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56.関わり合い

「俺も、聞きたいと思ってた」

と、基本的に静かに聞き役になっていたドーギーがシルヴェの質問を後押しした。


「・・・分かりません」

「そんなハズ、ねぇだろ」

とシルヴェは緊張しながらも、僕の答えを知っているかのように確認してきたので、僕はじっとシルヴェを見つめた。


ガーホイとゴロウが動揺してウロウロしだしている。

「裏切るなんて最低じゃねぇか」

とシルヴェが強くいって、ドキリと心に刺さる。

「仲良くしといてよ、突き落とすとか、あり得ねぇよ」

続いた言葉に、僕はほっと息を吐いていた。僕は、自分を最低だとシルヴェに怒りを向けられたように感じたのだけれど、勘違い、だった。


そう分かったけれど、動揺している。


「あんなヤツ、許してやる事ねぇ、俺たちの仲間じゃねぇ」

「・・・」


「シルヴェ、止めろ、サク坊が驚いてる、見ろよ」

止めたのはゴロウだった。

「サク坊はお前と違うだろ」

と。

「じゃあ、どうなんだ。精神強化型の、サク坊様はよ、どう考えてんだ。俺は許せねぇよ。二度とツラ見たくない。一緒に飯食ってたなんて、悪夢なんてもんじゃねぇ、俺たちは俺たちでやってくしかねぇ! 裏切る馬鹿は、いらねぇんだよ、世の中にはな!」

「シルヴェ。お前が決めることじゃない。落ち着け。ガドルのことは上の人間が決める。俺らの出る幕はねぇ。あと、病室ででかい声出すな、計器が乱れたらどうしてくれる」

と言ったのはドーギーだ。

「そんなわけ・・・!」

と言いかけて、シルヴェが急に怒りを表しながら、黙ってしまった。


妙な空気になって、居たたまれなくなる。


誰も何も話してくれない。

僕も答えをきちんと持たない。


あまりに静かだから、ィー、という、機器の小さな震えるような音が聞こえるほどだ。


「・・・僕、気になってる事が、あるんです」

「なんだよ」

僕の言葉に、飛びつく様に聞いてきたのは、ガーホイだ。


「僕の新居に、いつでも、来てくださいって、言っていたら、皆さんは、来れたんでしょうか?」

「ん? 新居?」

ゴロウが不思議そうに首を捻る。

シルヴェもドーギーも、ガーホイも皆不思議そうだ。

僕は突拍子もなく言ってしまったので赤面した。


「良く分かんねぇけど、来てくださいって言われたら、行ってみてぇよなぁ」

不思議そうに周囲を見回して、どこか照れたように笑いながら、ガーホイが言った。

ズキリと胸が痛むのを感じながら、僕は穏やかな笑みを浮かべてガーホイを見た。

「そうだなぁ」

とゴロウが言い、ドーギーとシルヴェは困ったように、つられたように口の端を上げてみせた。


***


「サク。ねぇ、新居にお招きするつもりなの」

皆が帰ってから、部屋に戻って来たユリに、僕は叱られた。


「うん・・・駄目?」

「嫌。怖い人たちだもの。嫌なの」

「えー。でも、良い人たちだよ。僕の命の恩人だよ」

「サクの馬鹿! それを言えば私が折れると思ってるでしょう」

「えー」

「ねぇ、リクさん!」

「あ、僕が口を挟む事じゃないと思うんで。サクとユリちゃんとよく話し合えば良いよ」

ユリから話を振られたリクさんがひょうひょうと返す。

別室にいる間に打ち解けたみたいだ。


「嫌なの!」

「どうしても?」

「どうしても嫌」

「そっか・・・」

それはそれで気落ちする。

初めは招くような言葉を言わないでおこうと思ったのに、ユリに嫌だと言われると寂しく思う。


無言でいたら、今度はユリが不安になったようだ。

「え、本当に? サクは来て、欲しいの? チームの人たちに・・・」

「・・・」

困ってユリを見ると、ユリも動揺し始めている。


「サク。御取込み中悪いけど。僕は今日はもう帰るから、この後の予定だけ言っとくよ」

「え、あ、はい」

「ごめんなさい・・・」


「目が覚めてから順調に回復してるからね、多分、この調子だと、明後日にとてつもない成長痛が来る」

「え?」

「全身ビリビリするぐらいで、骨が鳴る音がするかも」

「え」

「大丈夫。組織回復が、やっと全身に浸透したってことだから。痛いけどこれは我慢して。泣いても良いから耐えて。多分1日で終わるからさ」

「は、はい」

「薬で痛みを軽くできないんですか?」

とユリが心配して聞いてくれた。

「うん。この時点で薬を使う事は成長を妨げるから」

「そう、ですか・・・」

「うん。で、それが終わったら、チューブ外しての移動ができる。そうしたら、すぐに高速移動を使って研究所に戻る。良いかい、サク、ユリちゃん。中央にいるのは、あと数日だ。やり残しや忘れ物がないようにだけ気をつけてね。本当に思い入れのあるものは、手荷物で持って帰ると良いよ」

「え?」

「荷物ですか?」

僕とユリはキョトンとした。


「うん。そうだよ」

リクさんは、僕のベッドの傍のテーブルの上、皆のお見舞いにもらったキンカンに目を遣った。

「二人とも、知っておくと良いよ。物質分解されて、再構築されたものは、見た目や質量が同じであるけど、実際は違う物質で作られてる」

「えぇ」

「キズや汚れさえ、再現できてしまうけど。・・・サク。僕なら、例えばそれは、移動前に食べてしまうかな。もしくは・・・高速移動の際に、自分に付属のものとして持ち込むか。幸い、小さいしね」


「・・・キンカン、リクさん食べますか? ユリも。お見舞いに、ゴロウさんが持って来てくれて」

「うん、見てた。食べてみたい。木の実りを待って収穫されたものが、出回ってるなんてね」

「え、食べる、の?」

「ユリも、ほら、お店に最後に行こうって言ってたのに・・・行けなくて」

「ううん・・・」

「僕には違いが分からなかったんだけど、皆、こっちの方が美味しいっていうんだ。ホンモノだって」

「う・・・ん」


結局、持って来てもらったお見舞いのキンカンを、リクさんとユリが食べてみた。僕にはまだ、皮ごと食べるのが難しかったので、リクさんが小さく刻んでくれたものを、少しだけ食べた。

苦くてすっぱくてさわやか。


「味の違い、分かる?」

「うーん。普通に、美味しいけど、本物かというのは、私にも・・・」

とユリが味わおうとしながら教えてくれる。ユリにも違いは分からない様子。


「僕も味は、違いが分からないけど、良いよねぇ」

リクさんは、嬉しそうに目を細めて笑っていた。

「彼らの努力は実に価値のあるものだね。この時代に、まさか、実物を育てて分解させないまま摂取するなんてね。良いね」


「リクさんって、やっぱり、学者肌なのね・・・」

「うん」

ユリと僕とで、うっとりとキンカンを味わおうとしているリクさんの姿に、囁き合った。

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