51.もどってきた
僕は、中央の、研究所管理の建物で、緊急に設けられた部屋で集中治療を受けている。
ちなみに基本的に遠隔操作で治療が行われているけど、研究所から無理を突き破って駆け付けたという僕の担当者、リクさんも僕の看病に当たっている。
ちなみにユリは治療はできないけれど、ユリが泣いているのに動揺したから僕が目を覚ましたのでユリのお陰、と言ってみたら、
「馬鹿」
と泣かれた。けど少し嬉しくて僕は笑ってしまった。
なぜなら、僕はもう目が覚めて、あとは回復に向かうだけだ。
もう大丈夫だと思うから。
***
身体はまだ動かせないから、僕はベッドに横たわったまま、ユリやリクさんから僕の今の状況を聞いた。
僕が目を覚ましたという連絡が行き、その日の夜にドーギーもきた。
僕はどうやら、足を滑らせて落下した事になっているらしい。
あまりに深いところで、しかも班に分かれて少人数で行動中だったから、落下先がすぐに分からなかった。
すぐに全員で捜索が開始された。
だけどその日には見つけられなかった。
だけど地下で泊るわけにはいかない。崩壊がいつ始まるか分からない場所なのだから。
だからチームは一度地上に戻った。
そして、必要な各所に連絡した。ユリにも連絡がいった。
そしてユリは居てもたってもいられなくなった。
両親を始め、親友の茜たちにも連絡し、僕が地下で行方不明だと明かし、僕の捜査を少しでも進めようとした。
なお、ユリは研修先にも最大限の協力を仰いだ。
地下での仕事があると知らない人たちをも巻き込み地上で大騒動になった一方で、実際は地下に潜って僕を探すしかない。
ユリも地下になんとか入ろうとしたらしいけど、色んな人に止められ、妨害されて叶わなかったそうだ。うん、それはそうなると思う。
5日目に、僕は見つかった。
見つけたのは、研究所の事故があった時に、放り出されてしまった6人の中の1人、ガーホイ。
人間離れして夜目が利く。そのお陰だそうだ。心から感謝。
なお、見つけた瞬間、ガーホイの声が思わず震えたほど、僕の身体は損傷がひどかったらしい。
そして、崩れやすいところにひっかかっていた。とはいえ、そんな脆い場所だったから一命はとりとめたのだ。
僕の身体の回収は、そこから半日かかった。普通なら地上に戻る時間も過ぎていたけど、見つけた以上、誰も地上に戻ろうとしなかったそうだ。
二次被害は避けなければならない、そう肝に命じながらも僕の身体の回収案を皆で考えた。
地下だから基本的に人力頼みだ。そして、普通に歩いていける場所ではなかった。
上から誰かをぶら下げて、僕のところまで降ろすしかないと結論を出して、実行しきった。
僕の身体がここにあって、僕が生きているのは、皆が助けてくれたお陰だ。
***
「ユリさん、本当に申し訳ねぇが、席を少しだけ外して欲しい」
とドーギーが言ったのは、僕の目が覚めて3日後。
「嫌です」
とユリはキッパリと断った。
そうだろうなぁ、と僕も思う。
ユリが僕の手をぎゅっと握りしめる。
「本当に申し訳ないと思っている、だけど仕事中に起こったことだ、ユリさん抜きで確認したいことがある」
とドーギーも困った様子だが訴えている。
「嫌です。私も聞きます」
「んー・・・」
とは、僕の担当者のリクさんだ。
「リクさんは聞いて良いのでしょう?」
「うん」
と軽く頷くリクさん。
「じゃあ私もいます! 私は、サクの妻です!」
「いや、知ってる。だけどこう・・・サク坊、頼む・・・」
ドーギーが、困ったように僕に助けを求めてきた。
途端、ユリが僕に、嫌だ、という意思を込めた視線を送ってくる。
う、うーん・・・。
「えっとー・・・」
僕がユリを説得しようとしたのを察したらしい。ユリがフルフルっと震えた。
うわぁ、言いづらい。
だけど、多分、ドーギーは、僕が足を滑らせたわけではないと知っている。
そして、僕もそういう話をドーギーにはしたい。
そして、僕もユリには聞かせたくない。必要以上に心配させると思うからだ。
「えーと、ユリちゃん」
と助け船を出したのはリクさんだ。
「後でサクの秘蔵映像、サクに内緒で見せてあげるから。お願い」
「・・・」
リクさんの懐柔策に、ユリは思いっきり膨れた。誰も味方でないと察したせいだ。
ブルブルっと震えて、不満そうな顔をしたままで立ち上がる。
「ごめんね。ありがとう」
と僕が言うと、僕を睨んで、すぐ泣きそうになった。
ごめんね。僕も心が痛いんだけど。
***
「サク坊」
ユリが退出してから、ドーギーが僕に改まったように声をかけてきた。
「目が覚めて本当に良かった。すまねぇ。それで、原因も知りたい。何があったか覚えてるか」
単刀直入だ。だけどユリを待たせているのだからその方が良い。
とはいえ、ためらう。だけど、打ち明けたい。
僕は数秒だけ無言で、それから口を開いた。
「ガドルに・・・押されました。背中を向けていたから見えなかった。でも、他の人たちは離れていた。傍に残っていたのはガドルだけです。・・・それで落ちた時に、シュティカーンが、ガドル何しやがる、って叫んだのも、聞こえました」
ドーギーがため息をついた。
「・・・やっぱりか。いや、ガドルなんだ。シュティカーンは瞬間を見てた。ゴロウも、ガドルの動きが変だったと言ってる。あいつならサク坊を助けられたはずなのにそぶりがなかったと」
「どうして、僕を・・・?」
と僕は聞いた。苦しくなる。
リクさんもドーギーの様子をじっと見ている。
ドーギーは両手で自分の頭を額から後頭部に撫でつけるようにして、呻いた。
「・・・分からねぇ。俺から見て、ガドルは一番サク坊に親身にしてた。そうだろう」
「はい」
「嫉妬してた? 分からねぇ。他のヤツはそう言うが、理解できねぇ。あんなにサク坊と仲良くしてたじゃねぇか」




