75.受け入れる
『・・・あの、質問しても良いでしょうか』
と蒼がこらえられないように切り込んだ。
「おぅ。なんだ兄ちゃん」
『ホンモノってどういうことですか。わざわざ持ってきたんですか? 生物のまま?』
「おぅ。分解されてないで世代を継いでるもんばかりだ」
と誇らしげにヴェドが答える。
『それ・・・どういうことですか? 管理対象外? 代々?』
「・・・だから言いづらかったんだろうがよ。秘密にしてくれんだろ? そもそも、気に入ってるモンとか、分解されねぇように逆登録するだろうがよ。それ使いつづけてやってんだ。違法じゃねぇよ」
「そうだぞ。おい、サク坊、どうだ、いろんなの持って来てやったんだからよ」
『待ってください、代々って、それ、管理から外れて別の要素が発生する可能性がありますよね?』
「なんだよ、お前秘密にしてくれるんじゃねぇのかよ。上は知ってんだから問題ねぇんだよ!」
『上? 認められてるんですか? そんなことがあるんですか?』
「知らねぇよ! 大体、お前関係ないだろうが!」
なんだか混乱し始めている。
「えーと。ありがとうございます」
と僕は少し困りつつ、とりあえず場をおさめるためにも発言した。
とはいえ、どうしよう。
正直なところ・・・。
「あの、お気持ちは嬉しいのですが、この家、ユリの理想がいっぱい詰まってて・・・畑はユリの同意も貰わないと、悲しむと思うので、話したいです」
思っているところを告げると、途端に3人ともがうろたえた。
蒼のAIもどこかキョトンとしたように僕を見ている。
「サク坊は、その、なんだ、やっぱり尻にひかれちまってるのか」
可哀想なものを見るような目で、店の人に言われる。
「え、そういうわけでは・・・」
「男たるもの、『俺が』って我を通す手がねぇのかよ、サク坊には・・・」
と言いながら、ヴェドも心配そうだ。
ガーホイは完全に憐みを湛えて僕を見ている。
「えー・・・」
言い淀んでから、僕は丁寧に3人に教えた。
「僕、幸せですからね?」
3人の、僕を見る目が変わらない。
そんな様子に困惑を覚えた僕は、一方で、どこかおかしみを感じ始めていた。
この人たちは、僕の事を心配してくれている。
結婚した僕が、不遇に陥っていないかということを。
「あのな。今日ダブルセブンが来たの、ここでサク坊たちにうまいもん食ってもらいてぇって、皆で決めたからでよ」
とガーホイがお店の人を指して言った。
「おぅよ。俺自身が土産ってことだ。ってことで、ここで調理させてもらっても良いか?」
とお店の人。
「え?」
調理?
「良いだろ?」
とヴェドが眉を寄せた。
僕は頷くことにした。
「・・・はい。お願いします」
『サクさん』
僕の返事に、蒼がそっと声をかける。多分、そんな動きは警備上困るんだと思う。
だけど。
大丈夫だと、僕は思った。
この人たちは、僕が喜ぶと思って、こんな風にしてくれている。
大丈夫だ。
僕を思って、いてくれている。
一方で、蒼たちも、僕とユリのために、こんな風に人型AIにリンクまでして、傍にいてくれているんだ。
僕は恵まれているんだな、と、体の中から染みわたるように、僕は思った。
そう思ったら、やっぱり幸せな気分になった。
「わざわざ、持って来てくださってありがとうございます。調理って、ここでできるんですか?」
『サクさん・・・』
「大丈夫。僕も料理してもらいたいんです」
『・・・』
「おぅ任せとけ。まぁ、言っても簡単になるけどな。じゃあさっそく始めて良いか?」
「はい」
「おぃ、で。畑はどうすんだ。まさかと思うが駄目なのか」
「うーん・・・」
「サク坊の趣味ってことにしとけばいいだろうがよ」
とヴェド。
「僕、うまく育てられるかなぁ」
「そっちの心配かよ」
とお店の人に呆れたように言われて、僕は笑った。
***
ユリと茜が部屋に戻って来た時、当然のように2人はあっけにとられたように、扉を開いたところで少し動きを止めた。
「おかえり。宿泊先、とれた?」
との僕の声掛けに、我にかえったようにユリが頷く。
「え、えぇ。・・・ねぇ、これは何をされているの?」
「晩御飯を作ってくれてるんだって」
「晩御飯・・・」
どこか呆けたように答えながら、ユリは僕の隣の席に腰を掛ける。
「奥さんはどういうモンが好きだ?」
とお店の人が、この部屋に一時的に取り寄せた調理台にて作業しながら聞いてくる。
「えっと・・・」
「希望に沿えれば良いんだが」
「例えば、パスタとか、好きです・・・」
「パスタ。麺類な。何系だ? 魚介? 肉? 野菜?」
「クリームソースの・・・ベーコンと野菜とか・・・」
ジュワッと調理器具から音が出る。
瞬間、ピーッと警告音が鳴った。
「あ、湯気か。悪い」
「温度じゃねぇの。普通応接室で調理はねぇだろさすがによ」
「台所借りるよりこの部屋の方が良いんだろうと思ってな」
「サク坊すまん、警報切れるか? 今鳴ってるヤツ」
「えーと、ちょっと僕には今無理ですかね」
「なんでだ、お前ん家だろが」
ピーピーと警告音が鳴っている。
「・・・サク、蒼くんは?」
「ユリ。実は勝手にたのんじゃったことがあるんだ。ごめんね」
僕は先に謝った。
「え?」
とユリがまじまじと僕の顔を見る。
***
僕はユリと茜のAIを連れて、外に向かった。
ためらうユリを促して案内した先。
多分大丈夫、と僕が判断できたエリアに、ガーホイが行って、畑を作ってくれている。
蒼のAIは、ガーホイについていくと言って、ガーホイと一緒に行動している。
たぶん、その時の様子から見て、警備上その方が安心だと考えたのかな、という気がする。家の中自体は、蒼は全体的に見てくれているはずなのだから。
ユリが信じられないものを見る目で僕を見つめた。
「勝手にごめんね。でも、大丈夫」
と僕はユリに訴えた。
「でも、勝手にして、ごめんなさい。してもらいたかったんだ」
僕は完全に3人を信用できたのだ。心に暖かみさえ感じたぐらいに。
3人は、チームの代表で、僕たちの事を考えて来てくれている。そう実感できた。
僕は、こんな風に実感したくて、でも一方でどこか怖くて。
だけど、実際に会えた事で、大丈夫だったと安堵できたのだ。




