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87.日常

その日も、ソウは弾けるような笑顔で立ち上がった。廊下に続くドアの前にトテトテと歩いていく。


ドアが開いた。

「まんまー!!!」

「おぉ、ソウ! 元気だなぁ!」

ガーホイが、顔をほころばせ、ソウを撫でてから片手で抱き上げる。もう片腕は大きな荷物を抱えたままだ。

なおソウが出迎えるのは、部屋のAIが到着を告げたのを聞くからだ。


「まんまー! まんま!」

「今日は、ヒラメ持ってきたぞ! フライにすりゃ旨いからな!」

「きゃぁーい!!」


「ほら、高い高いだ!!」

「きゃーあああい!!」


ガーホイも嬉しそうだけど、ソウのはしゃぎっぷりが物凄い。

微笑ましい。


***


「あのさ・・・ソウって、ガーホイさんのこと、『まんま』って呼んでない?」

僕とソルトの2人で、ガーホイから受け取った魚を調理室に運んだ時だ。


「リクさんがそう呼ぶよう教えたのよ。ここだけの話」

ソルトもそっと声を落とした。

「リクさんのささやかな嫌がらせよ。ソウって、リクさんがいてもガーホイさんに駆け寄るんだもの。保護者は自分で一番心を砕いてるのにって、ついに拗ねたの」


それは・・・。でも・・・。

困惑した僕に、ソルトが深刻そうに告げる。

「リクさんに指摘しちゃダメよ。リクさんだって自分の心が狭いって気づいているのよ。大目に見てあげましょう。確かに私も嫉妬しちゃうぐらいソウはガーホイさんが好きなのよ。毎回美味しいサカナをくれるのだからそれも大きいの」


ソルトは僕に指導を入れた。

「良い? サクくん。ガーホイさんにリクさんの犯行だとバレた時には、私たちで一生懸命取りなしてフォローするのよ。それが私たちの役割よ、そう思わない?」

「・・・ぅ、うーん」

「ガーホイさんなら大目に見てくれると評価しての犯行なのよ」

「そっか・・・」


僕とソルトに微妙な空気が漂う。


***


やっぱりソウはガーホイが一番好きだとよく分かる行動をする。

はしゃぎようが物凄い。


そうかぁ、リクさん、嫉妬したのかぁ。

と、リクさんの気持ちも察してみたりできるようになった。


ちなみにガーホイは自分の名前として『まんま』と呼ばれている事には気づいていない。

まぁ、ソウももう少し大きくなれば自然と分かって直すよね、とソルトとは密やかに話し合っている。


そのガーホイは、3・4日に1度ぐらいの頻度で、ソウに会うために釣れた魚を持って研究所に来てくれている。


結局、ソウの味覚は、ガーホイたちの味覚に近かったのだ。

研究所の食べ物には顔をものすごくしかめ、ガーホイや僕が持って行く食材を使った料理はご機嫌で食べる。


そんなソウのために、ガーホイは海で魚を釣り、僕は畑で野菜を育て、ペットを兼ねてウズラを飼育する、そんな生活になっている。


***


毎日、幸せに過ぎている。


ちなみに僕のスケジュール。

起床。

それから、朝食前に、畑とウズラの様子を見に行くことにしている。

食べたい野菜を取って、ウズラの卵も収穫する。そして、余裕があれば炒めたり茹でたりしてそれを食べる。

とはいえユリは、とても食べられない、との事で、ウズラの卵を口にしない。卵からはヒナが孵ると知っているし、どうしても無理なのだそうだ。

だけど野菜と一緒に卵も炒めた料理の状態にすると食べられるので、時折そんな風にして食べている。


さて、畑とウズラだけど、AI管理であまり手間を取らない。

野菜は分解されないように設定してあるけれど、例えば野菜の育成に害があるものが出た場合は、それは分解のパイプに吸収し、管理下の物質に戻すようにしてあるし、水も肥料もAI制御。

肥料と土は、定期的に僕の家まで届けられるものを使用するので、それを全体に使う時は大変だけど、畑のサポートに、ゼン、と名付けた僕用の人型AIを使う事にしたので、やっぱり僕の手間など知れた程度だ。


基本的には、ゼンがオススメする野菜を収穫し、回収されたウズラの卵を見て、元気そうだと目視チェックできたらそれで終わり。


なお、ユリの友人である蒼と茜が、食べてみたい、と言ったことから始まって、ユリのご両親やお友達、興味を持った人へのお裾分けや販売用として、畑の規模は少し大きくなった。


ウズラは、ヒナを見たい、育てたい、という僕たちの希望をくんで、一度、チーム関係のウズラ担当の人がオスのウズラを連れて来てくれた。その結果、卵からヒナが4羽が生まれて育ち、現在ウズラは6羽になっている。なお、メス5羽。


ヒナは本当に小さくて可愛い。卵から孵して育てたウズラは、僕とユリにとても慣れている。触って撫でると嬉しそうに見えるほどだ。


とはいえ、生きているウズラから生まれた卵を食べる、というのは特に普通の人には抵抗があるようだ。食べてみたいから卵が欲しい、という希望者はあまり出ない。

一方でペットとして飼いたい、という人はちらほら出る。

チームのウズラ担当の人に相談の上、すでに何人かに卵の状態から譲っている。

ちなみにウズラ担当の人について、驚くほど行動力があって本当にすごいと思っている。だからこそ、この時代に食用の鳥を育てるなんて実行できたのかも、と思うほど。


さて。

野菜と卵を収穫したら、家の中に戻って、作れる料理は作って、ユリと朝食。

話題は、畑で取れた野菜を今日は誰に送るか、というようなことが最近多いかも。

僕の畑は中央のチームのネットワークに入れてもらっているので、僕からも野菜を送る一方、他の希望したものを送ってもらえるから、どう食べよう、こういう料理は作れるかしら、という話をしたり。


朝食後は、野菜を箱に入れて、行き先ごとに車を借りて、無人運転で希望者や購入者たちに送る。

箱を乗せて行き先指定するだけなので簡単。


とはいえ、荷物は小さくて近場だったりするのに、1軒ごとに車1台というのを見て、ユリは効率が悪い気がする、と考えた。

というわけで、『分解されないまま、効率よく希望者に荷物を届ける仕組み』を過去の歴史から調べて、今の時代に使えるように調整してくれているところ。


ユリはその新しい仕組み作りにやりがいを感じているみたいだ。仕事について悩んでいたから、アイデアを話したりとワクワク取り組んでいる様子が楽しそうで、僕も嬉しい。


なお実際、それが使えるようになれば僕たちは助かる。チームの人たちもユリに期待している。

「神かよ」なんて言い方で褒められている事は、ユリには秘密だ。


そんな状況に、ユリはすごい、と僕も今更ながらしみじみ思う。

外見年齢を変えるという特異体質の僕と結婚してくれ、事故の時には、僕を助けるために、秘密にしていた地下の仕事やそこで働く人たちの事を広めた。

結果、影響がいろんな形でどんどん広がっていて、色んな交流も生まれている。


ユリって僕にとってやっぱり女神様。

なんて僕も思ってみたり。


あまり口に出すとありがたみが無くなりそうなので、本人にはあまり言わない。出し惜しみ。

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