表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/95

57.さようなら

リクさんの予測通り、3日後は散々だった。

身体の節々が鳴り、自分の皮膚の下が盛り上がる感覚までした。

終わった今、思い出したくないし、正直もうきちんと思い出せない。


とにかく。

僕たちは中央から去ることになった。


***


中央を去る日。

宿泊先からの退出の手配は、ユリとユリのご両親が全部すませてくれていた。

僕はまだタンカに乗せられて横になったままで移動する。

ちなみに、来てくれたのに会っていないユリのご両親には本当に申し訳なくて罪悪感。

ユリに、僕の本当の年齢を伝えた方が良いんじゃないかと相談した。


「・・・うん。でも、一度決めたことだから、嘘をつきとおそうと思うの」

とユリは言った。

「だってそれでサクと別れなさいって言われたら、嫌だもの。だったら、兄弟の人と、私以外は面会謝絶、って言い通した方が、良いの」

「分かった」

ユリがそれでいいなら、僕もそれでいい。


一方で、チームの人たちが、最後のお別れに来てくれた。

日中なのに皆仕事はどうしたのだろう、と気がついて確認したら、僕の事故の一件で、一時的に地下の資源回収の時間に大幅な制限が設けられている状態だそうだ。

だから、普段よりとても暇だという。

とはいえ、今日はドーギーは来れないという事で、代表でチームの中から5人が来てくれた。


「元気にな、サク坊」

「俺たちの事、忘れないでくれよ」

強面の大人たちがとても寂しそうだ。


ユリが別室に避難中なのを良い事に、僕は、そっと囁くように言った。

「良かったら、落ち着いたら・・・どうか新居に会いに来てください」

「・・・! おぉ!」

「・・・おぅ!」

「行くぜ!」

皆がそろって、驚いた顔をして、ほっとしたような嬉しそうな表情になったのが、印象的だ。


「うまいもん持って行ってやる! 楽しみにしてやがれ」

「はい」


「あとよ、これ、土産だ。移動中に食えよ。サク坊にってワザワザ作りやがったんだよ、アイツ」

「貴重品だぞ」

「ありがとうございます」


退出時間のアラートに彼らが帰った後、戻って来たユリには、もの言いたげに見つめられた。

僕は目を泳がせた。

たぶん、僕がチームの人たちに新居に来てくださいと言ったのがバレている。

だけど黙っていてくれるということは、きっと見逃してくれたんだと、思う。


***


ガドルとは、結局、会わなかった。


ドーギーの次にとてもお世話になった人。

そして最後に、僕が離れていくのが嫌で、僕を突き落とした人。


自分のガドルに対する気持ちが分からない。その気持ちを中央に置いて、去っていいんじゃないかと、ドーギーは言った。

それが良いのかも、分からない。


だけど、結果としてそんな状態で僕は去る。


***


高速移動で3日。


僕は基本的に眠って過ごした。

ユリは僕の傍にいて、研究所ってどんなところかを気にしている。僕の完全回復まで、ユリも一緒に過ごすからだ。


「わたし、馴染めると思う? サクのお家の人たちということ、でしょう?」

「うーん。そういえば、僕も全体は良く知らないかも」


ただ。

「皆、研究所にいるぐらいだから、ちょっと変わってるんだって、自分たちのことを言ってるよ。リクさん含めて」


「リクさんは、研究所の中で、普通のタイプ?」

「うーん・・・」

思案する。

「どうかなぁ。僕、リクさんと、勉強を教えてくれる数人しか、知らないんだ。多分、ユリもそんなに人に会わないと思うよ」

「そうなの・・・」


***


順調に、僕たちは研究所に戻った。

ちなみに、お迎えは誰もいなかった。多分、本来は僕の出迎えるだろうリクさんが僕たちと一緒だからかも。


研究所に着いた途端、僕のタンカをAI制御の台車が下から持ち上げて、滑らかに移動を開始する。

ユリは少し驚いたようだが、慌てたように僕の横に着いてくれた。


そして、リクさんは入り口のところで、「うわー・・・」と途方に暮れたような声を上げていた。どうやら立ち止っているようだ。


ユリが気にしているので、

「多分、仕事がいっぱいになってるんだと思う・・・」

と、今までの経験から考えたことを伝えておいた。


研究所は基本的に、皆それぞれ自分の事だけ一生懸命にするスタイルで、他の人のことには手を出さないそうだ。

研究所の人たちは、自分の仕事を他の人に勝手にされるのをとても嫌うから、普段はそれが一番良いらしい。

だけど、緊急時がとても大変だと、聞いたことがある。

つまり、きちんと頼んでおかないと、リクさんあてのお仕事がいくら山積みに溜まっていても、そのまま。

子どもの時に僕が1週間熱を出したことがあって、仕事そっちのけで看病してくれた後、リクさんも同じ症状で1週間寝込んでしまい。・・・結果、リクさんの仕事はそれはそれは山積みになったそうだ。


「それって・・・AI処理がうまく行っていないのじゃなくて?」

「研究所の仕事は、人間が管理しているところが多分ずっと多いのかなぁ」

「そうなの・・・」


***


僕の帰還については、リクさんはきちんと手配してくれていた様子だ。

もともと僕が使っていた部屋の横に、大きな部屋を空けてあって、僕はそこに運び込まれた。

ついでに、緑色の扉を開けて見せてくれて、そこから僕の長年の部屋にいけるらしい。

反対側に赤色の扉もあって、そちらはユリ用の部屋のようだ。


と。

「お帰りなさい」

急に小さな子の声がした。

「えっ!」

とユリが驚いている。


「・・・ソルト?」

寝たままなので、僕にはまだ姿を確認できない。


「そうよ。リクさんが連絡くれたの、帰って来たって。きっとお仕事もたくさん溜まってるから、リクさんがこちらに来るのは時間がかかるんじゃないかしら。その隙に会いに来たのよ。・・・フフ、ユリさん? 初めまして。ソルトです。サクくんの妹にあたるの」

「初めまして・・・ユリです」


挨拶を聞きつつ、僕は部屋に声をかけた。

「上半身を起こしたい」

『許可が出ていません』

「・・・」


僕が無言になっていると、傍にソルトとユリが来てくれた。

「サクくん」

「あ。良かった、顔が見れた」

「それはこちらのセリフ。また会ってしまったわ。でも戻ってきて本当に良かった」

その言葉は、死ななくて良かった、といっているようだ。


僕は少しじっとソルトを見つめてしまってから、ソルトは僕よりも行動が早いタイプだと思い出して言葉を焦った。

「ソルト。僕、意識を失ってる間、きみに助けてもらったんだと思う」

「・・・そう?」

「え?」

ソルトは僕の言葉に耳を傾けるようにして、ユリは怪訝そうな声を上げた。


僕はユリにも説明しようとした。

「落ちて、助けてもらって目が覚めるまで、ずっと変な・・・夢みたいなものを見てたよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ