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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
仕事について考える
42/95

42.ガドルを案内

ビルのエントランスでユリに連絡を入れた。

『どうしたの?』

画面の中のユリは少し心配そうだ。

僕は笑ってみせた。

「お客様を連れて帰って来たんだ。仕事でお世話になっている人で、ガドルさん」

『まぁ!』

ユリが純粋に驚いている。


「もうビルのエントランスに着いてるんだ。一緒に夕食をと思うんだけど、良いかな? 仕事の相談に乗ってもらいたくて、僕のためにわざわざ来てくれたんだ」

『分かったわ! じゃあ私も応接室に行くわね』

「うん」

頷き合って、通信終了。


そしてやっぱり、お客様は応接室に通すのが普通らしい。

自分たちの部屋に通すというパターンは無いのかなぁ。と思いつつ、ガドルを見上げた。

僕が見たことで、ガドルが少し不思議そう眉を動かし、しかし真顔のまま、じっと見つめ返してくる。


「応接室にどうぞ」

「あぁ」


***


移動のためにビルのエレベータに乗ってから、ポツリとガドルが言った。

「ここまでくれば、聞こえるヤツはいないな」

ため息をつく。


「え、この外まで聞きとれる人がいるんですか!?」

「それぞれ聴覚範囲が違うからなんとも。ただ、人間離れしている連中もいる。用心しただけだ」

一瞬言葉を失いそうになる。


「ところでサク坊は帰宅してもその姿なのか?」

「あ。戻します。忘れてました」

「どちらでも俺は良いが」


ガルドの指摘を受けて、僕が大人の姿から本来の年齢16歳の姿に戻る。


「つくづく不思議だ」

と真顔でガルドが言った。


***


ガドルを応接室に案内し、ユリを迎えに行こうとしたら、すぐに廊下で合流した。


「仕事でお世話になっている人で、これからの仕事の相談をしようと思って。わざわざ送ってくれたから、夕食も一緒にと思ったんだ。良いかな」

「もちろん。緊張する。サクのお仕事先の人だなんて・・・! ガドルさんって、いつもサクが親切にして貰っている人でしょう?」

「うん、そうなんだ」

「しっかりおもてなししたいわ」

「うん」


夫婦初めてのお客様だ。浮かれてしまう。

二人でいそいそと応接室に戻ると、ガドルが少し苦笑を浮かべていた。

あれ。ひょっとして。

ガドルも普通の人より耳だって良いはずだから、廊下での僕たちの会話が聞こえていたのかも。


「初めまして」

とガルドが先に、ソファに座ったままながら、ユリに挨拶してくれた。


「初めまして。サクの妻の、ユリです」

「サク坊の面倒を見ている。ガドル、と言う」

二人の自己紹介に僕は照れた。

赤面してしまった僕に気づいて、二人ともが笑む。


「可愛い奥さんをもらったな、サク坊」

「はい、ありがとうございます」

僕とガドルの会話に、今度はユリの顔が赤くなった。照れたようだ。


「サク坊には勿体なさそうだが、サク坊に似合っている」

なんだか変な言い方だ。でも、これは褒めてもらっている。

「ありがとうございます・・・」

ガドルは僕たちを観察するように、口の端に笑みを浮かべながら見つめている。


ユリが少し勇気を出したように、明るい声をかけた。

「ガドルさん、お食事、何が良いでしょうか。お好きなものは?」

「きみたちは何を食べる予定だったんだ」

「いつもその時々で注文するので決めてなくて。魚が好きですよね?」

とは僕。

「・・・まぁな」


「植物系が多い方が良いです、よね?」

分解物質を利用した料理の場合、魚や植物系方が、動物系よりも味がマシだと、チームの大人たちは言っている。


「あの、良かったら、メニューで好きなものを選んでください。おもてなしさせてください。いつもお世話になっていて、御礼の気持ちです」

「・・・そうか。大したことはしていないがな」

ガドルは少し考えたようにしながら、手を差し出した。僕は、僕の端末をガドルに見せる。料理メニューが表示されている。


僕の端末を見た瞬間、ガドルは瞬き、少し驚いたようだった。

「多い」


あれ、ひょっとして。


僕にとっては当たり前に思っている暮らしは、実は、ガドルたちから見ると違うのかもしれない。

と僕は思った。


今表示されているのは、このビルから提供されている情報だ。

このビルはユリの宿泊先。

元々の僕の宿泊先、つまり研究所管理のビルだったなら、選べる料理も全て違う・・・?


少なくとも種類が今のビルほどないのかもしれない。


ガドルは物珍し気に、僕の端末の情報を切り替えている。

「きみたちのオススメはあるのか?」

と端末を見ながら聞いてきたので、

「魚料理だと、ホイル焼きとか」

と勧めてみる。


そう言えば、研究所ではホイル焼きなんて食べなかった。焼き魚や刺身や煮物は普通にあったけど。

小さな事だけど、こういう差がたくさんあるのかな。


「ホイル焼きとは?」

「蒸し焼きです。薄い紙状のアルミで袋みたいに魚と野菜が包んであって、開けて食べるんです。添えてあるレモンを絞ったり。ここで食べて好きになりました」

「そうか。なら、サク坊がこっちに来て食べて旨かったものを教えてくれ」

「はい」

真顔でガドルが僕の端末を返してくる。


僕は端末の中から、結婚してから初めて食べたメニューを探して選ぶことにした。

僕の隣に座っているユリが、僕の選択を見ようと一緒に端末を覗き込んでいる。


「僕が選んでみるね」

「えぇ」

「こっちにきて美味しかったもの・・・」

「チーズフォンデュは? サク、面白いって気に入ったでしょ」

「あ。うん」


ガドルはじっと待っていた。

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