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86.食べるもの

夕方を過ぎて。研究所。


「まんま! まんま!」


ソウが、もっとくれ、足りない、と訴えている。


タイを焼いてもらって急いで研究所に持ってきたものを、ソウの離乳食にしてもらった。

まだ離乳食を食べ始めて2日目だからと、スプーンに少しだけ。


そのわずかを口にした途端、ソウの目は一瞬丸くなり。急に身を乗り出し、両手をバタバタさせ、まんまコールを始めだした。必死だ。


ちなみにガーホイは勿論、今回はお店の人もヴェドもいる。面白そうにソウを見ている。


「あのなぁ、ソウ。お前、今日が離乳食2日目だぞ。今日はそれで終わりだ。さっきミルクも全部飲んだじゃないか」

僕がソウを抱いている横で、リクさんが空になったスプーンをソウに見せて、小言を言っている。


「良いじゃねぇか。食えるんなら食わせちまえば。明日になれば味も落ちちまう」

とお店の人。


リクさんが咎めるようにお店の人を見た。

「赤子は身体機能が発達途中だ。まだ出来上がってもない状態なんだ。欲しがるままに与えて体調を崩したらどうする。体力もないからちょっとしたことが命に直結する。子が未熟な時期ほど保護者がしっかりサポートすべきだ」

「お、おぅ。悪かった」


「まんまー!!」

貰えないと分かったソウが暴れ出した。

「わー、ソウ! 落ちるから! 反らないで!」

僕が慌てて、隣のユリも驚いてソウを支えようとする。


「なぁ、俺たちも抱いていいのか?」

「えっ、今暴れてますけど」

「気を付けてくれ。絶対落とすようなことしないでくれ」

とリクさん。

「あぁ。十分気を付ける。おい、来い、ソウ」

お店の人が手を広げる。

が、ソウはさらに暴れた。

「まんまー!!!」


「やっぱりもう一口やった方が良いんじゃないか?」

とガーホイが困ったようにリクさんを見る。


リクさんがため息をついた。

「・・・本当に・・・ちょっとだけだからな、ソウ」


***


ソウが、再び空になったスプーンを名残惜しそうに見ている。凝視だ。


その状態で、ガーホイ、お店の人、ヴェドまでもがソウを抱っこした。

何をされてもスプーンに未練を残しているソウは、どうやら食い意地が張っている。


ヴェドはすでに呆れている。

「おい。ソウ。ほら、高い高い、だ」

慣れた様子でソウを高く上げる。

やっと、ソウが、急に気づいたように、喜びだした。


少しの時間、みんなで賑やかに過ごすことになった。

ソルトもいればな、と思ったけど、この時間はソルトは勉強だそうだ。


***


帰る時に、リクさんが皆に、

「来てくれて助かりました。ありがとうございます」

とお礼を言った。


「なぁ。毎日は難しいと思うけどよ、魚とか、届けようか? 有料にはなるけどよ、その方がソウのためにも良いんじゃねぇのか?」

とガーホイが気遣うようにリクさんに言った。

リクさんが不思議そうに見つめ返す。


「サク坊も、せっかく土地があるんだ。ネットワークの一つに入ったらどうだ。そしたらヒナもたくさん育てられるぜ」

とヴェドは僕を見る。

僕もきょとんとした。


「まぁ待てよ。まだサク坊にちゃんと説明してないんだぞ」

とお店の人が、ガーホイとヴェドに注意を入れる。


「でもよ。やるなら早い方が良いと思うぜ。サク坊の方は後でも良いと思うけどよ」

とはガーホイ。

「どうせなら同時で良いだろうが。近いんだしよ。それに魚だけじゃバランス悪いぜ。サク坊のとこで他の育てりゃ一石二鳥だ」

とヴェド。


リクさんと僕とで、お互い理解していない事を確かめるように顔を見合わせる。


「もうちょっと整理できてから説明するつもりだったんだがな」

お店の人が少し呆れたようにした。


***


僕たちは、三人から勧誘を受けた。


中央のチームの人たちは、味覚が発達している。

そして、各所で、食材を自分たちで育てている。

育てるにあたっても好きな分野をしているから、物々交換で、物資が周るようにしているらしい。


分解してしまうとせっかく育て上げて収穫する意味がないから、分解されないように、人が使う移動手段を活用する。

人がついている場合もあるけれど、自動運転で荷物だけ運んでいる場合もあるそうだ。


「どうだ、やるか?」

「・・・やります。良いかな、ユリ」

僕は少し考えて答えてから、隣にいるユリを見た。

ユリはじっと僕を見ていた。


皆が僕たちの会話を見守っている。


「えぇ。サクがやりたいことをすればいいと、思うわ。家に作った畑で、野菜を育てたり、ウズラを育てたりするのでしょう?」

ユリの言葉に、僕は頷く。

「良いと思うわ。サク、前に言ってたわ。私と過ごして、太陽の当たる場所で働ければ良いなって。だから、とても良いと思う」


覚えてくれていたことに、僕は嬉しくなった。顔がほころんでしまう。

するとユリも笑ってくれる。


「仲が良いのは分かったけどよ。見せつけないでくれるか、サク坊」

ヴェドが呆れてしまった。


その言葉にも照れてしまう。

僕はにこやかに皆に返事をした。

「僕、では畑で色々育ててみます。ご指導、どうぞよろしくお願いします」

「おぅ。まぁ、まだこっちも準備とかあるからな。徐々にだが、頼んだぞ」

「はい」

「サク坊のとこのは、ソウに食わせれば良いんじゃねぇか?」

とはガーホイ。

「そうだな」

とヴェドも頷いている。


「そのあたりもこれから決めよう。で、こっちは勝手に話を進めてるが、研究所としてはどうなんだ?」

とお店の人がリクさんに確認した。


「・・・研究所としての返事はできないな。だけど、サクが畑をするなら、僕も食べようかな。成分に問題がないかは毎回チェックするけどね。だけどソウに何を食べさせるかは、慎重に考えさせてもらう」

「はい」

僕は頷いた。

リクさんは食べてくれるのかと思うと嬉しい。

ソウについては慎重なところも、リクさんだなと思えて頼もしい。


ソルトは何と言うだろうか。食べてみたい、と彼女なら言ってくれそうな気がする。

なんだか、作る事に意欲が湧いてくる。


「魚の方だけど・・・ソウの今日の『まんま』コールが激しかったけどね。そもそも魚を食べさせたこと自体が初めてなんだ。だけど、普通に研究所で出したものと同じ反応かもしれないから、返事は保留させてもらいたいんだ。良いかな」

「そうか。分かった」

「リクさん。あの、やっぱりソウは、研究所の外のものを食べさせた方が、良いと思います」

と僕は口を出した。


「どうして」

「・・・研究所の食べ物が心配だから。それにソウはこれから大きくなるから、少しでも身体に良さそうに思えるものを食べた方が良いと思うので」

と、答える。

本当は、ソルトがソウについて言ったことが気になっているから。


リクさんはじっと僕を見る。

「まぁ、そうだな、明日に、今日の残りの魚と、研究所の魚と食べ比べさせて、反応を見るよ。成分分析もしてみたいしね」

「成分分析では劣ると思うぞ。検証済みだ」

とお店の人。


「なのに、きみたちは劣る方が美味しいと判断しているのか?」

「実際そう感じるんだ。重要なのは、その状態で本当に生きてたモノか、ってところだと思ってる」


「そうか・・・」

リクさんは頷いた。

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