70.事前準備とセキュリティ
「そう・・・ですか。あの実際、僕、午前中は不在だったりするので、訪問日時を教えてもらっていた方が良いのですが」
『そうだよなぁ。とはいえ、プライベートの時間だからよ、俺にも指示権限ねぇんだよ。あいつらとにかく、サク坊に喜んでもらいたい一心だ。悪い』
「うーん」
「あの、セキュリティのこともあるし、日時が分からないのは困ります・・・」
とユリも口を出す。
『・・・すまんな。止めてはいるんだが。本気で心配になって、勝手に俺からサク坊に一報いれとこうと、今連絡入れたんだ』
「そう、でしたか。ありがとうございます。ちなみに、何日ごろとか、予想はできますか・・・?」
『連中、明日から揃って休みに入る。だが、明日は無い。まず移動に最低3日かかるからな。あと、土産を入手してから行くと言ってた。それに何日予定しているのか分からねぇ。つまり具体的には、分からん。悪い』
「そう、ですか・・・教えてくださってありがとうございます」
『むしろ、そっちの都合悪い日時を今教えてくれ。あいつらに連絡入れておく。さすがに避けるはずだ』
「じゃあ、午前中はダメです」
とっさにユリが指定を入れた。
「それから、お昼の時間と夕食後も。ですからこちらが都合の良いのは、2時から4時。そうお伝えください」
「・・・」
『おう、分かった』
ドーギーが頷いている。
『他に連絡しておいた方が良い事はあるか?』
「セキュリティですが、私の友人に設定を頼みます。費用を、ドーギーさんたちにお願いしても良いですか?」
『分かった。請求先を一先ず俺に指定しておいてくれ。あとはこちらで処理させる』
ユリがテキパキとドーギーに注文を出している。
「なんだか、ごめん。ありがとう」
隣のユリに告げると、ユリが僕を向いて、肩をすくめるように少し困った顔をした。
「蒼くんに頼もうと思うの、セキュリティ」
「うん」
「蒼くんなら、ドローンとかの手配もしてくれるもの」
「あ、そうか。透明になるやつだね」
『・・・いらん世話とは思うが、透明化しても、俺たちは気づくと思うぞ、お嬢ちゃん』
画面の向こうでドーギーが注意を入れてきた。
なるほど、と思い至った僕と、驚いて画面のドーギーを見つめたユリと。
『俺たちは耳も良いし、目も良い。普通は分からなくても俺たちには分かるものも多い。・・・さてと、長話になった。すまん。じゃあそろそろ切り上げるぞ。サク坊、たまにはまた連絡いれてくれ』
「は、はい」
『サク坊が良かったらって事だがな。下らねぇ話で良いぞ』
ドーギーがニヤリと、懐かしく思う笑みを浮かべている。嬉しくなった。
「ありがとうございます」
『おぅ。じゃあな、邪魔した』
***
ドーギーからの連絡の後。僕たちは、家のセキュリティを強化することにした。
そして、ユリは、友人の蒼に全ての設定を依頼した。
蒼は遠慮なく様々に対策をしてくれる。人型AIのフィンとユニも、警備プログラム設定を強化した。
なお、僕の認識が甘すぎるのか、僕はそこまでしなくても大丈夫だろうと思ってしまう。
とはいえ、ではガドルは何だったのか、と考えようとすると、苦しい。考えることから逃げてしまう。
僕は多分、あの一件にきちんと向き合う事を恐れている。
そのままで良いのか分からないけれど、僕は、もうそこについて深く考えたくなかった。
ガドルについて、良い人だったのか、そうでなかったのか、判断する事を僕は放棄していたい。
多分、僕は、チームの人たちは善良なのだと、信じ込んでいたいんだ。
そうでないと、僕の精神が恐ろしい事になると、本能的な部分で、気づいていた。
だから。
チームの人たちについて、そんなに注意しなくても、きっと大丈夫。
だけど。
セキュリティを強めてもらう事も、当然だとも、思っていて。
真面目に考えると、苦しくなりそうだから、あまり考えずに過ごしたいのだ。
***
6日後のことだ。
急に、蒼から、ユリの個人端末ではなく、家のシステムの方に連絡がきた。
『ユリちゃん。多分・・・少し困った状況なんだけど、確認したいんだ』
家の壁から緊急連絡の声がする。
「え、はい」
とユリが緊張して声を上げる。
『画面を出して良いかな』
「はい」
ユリの返事に、壁から大きなパネルが何枚も現れる。
合計6枚。
そのうちの1枚は、蒼の顔が映っている。
残りの5枚には、僕がチームでお世話になった3人それぞれの顔のクローズアップと、その3人をやや上空からとらえている映像、横からとらえている映像。
『状況を説明すると、この3人、さっき高速移動を降りたところ。車に乗ろうとしたところでストップ中。一言で言うと、迷子になってるんだ』
「え?」
ユリがキョトンと声を上げたし、僕も驚いてパネルに映っている蒼の顔と、3人の様子を何度も見やった。
迷子って。
あれ?
『この人たち、行き先不明で、AIが処理できなくて、迷子届がコントロールセンターに出てきたのを、僕もチェックした状態』
「そういえば」
と僕は今更声を上げた。
「僕、皆に住所を伝えてない」
ユリも驚いて僕を見る。
『・・・確認して良いかな』
と蒼が少し困ったように慎重に感じる声を出した。
僕とユリで揃って蒼が映っているパネルを見る。
コクリ、と2人そろって頷いた。
『・・・ユリちゃん。その男の子は、どなたなんだろう。ユリちゃんの弟のキキョウくんじゃないよね』
と蒼に指摘されて、ユリと僕で顔を見合わせて、一拍後にハッとした。
『サクさん・・・だったりするのかな。どういうこと?』
「え、あ、これは」
僕は慌てた。
ユリも動揺して声も出せなくなっている。
今まで僕たちは、ユリの方の両親や友人たちには、バスの運転手をしていた大人の姿だけを皆に見せていたのだ。
一方で、普段は本来の年齢で過ごしている。
普段は、ユリ関係の人からはユリの個人端末に連絡が来るから、ユリだけが応対するからそれで良かった。
だけど今回、急に蒼から家のシステムの方に連絡が来た。こんなパターン無かったから、自分の姿が見えてしまうことを失念していた。




