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76.ガーホイの願い事

僕は並ぶユリの腕をとり、その片手を両手でにぎった。

僕の感じたことが、ユリに伝われば良いのにと願って話した。

「皆が、お土産に、食べるものの苗を持って来てくれたんだ。鳥もいるんだって。卵を産むらしいよ。僕たちに美味しいものを食べて欲しいって。畑を作るっていってくれたんだ。僕、嬉しくて。僕の喜ぶようにって考えて、来てくれたんだ。本当に、嬉しいんだ。僕、中央のあのチームにいて良かったと、今、思ってる。いろいろ、あったし、それも事実だけど」


ユリが僕を見つめて、またガーホイたちを見やった。


「本当は、ユリに先に相談してから畑を作るべきだって思ったんだけど。帰る時間もあるから早くしたいっていう話で。・・・ユリは許してくれると思って、僕も嬉しくて、そうして欲しいと頼んだんだ。僕が畑の世話をするから。うまくいくか分からないから、いろいろ聞いたり相談してやってみようと思う。・・・良い?」


ごめん、相談せずに動いてしまったことを、どうか許して。


「・・・えぇ」

どこか緊張を緩めたように、諦めたように、ユリは息を吐いた。


それから穏やかに僕を見た。受け入れたように少しおかしそうに。

「鳥も、いるの?」

「ウズラだって」

「まぁ」

『みたい! みたい!』

と茜も興味を示したようだ。


皆で、畑を作ってくれているガーホイと蒼の近くにいく。

「おぅ、来たな」

とガーホイが嬉しそうだ。


「僕にもできますか?」

と僕も聞いてみた。

「サク坊はできるだろ。むこうで俺たちの動きについてきてたんだからよ」

「教えて欲しいです」

「おぅ」


家から、料理ができたとヴェドが呼びに来るまで、僕たちは外で畑を作った。

ユリと茜のAIは、特に2羽のウズラを見て喜んだ。


***


料理はとても豪勢なものだった。


蒼と茜も食べたいと残念そうだ。

転送してほしい、と茜が言ったけど、チームの3人はそれを渋って許可しなかった。

「転送なんかしたら意味ねぇんだ。これは俺たちが持ってきた素材使ってここで料理したんだ、ここで食うのが正解なんだ」


文句を言う茜には同意できる。茜は、これが分解されたことのない物質でできていることを知らないし、そこにこそ価値が置かれている事を知らないのだから。

蒼も残念がっていたが、代わりに、蒼と茜の家で同じような料理を注文して食べることにしたようだ。


そうして3人は、はじめにユリの希望していた時間は超過し、19時ぐらいに帰ることになった。

宿泊先は、ユリと茜が色々調べて決めてくれたところだ。


僕は心から来てくれた事のお礼を言った。

ユリも初めよりは随分気を許したらしくニッコリ笑ってお見送りをした。


ただ、最後に、ガーホイが少し挙動不審になってから、僕に向かってこう言った。

「サク坊、俺の相談に乗って欲しい。明日、暇か? 俺に付き合って欲しい」


なんだろう。


「その、あのよ」

ガーホイは、チラチラと、ヴェドとお店の人の方を気にしている。

「なんだよ面倒くせぇ」

「俺たちに聞かせたくない話か。胡散臭い」


「うるせぇよ・・・」

とガーホイが困っている。不思議だ。

「ったくよ。おい、先に車に乗り込むか」

「そうだな。手短にしろよ。サク坊困らせんなよ、ガーホイ」


車に先にヴェドとお店の人が乗る。

ガーホイと、僕と、ユリと、蒼のAI、茜のAIが残っている。蒼と茜が警戒しているようで、僕とユリの前に移動している。


ガーホイは気まずそうにチラと車の方を振り返ってから、蒼のAIごしに僕を見た。すがるように見えた。

「俺、その、追い出されてよ」


え?


「だけど、サク坊となら、帰れるんじゃねぇのかって、思って。居場所がねぇのは知ってる。担当者も死んだしよ。でも、どうなってんのか、見てぇんだ。ついてきてくれねぇか? ダメか?」


言葉にされていないけれど、僕には伝わるものがあった。

多分、僕以外の人がいるから、ガーホイは重要な単語を言うのを避けている。


研究所に行きたいと、いうことだ。


どういうことなんだろう。


「駄目だと、言われているんですか?」

「・・・まぁ、な」


「誰かに会いたいとか、ですか?」

「いや、会えるようなヤツ、いねぇはずだ、けどよ。近くまで、来たんだし・・・。今まで、他の場所に行ったことなんてねぇんだ。だから、サク坊が、来て良いっていってくれて、本当に嬉しかったんだ。・・・ありがとうな」

「こちらこそ・・・」

「俺たち、迎え先がねぇと、行けねぇんだ・・・」


そうだったんだ。


どうしよう。

「ドーギーは、知ってますか? その、行きたいっていうこと」

「言ってねぇ。言えねぇ」


「そうですか・・・」

「駄目か?」


「その、よく僕が分かって無くて、許可が出るか、分からないので、先に確認しないといけないかもしれません・・・」

「あぁ」


「えっと・・・」


どうしたら良いんだろう。


「連絡先、交換してもらって良いですか?」

とにかく、僕はガーホイと個人端末で連絡先を教え合った。


***


皆が車に乗り込んで去ってから、僕はリクさんに連絡をした。


「・・・ということなんですけど、その、ガーホイさんが研究所に行ってみるの、大丈夫でしょうか?」

『・・・入館禁止リストに入ってる。サクはどうしたい』

リクさんはすぐ調べてくれたようだ。


ガーホイは、僕が小さい時に起こった事件に巻き込まれた、研究所生まれの人の一人だ。

以前、ドーギーがそう教えてくれた。

担当者が亡くなったり、そうでなくても見放された人たちは、まだ社会に出る年齢になる前だったのに、社会に働き手として放り出されてしまったのだと。

ドーギーのチームにも6人が配置された。ガーホイはそのうちの1人。


「どうしたら良いんでしょう。何がしたいのかもよく分からなくて」

『まぁ・・・追い出されたから、単純に戻って様子を見たいというのも、あるだろうねぇ・・・』

リクさんもしみじみと考えている。


「見るだけなら、入る事ができればいいのにと思います。ただ、ショックを受けるのかなぁと思ってしまって。その時、どう動くのか予想がつかないと思って、迷ってしまいます。力も強いから、例えば急に怒りだしたら僕では止められないかもなんて、考えてしまって」

『彼は、いろいろ人間離れしてね。脳にもダメージが出た。それで放りだしたのかもしれない。・・・判断しにくいな。心情的には、里帰りさせてやりたいけど』

「・・・」



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