65.悩みと慰め
ユリが心配げに確認してきた。
「この家に私といるの、嫌?」
「えっ!? そんなこと絶対ないよ!」
慌てるけど、こんなことを言って貰えて嬉しくもなる。
「ユリと暮らせて嬉しい。僕の方こそ、こんなにしてもらってるのに、全然、こんな風で、ユリの負担になってる・・・」
自白した途端に事実に気が滅入った。我ながら気分にムラがある。
「サク。今は病気で、治療中でしょう? 負担になんて思わなくて良いのよ」
ユリが慰めて来る。
「・・・情けないんだ」
僕は思いがけず、内面を打ち明け始めていた。
「ユリはせっかくの仕事を、僕のために止めていて・・・」
「縮小してるだけよ? それに・・・影響も無いもの・・・」
ユリが暗い表情になった。
だけど自分の事でいっぱいで、僕はきちんと気付けなかった。
自分の説明を優先した。
「僕が研究所に出かけたら、その間、ユリは仕事に戻ってもらえるよ。一番初め、この家に越してきた時みたいに。きっとあの数日が、本当は正しい状態だった・・・。僕はリハビリだけど、ユリは部屋で仕事をしてた。僕も回復したら、同じ時間、仕事を何かしてたはず」
「・・・いやよ。サクが家から居なくなるのは嫌」
「そっか・・・」
少し、お互い無言になる。俯いている。
ユリが先に顔を上げて、拗ねたようにしながら、僕を見た。
困ったように、わがままを反省した顔で。
「じゃあ、リハビリとして・・・。いつか、サクも私も、お仕事するのは、その通り、だもの・・・? サクの場合、外でお仕事するのかもしれない・・・だから、その時に向けての、練習・・・。短い期間の、様子見で、それで、様子を見て、また考えるの・・・そう、考えていて、良い?」
「無理してない? 大丈夫?」
「・・・寂しい。でも、我慢しなきゃ。その時間、仕事に戻れば良いんだもの・・・」
ユリが浮かない顔をしている。
「ユリ、僕の事、大好き?」
と僕は確認した。
「当たり前よ! もう!」
とユリが顔を赤くして叫ぶ。僕に抱き付いてくるので、僕も抱きしめる。
「サクは? 私の事、大好き?」
「もちろん。大好き。世界で一番。ユリは僕の特別。大好き。愛してる」
フフッとくすぐったそうにユリが笑って、身体を少し離して僕の顔を見る。
照れたように笑っていた。
「サクって、いつもたくさん返してくれる」
「ユリこそ。すごく優しくて、甘えてくれるの本当に嬉しくて、」
言葉を続けようとしたのに、ユリがまた抱き付いてくる。
「愛してる」
「僕にも言わせてほしいな」
「いつもたくさん言ってくれるのもすごく嬉しい。幸せ」
一緒にいると幸せになれると実感する。
一方で。
ソルトがソウについて頼んだ事情も改めて考える。
今更ながら、相当心配な状況だと思った。
結局、きちんと話し合って、社会復帰のリハビリにもなるから、しばらく毎日、僕はソウに会いに行くことにした。
***
翌日。研究所に車で向かって、ソウのところに向かった。
予定は、リクさんやソルトに伝えてあるけど、出迎えはない。
スケジュールは本当にもうギュウギュウなのだそうだ。
「ソウ。おはよう。調子はどう? ごめんね、僕が中央で事故に遭って、色んなスケジュールが狂ってて、リクさんもソルトもスケジュールがびっしりで動けなくなったんだ。だから代わりに、僕だよ」
呼びかけながら、傍にあった折り畳みの椅子を展開して腰かけた。
とても静か。
ソウの様子に変わりは無い。
「えーっと。いろいろ考えてしまうから、聞いててくれる? 聞きたくない話だったら、本当にごめんね。そういう場合、ソウは耳を塞いだりできるのかなぁ。聞きたくない話をずっと聞かせてしまったら・・・きみはまだこれから生まれる子なのに、本当にごめん。悪い影響が無かったら良いんだけど」
何でもいいから話しかけろとソルトは言っていた。
じっと見ていると、僕もつい無言になってしまう。それではいけない。
「・・・そういえばソウって、どういうシリーズなんだろうね。僕とソルトは、精神強化型だよ。僕は幸福感強め、だって。そういえばソルトの詳しい性質は聞いたこと無いかも。僕の対になる子だから、やっぱり幸福感強めなのかな」
「そういえば・・・僕、怪我した時に夢みたいなのをみて、ソルトはそれは過去を見てきたんだって言うんだけど・・・ソウがいっぱい出てきた気がする。助けてくれたのなら、本当にありがとう。ソウはソルトが好きなのかな。そんな事をいってたような覚えがあるよ。もう、ちゃんと思い出せないんだけど、たくさんの人が僕を引っ張って階段を上ってくれたような、そんな夢だったよ」
答えが何もないから、本当に聞いているのか不安になってくる。
僕は、傍に設置されている何枚ものパネルに目を遣った。
リクさんは、脳波に変化も出ないって言ってたな、と思い出す。
じゃあ全て、独り言みたいだ。
だけど本当は聞いているって言われて、困ってしまう。
リクさんも、そんな気分なのかな。
つい、眠り続けるソウを無言で見つめてしまう。
「長く眠ってるんだよね? そろそろ、起きない?」
と言ってから、僕は思う。
起きられたら起きている。起きられないから、眠ってる。
眠り続ける病気にかかってるみたいだ、なんて。
「・・・ソウ。きみも眠り続けてるけど、僕も今、困ってるんだよ」
結局、僕は、誰かに聞いて貰いたいのかな。
「ソウは知ってるかな。僕も研究所生まれで・・・でも、すごく優しくて可愛くて良い子と、結婚できたんだ。今、新居で暮らしてるんだ。でも・・・僕、身体の治療も、メンタル面での治療も必要でさ。・・・だから、僕のために、奥さんが仕事を抑えて、フォローをしようとしてくれて・・・」




