84.海の人たちと会話
研究所から帰宅すると、ユリが僕を外に連れ出した。
「畑にいるウズラがね、今日、卵を産んだの」
見に行く。ちなみに、畑の管理もAIに設定したので、僕たちが行くと、卵の場所を赤い光で示してくれた。
「本当だ。小さいね」
「これって、ヒナがかえるのよね」
「・・・皆の言い方から、多分、卵は食べろって感じだった気がするけど。置いとけばヒナになるのかな」
「えっ、食べるのなんて嫌よ! どうすれば良いのか分からないし怖い!」
僕の言葉にユリが慌てる。
僕は頷いた。
「皆に、どうすれば良いのか聞いてみる。ヒナも見たいよね」
「えぇ。・・・ヒナって、どう育てるのかしら。AIで大丈夫よね・・・? ペットで鳥を飼う人もいるし」
「確認しようよ。設備もいるかもしれないし」
「えぇ。・・・ねぇ、食べるのは無しよね?」
「うん。ヒナを見たいよね」
***
昼食後、僕はガーホイたちに連絡をした。
連絡事項は何点もある。
まず、ソウのために、白身魚をお土産に欲しいという事。
いつ帰ってくるのかという事。
ウズラについての相談。
画面に現れたガーホイは、揺れていた。加えて、気のせいでは無くて、こちらで会った時より肌が黒くなっている。
『おー、サク坊』
「こんにちは。もしかして、今も海ですか?」
『おぅ。大漁だ』
「あの、釣りすぎに注意した方が良いですよ。個人に割り当てられた資源より釣り上げちゃうと、お金取られますよ」
『おぅ。2日前に警告来てよ。そこはダブルセブンが調整済みだ』
「2日前。そうでしたか。・・・すごいですね」
『おぅ。それによ、分解物質のパイプが届かねぇ資源の管理領域外らしくてよ、深海が。そこからも大量に釣ってるからよ、逆に褒美が出るってよ』
『おー。元気かー? サク坊も来てみろよ。大漁だぜ』
ガーホイの後ろから、お店の人がひょっこり映り込む。
「ふと疑問に思ったのですが」
『おーなんだ』
「そんなに釣り上げて、全部、食べきれるんですか?」
『いや』
『冷凍で各地に送る手配をした。魚担当もいるが、釣れる魚の種類がまた違うからな。貴重な食料だ』
『このままここで釣り担当もアリだって話してるぜ』
画面に映っていないもう1人、ヴェドの声も聞こえる。
釣り担当・・・。
味覚が鋭すぎるチームの人たちは、各地で生き物を育てて食べ物としてると聞いているけど、こんな風にポイントが増えていくんだろうか。
『まぁ、俺は仕事に帰るけどよ』
とヴェドの声。
『俺もそろそろ帰らねぇと、他のヤツらが首を長くしてる。あと、そろそろ持ち込み量の限界を超えちまう。手荷物として運ばねぇと。普通の転送じゃ分解されちまうからな』
とはお店の人。確かに、中央の皆が、お店の人の料理を待っているだろう。
「へぇ・・・」
『俺が残ろうかなって思うんだ』
ガーホイがニコニコしている。ものすごく楽しそうだ。
「そうでしたか。あの実は・・・。ソウの離乳食に、白身魚をいくつかお土産にもらえたら嬉しいなって思っているんですが、皆さん、こっちに戻ってこられますか? 無理なら残念ですが、仕方ありません」
『おぅ。サク坊たちにも持って帰る予定だ。おぃ、釣りは今日までにして、明日一旦サク坊のとこ戻るか? どうだ』
とお店の人が聞いている。
『おぅ』
『おぅ』
明日か。僕は画面に向かって頷いた。
『サク坊、白身魚ってことだが、種類に指定はあるのか? まぁ色々持って帰るからよ、そこから使えるの使えば良いんだが』
「あ、リクさんに確認します。また返事させてください」
『おぅ』
「サク、サク」
通話中、隣のユリが小さな声をかけてきた。
なんだろう。
「離乳食の魚、タイかヒラメかカレイがオススメよ」
え、そうなんだ。
僕は頷いて、画面に向かって伝えた。
『魚、タイか、ヒラメか、カレイ、が希望です』
『おぅ。分かった。奥さん物知りだな』
「はい」
隣を見ると、ユリが少し恥ずかしそうに僕に笑んだ。
「授業で習うもの」
と僕にだけ小声で伝えて来る。そうなんだ。僕もユリに笑顔を返す。
『じゃ、そろそろ切るぜ』
「あ、待ってください、もう1つ」
『おぅ』
「皆さんがお土産にくださったウズラが卵を産んだんです。ヒナにしたいんですけど、どうしたら良いか育て方とか教えて欲しいんです」
『ん? 食うための土産だぞ』
『ヒナぁ?』
「えっと・・・はい。ヒナが見たいなって」
『ん? 育たない卵しか産まねぇはずだぞ。メス2羽だからよ』
とお店の人。返答に驚いて、隣のユリを見ると、ユリもショックを受けた顔をして僕を見る。
「えっと、じゃあ」
『食え』
『ヒナ育てるつもりだったのかよ。土地あるし育てちまえば良いだろうが』
と画面に映ってないヴェドが言っている。
ちなみに、画面の主であるガーホイは映っているけど、現在は無言でお店の人の回答を待っている。
『ヒナにしたいなら、繁殖にオスを持って行く必要がある。まぁ、すぐでなくて良いだろ。そっち担当のヤツに聞かねぇと俺も詳しくないぞ』
「はい・・・」
じゃあ卵はどうすれば・・・。
『卵1コかよ、サク坊。2羽だから2コじゃねぇのか? なぁ』
とガーホイが向こうで皆に聞いている。
「1コです」
『1羽さぼってんな』
とヴェド。
『環境変わったからじゃねぇか。慣れたら毎朝2コになるかもな』
とお店の人。
「毎日2コ・・・毎日?」
隣で、ユリが動揺を伝えようとして小声で僕に呟いている。
「料理しか無いのかも」
と僕も小声でユリに返す。
ユリがまたショックを受けている。
「あの。明日まで卵を置いておいても大丈夫ですか? 皆さんが来られた時に、どうしたら良いか教えてください」
『おぅ』
『じゃあまた明日な! サク坊!』
『おーじゃあなー』
お店の人、ガーホイ、ヴェドから返事を貰って、通話を終了した。
隣のユリを改めてみると、ウズラの件で、ちょっと口を開けた表情で僕を見た。
苦笑してしまう。
「ヒナ、ヒナが良かったわ」
「うん」
ちょっと泣きそうにそんな風に言うので、頭を撫でて慰めた。




