05.レストランにて
「あらためて、本当に来てくれてありがとう。僕は運転手で、その・・・単刀直入に、ユリさんが、とても良い子だと気になっていたんだ」
「すごく分かる」
茜が僕にものすごく共感してくれる。茜はユリのために来たはずなのに、まるで僕の助っ人だ。
「色々思う事が、運転手さんもあったよね」
「えぇと」
茜は、ユリとレオの事を言っている。実際その通りだけど返答に困る。
「あの」
困ったので頬をかいて、それでも答えた。
「結果的に、僕はユリさんが好きになっていて、今日でお別れなのが嫌だと思ったんだ。お願いです。僕にチャンスをください。付き合ってください!」
僕はユリに頭を下げた。
離れていたところの蒼が、
「うーん」
と呟いた。
なんだろう。話の運びが不味いようだ。
蒼をチラリと見て、ユリを見ると、やはり困惑している。
「あの、でも、本当に今まで特に話したことはないので」
断る気だ。
僕はギュッツと両手を握りしめた。
起死回生! 何か良い案!
「僕が、口を出す事じゃないと思うんだけど」
と言ったのは蒼だった。
離れている席から、椅子は完全にこちらに向けている。
ちなみに、他に客なんてほとんどない。がら空きだ。
「1週間とか、お試しで付き合ってみたら? ユリちゃん。運転手さん、別にその間に変な事とか、しないよね? したら潰すよ?」
蒼が首を傾げて真顔で僕に尋ねた。
「変な事とは」
と僕は真面目に聞いた。
蒼が頷いた。
「大丈夫。あ。糖分足りなくなっちゃった。このメロンソーダっての頼んでも良い?」
なぜか蒼の警戒が解けた。
「どうぞ」
ピ、と追加注文をすぐに終えて、蒼がユリに視線で回答を促している。
ユリは困っている。
僕は縋った。
「1週間で良い、お願いです、チャンスをください。付き合うかどうかのお試し期間を僕にください!」
「・・・分かりました。・・・茜ちゃんと蒼くんが見て、大丈夫だから、それで」
ユリの困ったままの顔を見る。
「ありがとう」
と僕は訴えるように感謝した。
「変な事したら潰すからね」
「変な事って?」
真面目に聞き返す僕に、蒼はなぜか、ほらね、というような視線でユリを見た。
ユリが困ったように蒼に笑んだ。
***
「運転手さんさ。僕らより年下だったりしない? 本当はさ」
帰り際、お支払いのためにレジにいる僕に、今後の参考に、なんていう名目で残った蒼が囁いた。
ちなみに通常は、レジに行かなくても自動会計がされるけれど、他の人の分、特に別テーブルの人の分も自分が払う場合はレジで処理が必要になる。
蒼の囁き声での指摘に、僕は身を固くした。
「こんな姿なのに18歳以下に見える?」
と僕は聞いた。
蒼は楽しそうに笑った。
「ユリちゃん泣かせないでね。茜も泣く」
「・・・困ったら相談しても?」
と僕は真面目に尋ねた。
「うーん。あまり深くは聞けないかもしれないけど」
蒼は少し困ったようだ。
だけど否定では無かったので、コクリ、と僕も頷いた。
「僕はさ。茜と結婚して、中央が丘の高層タワーのフロア占領して、AIコントロールの管理者になる。・・・きみは?」
と蒼は僕に聞いてきた。
「僕は・・・まずユリさんとお付き合いできたら良いなって」
「そっか。そうだな。とてもささやかだね。・・・でもそれってとても、“人間らしい”のかも。僕も、学校に入る前はそんなふうにささやかな事が希望だった」
僕は蒼の様子をじっとみた。昔を懐かしむような顔を蒼はしていた。
学校に通うのは6年間。だけど僕が運転手になったのは2年前。学校に入る前の蒼たちを僕は知らない。
「ユリちゃん良い子だよ。レオを節穴だと思うぐらい。レオはでも、仕方ないんだ。実はさ、学校に来る前からネルちゃんが好きで。残酷だよね、学校に来て、色んな人と出会って、ネルちゃんはレオじゃない人を好きになって。レオも諦めれば良いのに・・・。でも『諦めてユリちゃん』っていう選び方が、レオは嫌だったんだと思う。良いやつだし。ユリちゃんに失礼だろ? ・・・運転手さん、1週間で頑張ってよ」
蒼はじっと僕を見上げた。僕が二十五の成人男性に相応しく、十八の青年より体格が良いからだ。
「ありがとう」
と僕は心から言った。
蒼が、部下に信頼を置く上司のような笑みを向けた。
蒼は、僕をいくつだと思ったんだろう。