77.ガーホイについての判断
『担当者もさぁ、事件当時は生き残ってた。・・・事件の数年後に亡くなってる。ひょっとして、亡くなったという嘘で、彼を外に出したかもしれないね』
「うーん。・・・あ、ソルト、そこにいます?」
『ソルト? 隣の部屋にはいるよ。今授業中だ』
「ソルトにも相談してみたいんですが」
『駄目だ』
急にリクさんがピリッとした。
「え、はい」
『ソルトにそんな話題を教えないでくれ』
「はい」
僕は怒られている。リクさんは、ソルトの保護者だと、妙に実感できる。
『彼女が自分に関連する何かを知って気に病むことをしないでくれ』
「はい」
そうか。ソルトだって、当事者の一人で。頼りになるけど、彼女はまだ9歳の子どもだ。
僕だって、ドーギーに初めて聞くまで詳しく知らなかった。それはリクさんが僕を守ろうとしたからだ。
僕は知ってしまったし、今回の連絡でそのことも一緒にリクさんに打ち明けているけれど。
ソルトは賢いから、もう知っているような気もする。ソウの事だって知っているぐらいなんだから。
だけど、リクさんはソルトには教えていないのだ。
『・・・この件、判断、サクがすると良い。何が正解か分からないものの方が、この世の中には多いんだからさ。判断して、覚悟を負うように。で、結果は僕にメッセージ送って欲しい。彼の入館禁止を解除してあげるよ』
「え、良いんですか?」
『僕は良いよ。サクの判断を信頼しただけだと、僕は答えるだけだからね』
「はい・・・。あ、あの、行った場合、研究所のセキュリティとかは・・・」
『はは』
リクさんはとても軽く笑った。
『サク、研究所の色んなレベルなめんなよ。貴重な子どもたちが集まる「学校」よりもセキュリティレベル高いんじゃないか。遺伝子預かってるからさ』
「はい。安心しました。じゃあ、考えてみます」
『うん。ちゃんと考えて判断しなよ。それがきみの今後の生きる力になるから』
「・・・はい。ありがとうございます」
***
うーん。
リクさんには判断を任されてしまったので、ユリにも相談して、二人して悩んだ。
ちなみにユリは、僕とガーホイが2人になるのを嫌がっている。
今日みたいに家に招くわけでは無いので、どうしてもセキュリティ対策は軽くなってしまうらしいし、一般人である蒼は、さすがに研究所内まで僕について来れないようだし。
僕自身、ガーホイがどうなるか心配してもいる。つまり、僕の手に負えるかどうか。
ガーホイたちが良い人なのは、今日で僕はすごく安心できた。
一方で、明日、研究所に行くことで、例えばガドルが僕を突き落としてしまったように、突発的に破壊的な行動をしてしまうかもしれない、とも恐れている。
悩んでいたら、ユリがふと黙り、僕を無言で見つめているのに気が付いた。
どうしたんだろう、と瞬きして僕も見つめかえす。
「サクは、私と、ガーホイさんと、どっちが大事なの?」
「ユリ」
即答だ。迷う余地がない。
僕の答えに、真剣な表情のユリは嬉しそうに表情を緩めて、それからまた気を引き締めたように、僕をきっと強く見つめた。
「行って欲しくないって頼んでるのに、サクは全然聞いてくれない」
「・・・だって、僕だってガーホイさんと同じことになってたかもしれない。リクさんがいなかったら同じだったんじゃないかと思う。そう思うと・・・。それに、僕は毎日、ソウに話しかけに研究所に行ってて、ガーホイさんの願いは断るのに、僕は研究所に普通に行けることに、引け目を感じると思って・・・」
言い訳のように聞こえてしまう。
でも。
もし、僕がガーホイと同じだったら。
やっぱり、戻って、見てみたいと思うと思う。
急に事故があって、追い出されて、戻れなくて。担当者も死んでしまってて・・・。
会う人もいないかもしれないけど。
きっと、戻ってみたいと、僕も同じ様に願うと思うのだ。
それに、ガーホイは僕と一緒でないと、研究所に戻れない。今この時が、ガーホイにとって最後のチャンスなのかも、なんて思ってしまう。
とはいえ、僕はもうユリと結婚していて、ユリが不安を訴えて来る、気持ちも分かる。
僕自身も不安を感じているのも事実だし。
僕は自分自身に、大丈夫だ、と繰り返して納得させようとしている気もしてしまう。
「サクは、自分の気持ちを優先してる。ガーホイさんを優先してる」
「・・・ごめん、でも・・・」
「ほら、聞いてくれないわ」
「ごめんなさい・・・」
指摘に項垂れる。
「私がサクのような目に遭って、サクが私の立場なら、サクだって私と同じように『行かないで』って言うと思うの。だけど聞いてくれないわ」
「・・・」
本当にすみません。
だけど一方で、「じゃあ行かない」という判断も僕はしないんだな、と僕は気づいた。
僕は頑固なんだろうか。
それに、僕は意見を変えないなら、僕がまずすることは、ユリを説得することなのでは。
とはいえ、説得できるほど、僕も主張できない。ユリと同じ様な不安を、ユリより程度は軽いかもしれないけど、やっぱり感じているから。
「サク。じゃあ、私も行くわ」
「えっ!」
「え、じゃないわ。大丈夫なんでしょう? だったら私が行っても大丈夫でしょう?」
僕はとっさに答えられない。
ユリが、怒っているかも。
「良い? サクが、ガーホイさんを研究所に案内するというなら、私も一緒に行くの。それが私の妥協案なの。良い?」
コクリ、と僕はどこか恐れたように頷いた。
***
もう深夜だったけど、僕は必死の心持ちで、蒼に連絡を入れてしまった。
ユリが一緒だというのなら、僕は本当に真剣に対策をしないと。
自分の事だったら『なんとかなる、大丈夫』だったのに。ユリもついてくると言われると急に現実的になった。
深夜なのに応答してくれた蒼に心から感謝しつつ、状況を説明して、たぶん大丈夫だとも思うんだけど、万が一の対策は何かないだろうかと相談した。
『強化スーツっていうのがあるんだ。単純に防御力も上がるけど、脳波から人の動きをサポートするタイプ。とっさの判断を動きにできるんだ。申請出してくれたら使える可能性があるよ』
「うん。手続き方法を教えて」
『画面出すから、読んで、問題なかったら同意してください』
***
翌朝。
僕は、車の助手席にユリを乗せて、ガーホイたちの宿泊先に迎えに行った。
ちなみに、大人の姿で、蒼のお陰で許可がおりた、なんだかすごいスーツも服の下に着用中。
なお、深夜のうちに、ガーホイにも、それからサクさんにも研究所に行く旨はメッセージで連絡してある。
僕たちがつくと、あっという間にガーホイが飛び出してきた。
「サク坊、ありがとうな!!」
「どういたしまして」
目を輝かせていて、僕も、やっぱりこれで良かったと嬉しくなった。
続いて、お店の人、ヴェドも出て来る。
僕はその2人も見た。
「研究所には興味ない、俺は行かない。海に行ってくる」
とはお店の人。
「俺も研究所は興味ねぇな。それより、ここにもう一泊できるんなら、その手続きしてもらえねぇか? で、どっか面白そうな場所教えてくれ」
とヴェド。




