユリは笑顔ながら、意味を掴み兼ねたようだ。首を少し傾げた。
「あ、あの、私と、連絡先、交換してもらっても良い?」
「えぇ。喜んで」
二人が通信具を取り出し、直接連絡できるようにしている。
「おはよー、ユリちゃん、サクさん、ソルトちゃん! え、私も混ぜてよー」
茜たちもやってきて、茜の方は通信具を出してソルトにお願いしている。
ソルトは驚きつつも、コクコク、と二度頷いて、茜とも交換した。ソルトは嬉しかったらしく、幸せそうな笑みを浮かべた。
「あの、昨日は、ありがとうございます」
とソルト。
「どうだった?」
とは茜。
「あの、また相談に乗って欲しいです。お願いします」
ソルトが意を決したように茜とユリを見上げている。ユリと茜が顔を見合わせて、ソルトに笑んだ。
「もちろん! 何でも聞いてね」
「えぇ」
「ありがとうございます」
ソルトがまた嬉しそうに目を伏せて笑んだ。
昨日のことは僕には分からないけど、ソルトは味方を得た様子だ。
気づけば、茜の傍の蒼は勿論、むこうの部屋から顔をのぞかせる形で、ガーホイもソルトたちを見守っていた。
***
ガーホイと一緒に朝食を作る。
ちなみに、今日は皆すでにリビングにて、それぞれの朝食を注文している。料理見学は昨日で十分だったのかもしれない。なお、ガーホイは自分の分を、僕は素材をガーホイから貰ってソウのご飯を作っている。
「実は昨日よ、ソルトちゃんの会話とか聞いちまっててよ」
「あぁ、ガーホイさん、耳が良いですし」
「内緒話って分かるんだけどよ、ハッキリ聞こえちまって」
「聞こえちゃったら仕方ないと思います、申し訳ないとか思わなくても良いと思いますよ・・・」
「おぅ。・・・なぁ、この中では俺以外に耳が良いやつっていねぇよな?」
「はい」
「分かった」
「あ、ソウは同じかもしれませんが、まだ幼児ですし」
「お。そうだな」
二人で料理器具を使いつつ、リビングには届かない音量で会話する。
「だけどよ、ソルトちゃんも頑張ってんだな」
「そうですね・・・」
「実はよ、俺も、ジィ様たちが親戚筋の子、紹介してくれるんだとよ」
「え。良い話ですね」
「おぅ」
料理は完成。そもそもあまり手の込んでいないものばかりだ。
皿に盛る。
「なぁ、うまく行くと思うか?」
とガーホイが僕に聞いてきた。
僕は少し首を傾げて見つめてしまった。
「どんな人なのか分からないですし・・・性格が合うと良いですね」
「おぅ」
「あ、ガーホイさんの事を知ってるご老人方のご紹介だから、ご老人から見て合いそうな人かも・・・?」
「おぉ」
ガーホイの目が輝く。
あれ、あまり期待させすぎてはいけないだろうか。詳しくを知らないから、無責任なことを言ってしまわないようにしたい。
「困った時頼るぜ、サク坊」
「はい。僕でお役に立てれば」
「おぅ。役に立てそうなときに頼るぜ」
「はい」
僕は真面目に頷いた。
ガーホイがニカッと笑った。
***
ご飯を食べた後、少し海で散歩。
そして僕たちはガーホイの家から帰ることにした。
「また来てくれよ!」
「はい。本当有難うございました。ものすごく楽しかったです。またお願いします」
ガーホイと蒼が。
「ユリちゃん、また遊ぼうね。本当に楽しかった。また誘ってね」
「私も。会えて本当に嬉しかったわ。また絶対遊ぼうね」
茜とユリが。
僕とリクさんとソルトとソウは、もちろん宿泊へのお礼は告げるけど、どちらかというとそれぞれの別れを見守っている。
ガーホイには、また3・4日の頻度で研究所で会えるからだ。
そして、それぞれの会話が落ち着く時が来た。
また会おう、遊ぼうね、と約束し合って、それぞれの帰路についたのだ。




