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59.リハビリ

さて。リクさんの仕事は、うっかり泣きそうなほどの量が溜まっていたらしい。

戻って来てから会う余裕が無くなり、端末で短いやりとりをする状況になった。


とはいえ、5日目には、僕の様子を見に来てくれた。


「すみません、僕に手伝えたらいいんですけど・・・」

状態を見てもらいながら、僕は詫びる。見たことのないレベルでお肌が荒れているリクさんは、目をしょぼしょぼさせながら僕を見た。

「・・・でもさぁ、他の人が簡単に僕の代理をできちゃうっていうのも、嫌だよねぇ・・・」

「はい・・・」


「僕にしか判断できない仕事が僕を待っていると思うと、僕の生きがいとやりがいを感じるというのも事実だよ・・・」

「はい・・・」


「サクの診察だって絶対他人にやらせたくないし」

「・・・ありがとうございます」


「うん。良い、順調に回復してる」

リクさんは、後ろのソファーに控えているユリを振り返った。

「ユリちゃん、引き続きサクをよろしくね。困った事があったらサクに言えば良いよ。色んな手配ができるからさ」

「はい」


「リクさん、僕、どれぐらいで普通に動けるようになりますか?」

「そうだなぁ・・・1時間後からリハビリ開始しよう」


「ちなみに、僕が早く回復した方が、リクさんとしても、仕事減りますよね・・・?」

「・・・ええ? 何言ってんの。サクが気を遣うとこじゃないから」


「でも、減ります、よね・・・?」

僕が心配そうに見るのを、リクさんはどこかボゥっとしながら眺めて、ユリをチラリと振り返り、それからやっぱりボゥッとしたまま、おかしそうに笑った。

「減るかなー。だけど寂しさは増すね。じゃあさサク、回復重視のがんばりプログラムで行く?」


「えっと。どの程度頑張る感じですか?」

「歯を食いしばりながら闘志燃やせるかゲーム、みたいなぐらい、かな?」


具体的に良く分からない。


「とりあえず試してみることはできます?」

「うん。ちなみにこれだと、1週間で普通に動けるようにはなる」


「それじゃなかったら?」

「2ヶ月半かなぁ。時間がかかる分、余計に期間が延びちゃうんだよねぇ」


「じゃあ、試します」

「サクは頑張るね・・・良い子だ。本当にやる?」

「は、はい」

「じゃ、設定してくるよ~。あ、またしばらく会えないと思うんだけど、緊急時とか遠慮なく呼ぶんだよ」

「はい」


リクさんがボーッとフラフラしながら部屋を出て行くのを、僕とユリで見送った。

「リクさん、大丈夫かな・・・」

「とても大変そうね。・・・ねぇサク、2ヶ月半を1週間でできるようになるというプログラムなんて、大丈夫なの?」

ユリが僕の事も心配している。


一方で、ユリが、研究所ではどこか緊張して過ごしているのも分かっている。

特に誰に会うということはないけれど、慣れない環境だからだろう。


「うん。・・・2ヶ月半が1週間になるなら、頑張りがいがあると思うんだ」

「うん・・・無理し過ぎないでね」

「うん」


***


もう何も考えられない1週間になった。


体中にチューブや端子が取り付けられて、身体を伸ばされたり液体に入ったり。

もう目の前のことしか考えられない。お腹がすいたらご飯を食べて眠くなったらあっという間に眠ってしまう。起きたらすぐに調整開始。


もう訳が分からないうちに1週間過ぎた。


お陰様で、劇的に回復できたようだ。

リクさんや、リクさんをさすがに見かねて補助に入ってくれたという人も、さすがは幸福感強めタイプだ、こういう時に強いね、なんていう言葉で褒め称えてくれた。


僕は、自分の足で立ち、歩くこともできる。

年齢も前のように変えられるようになった。

ユリのご両親に会う事もできる。僕はそのことにほっとした。


***


「おめでとう。とはいえ、プログラム送っとくから、自宅でもリハビリを心がけて過ごすんだよ。急に動かして回復させたから、急に止めると反動が来るんだ。ユリちゃん、サクのこと、頼んだよ。よろしくお願いします」

「はい」

ユリが気を引き締めたように頷いてから、安堵したように嬉しそうに笑む。

リクさんも安心したように笑う。


ちなみに、今でもリクさんはぼーっとしていて、フラフラしている。心配だ。


「リクさん。本当に有難うございます。心配ものすごくかけて、ごめんなさい」

と僕は謝った。

「・・・うん」

リクさんは少し言葉を詰まらせたようにして、僕の言葉に相槌を打った。


「元気に、長生きします」

「うん」

「リクさんも、元気に長生きしてください。僕のお父さんであって、お兄さんだから、ずっと見ていて欲しいです。仕事たくさん溜まって、大変にさせてしまったけど・・・お願いだから、無理しないで」

「うん・・・」

嬉しそうにはにかんだように、リクさんが笑う。


「ソルトと、ソウの事も、どうぞよろしくお願いします」

と僕は言った。

それに、多分ソルトなら、リクさんを助けようとしてくれるのではと期待している。


僕の言葉に返事をしようとしたリクさんは、数秒動きを止めて、不思議そうに聞いた。

「・・・サクって、ソウには会ったこと無いはずだろう?」


「会ったこと無いです。会ってみたいです」

「ふぅん? 会いたいのか。・・・どうして? サクがソウに興味を持つ事なんてなかったと思うんだけど」


「・・・えっと。ソルトが会いに来てくれて、ソウの話が出たから」

「ふぅん? そうか。・・・でも、ソウは、会える状態じゃない。それは分かってる?」


僕とリクさんで見つめあう。

僕は言った。

「でも、できるなら、会ってみたいです」


リクさんは少し考えた。


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