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68.お仕事の選び方

「僕も、今、無職だけどさ」

と僕が口を開くと、ユリはすぐに打ち消そうとしてきた。

「サクは今、治療中だから、そんなことを考えなくて良いのよ?」

「うん。でも、仕事はしてないのは事実だよ」

「・・・そうね」


僕は話す。

「僕もね、これから何をしようって、仕事について、ちょっと考えてみたりするけど、まだ具体的に考えられなくて」

「えぇ。サクは今はそれで良いと思うわ」

「そうかな・・・。そうなのかも、しれない」

ユリの悩みを聞いていたら、ユリの意見も、もっともな気がしてきた。


それで。

「ユリは、今の仕事は、好きなの?」


ユリはまた僕にもたれかかるように体勢をかえたので、また頭部の髪だけ僕に見える。

「・・・結局、フィンとユニに、流行りのデータを流して良いという特典が、好きなの。本当はね、資源は限られているでしょう? それをうまく操作して、新しい流行や商品を提案していくというのも、良いなって思ってたんだけど。でも、あまり魅力に感じていなくて。今・・・。でも特典は良いなって思っているのよ」

「そういう理由だったんだ」

傍にいる人型AIのフィンを見た。ちなみにもう1体のユニの方は、ユリの依頼により、小物の整理をしているはず。


「お仕事って、そういう基準で選んでいるのよ、皆」

「そうだったんだ。ねぇ、例えば、蒼や茜は?」

「呼び捨てなの?」

と不思議そうに尋ねられる。

「あ、ごめん。つい。バスの運転手の時、大人の姿だったから、つい『子どもたち』って見てたせいだ」

「そうだったの。・・・私も?」


「・・・うん」

と、今更白状してみる。

ユリは僕をチラと見上げてから、クスリと笑った。


「子どもたち一人と、大人のサクは結婚したのね」

「うん。幸せだよ。僕の方が子どもだったけどね」

「ふふ。・・・私もサクがいてくれて幸せ。・・・良かった」


相変わらず可愛い。視線をあわせるとお互いがニコニコしていた。キスも贈り合う。

幸せだなと思う。


「茜ちゃんはね、ファッションデザイナーよ。利点は自分のデザインした服を、皆が選んでくれるってところ。人気のお仕事よ? なりたくてもセンスがないと、皆に買ってもらえないから、才能が必要だって、私は思ったわ」

「茜・・・茜ちゃんって、そんなに才能あったんだ」

「えぇ。古いデザインをリメイクするのが得意なの。サクの今の着ている服と、私のも、茜ちゃんが考えた服よ」

「え!? これそうだったの!?」

「えぇ。お友達だからって、私たちのイメージでデザインしてくれたの」

「すごいね」

「茜ちゃん、そういうのが大好きだから、才能もあるし天職だと思う」

「そうだね。・・・じゃあ、蒼は?」


「蒼くんは、もともと、AI制御の方に関心があったみたい。その中で、セキュリティ関係の担当になれたって、この前近況報告でもらったでしょう?」

「そうだった。特典より、興味で選んだんだね」

「んー・・・いいえ。多分、自分たちの身の回りの制御はカスタマイズが許されているの。一般的な機能を超えて、個人用に設定できるのがメリットのお仕事よ」

「・・・ふぅん」


僕は耳を傾けてから、ふと思った。

「お仕事って、わざわざ特典を作ってあるのかな?」

「え? そう・・・かしら」

「うん・・・違うかな。選びやすいように、そんな風にしてあるんじゃないのかな・・・」

「そうかしら・・・。ねぇサク。もし、お仕事なんてしなくて良いって、言われたら、何をしたい?」


ユリが意外な事を言い始めたので驚いた。

僕が驚いたので、ユリは体勢を変えて僕を見た。

「一緒にいてくれる?」

「もちろん!」

「お仕事しなくても生きていけないかしら」

「うーん」


多分本当は、生きていけるんだろうなぁなんて、思ってみたりする。

だけど、

「資源回収のお仕事とかは人間にしかできないから、そういうのは、した方が良いかもしれない」

「・・・」

ユリは少し首を傾げるようにして、僕から視線を逸らせて宙を見て、何か考えたようだ。

「サクは、とても真面目ね」

「ユリもだと思うけどな」

「そう? 仕事なんて意味がないって言っているのよ、私。不良だわ」

ユリが苦笑する。いたずらっ子のような表情で、僕は安心した。少し気が晴れているみたいだ。


「・・・僕、どういうお仕事をしようかな。・・・人間だからできる仕事が、良いな」

「・・・良いな・・・私も、そういうのが良い・・・」

「仕事を変わる事はできないの? 僕はバスの運転手をして、システム回収のお仕事もしたよ。今は無職」

「サクは状況が違うと思うの。それに・・・始まったばかりなのよ」

「・・・」

僕は少し思案して、言っていいのかなと思ったけど、提案してみた。


「その、さらにやる気をなくしてしまったら問題なのかもとは思うんだけど、思うところを言っても良いかな」

「えぇ、どうぞサク」

ユリが少し仕方なさそうに僕を見つめる。


僕は思い切ってこう言った。

「・・・ユリがいなくてもAIでできるんだから、変わっても問題はないと思うよ、その、今のお仕事」

「・・・うん。馬鹿ぁ」

ユリが拗ねている。

「ごめんね。でも続きがあって」

「うん。続けて」

「だから、一緒に考えようよ。一緒のお仕事も楽しそうだから。ユリの方は、いつ抜けても良いと思うから、その、好きにこれから考えて大丈夫だと思うよ」

「・・・えぇ」


ユリが僕にペタリと持たれてくる。

「・・・研修、頑張ったのに」

とユリは呟いた。拗ねている。

「うん。頑張ったね。寂しかったしね」

「そうなの。サク、ごめんなさい。私が大変だから、サクも中央に行ってくれたんでしょう?」

「・・・」

「事故に、なって、ごめんなさい」

「ユリのせいじゃないよ。絶対違う」

「私が一人で研修期間を過ごせなかったから」

「僕も会いに行けて良かったんだ。本当だよ。会えて嬉しかった」

「でも」

「・・・」

僕はつい、笑ってしまった。


「どうして笑ったの」

驚いたユリに信じられないように咎められる。

「ごめん。だって、二人ともが謝っていて、困ったと、思って。僕が全快したら、二人とも元気になれるのかな」

「・・・ごめんなさい」


僕は言葉を迷った。自分の気持ちを、うまく言う方法を探している。


「・・・僕、最近、ソウのところにお見舞いに行くけど、ずっとソウに、独り言を言ってるんだよ」

「・・・え? えぇ」

「それで、でもソウが本当に聞いているんだったら、暗い話ばかりで悪いなって思ったんだ」

ユリが僕の言葉に、分かったように頷きを返してくれた。



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