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72.協力

僕が地下で行方不明になった時、ユリは知り合いに助けと協力を広く求めた。

その結果、地下で仕事をしている人がいる事を、広く皆が知ったとは聞いている。


通信系の設備は地下では働かないという今まで皆が知らなかった情報も広く伝わった。

僕の捜索状況はその時、皆の一番の関心事になり、捜索資金と設備や道具、捜索のためのアイデアも集まったという。


蒼との通信が一度終わり、少し休憩のようになったので、僕はユリに『協力』の内容について少し聞いてみた。

ユリは少し僕をじっと見つめてから、答えをくれた。

「茜ちゃんは、私をすごく励ましてくれたの。蒼くんは、たぶん茜ちゃんから話を聞いて、皆と一緒に、いろんなアイデアを出してくれたり、情報を調べてくれたのだと思うわ」

「うん、そっか・・・」


「私は皆に助けてと知らせたり、訴えたりするばかりだったから、私も具体的にちゃんと分かってないところがあると思うの。でも、パパが教えてくれたのだけど、地下の様子が立体地図化されて、どこを何日にどういう方法で捜索して、結果どうだったか、というのが全部記録されたの。地下構造が相当複雑で、色んな計算や推測がされて、サクがいそうな場所が絞られて・・・それを捜索の人たちに伝えていたの」

「そっか・・・」

改めて聞くと、しみじみとする。


一方で、ユリは不安を思い出してしまったみたいで暗い顔になって僕をじっと見つめている。

「ごめんね。見つけてくれてありがとう」

「私が見つけたんじゃないけど、助かって本当に良かった、サク」


僕はきちんとお礼を言うべきだと、思い至った。これからチームの3人を迎える事になった事についても。

「不安にさせてごめんね。3人を勝手に招いてごめん。いろいろありがとう」

「・・・うん」


一方で、フォローも入れたくなる。

「ガーホイさんは、僕の第一発見者の人だし」

「えぇ」


「あ、ヴェドさんはね、口は悪いんだけど、僕のために・・・資源回収の仕事は止めた方が良いってアドバイスをくれていた人なんだ」

「そうなの」

ユリが少し不思議そうな顔になった。


そういえば、僕はチームの人たちをきちんとユリに紹介できていないままだ。

唯一の例外の人はいたけれど。と考えそうになって振り払う。


とにかく、唯一紹介していた人が僕に害を与えた状態で。

だったらユリは多分僕が思う以上に不安だし警戒しているんだ。


「もう一人はね、チームで夕食に行くよね、そこのお店をまかされていた人。名前は知らなかったけど、ダブルセブンって表示されているから、それが名前みたい。呼んだことはないけど」

「そうなの・・・」


「料理が好きで、お店担当になったんだって。僕のために、貴重品だぞって言いながら、ミルクを取り寄せてくれてたよ」

「そう」

ユリの表情が和らいだ。


「僕は、チームの人たちを、良い人だと、信じていたいんだ」

僕は、自分について気づいていたことを、ユリに告白した。

「・・・えぇ」


「だから、おもてなししたくて、良い人だって、もう一度きちんと認めたいのかな、なんて思うんだ」

「・・・えぇ」


「ユリは、大丈夫?」

「・・・そうね」

ユリは僕をじっと見つめていた。どこか慎重に。

そして、言葉を続けた。

「サクの、大事な、チームの人たちなのだから、それに、もうお断りできないのだし・・・私は、サクが大事だから、対応できる体制を整えて、備えたいの」

「うん」


「何も無いと良いのに。心配なの」

「うん」


「またいなくならないで。変な事を吹き込まれないかも、心配なの」

「変な事?」

僕が尋ねると、ユリは僕を見つめながら、頷いた。

「何か・・・私がよく分からないところに、サクが行こうとするようなこととか、そんな風になったら、嫌なの。私、サクとの生活を壊されたくない」

「うん」


「私は・・・」

ユリは慎重に言葉を選んでいる気がする。自分の考えの中から。

「サクが、欲しくて、必要なの。私の傍にいてほしいの」

「うん」

嬉しくて笑んでしまった。

「大丈夫だよ。いるよ」


「急に怪我したりいなくなったら嫌。サクはそう言ってくれていても、急に巻き込まれたりなんてことあるのよ。穏やかに過ごしたいの」

「うん。頑張る」

「頑張る?」

「ユリがそう思ってくれている事をちゃんと分かってて、それでみんなと話せば、安心?」

「・・・えぇ・・・少し。安心」


ユリは不安がっているけれど、僕はとてもユリをかわいく思えてしまって、つい表情を綻ばせてしまう。

ユリの頬を撫でてみる。愛しいと思う。

そして、安心もして欲しいと願った。


「ヴェドさんも、ガーホイさんも、店の人も、良い人だよ。見て、皆とても嬉しそうにしてる」

僕はパネルに視線を遣る。

蒼と茜のパネルは消えているけれど、こちらに向かう3人の様子は表示されたままだ。


「僕が運転手してたときの、スクールバスの子どもたちみたいだなって。そう思わない?」

「そう・・・かしら」

ユリもパネルを見やる。それから気づいたように目を細めて笑む。

「とても来るのを楽しみにしているのは、分かるわ」


「うん。僕に会うのが楽しみなんだよ」

「そうね」

ユリが仕方なさそうに僕を見る。

それから抱き付いてきた。

「サク、人気者ね」


僕も抱きしめ返した。

「だったら、僕は幸せ者だよね」

「そうね」


「可愛い奥さんにも恵まれているし」

僕の言葉にユリがくすぐったそうに笑う。

ユリが話す。

「色んなお友達に恵まれているもの。蒼くんと茜ちゃんも、もうサクとお友達よ」

「そっか。嬉しい」

「うん」


そんなところに、ユリの端末に連絡が入ったようだ。

「茜ちゃんだわ」

抱き合っていたのを離れて、端末を見る。


「はい」

『ユリちゃん、おもてなしの準備大丈夫? 手伝ってほしいことない?』


「えーっと。軽食は来られたらご希望のものを注文しようと思っているの」

『音楽とか流さないの?』


「えーっと。流すものなの?」

『流した方が雰囲気あるよ』


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