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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
仕事について考える
41/95

41.日々

翌日からは、僕たちは安定した日々の繰り返しに入った。

ユリは研修に行き、僕はたまに集合場所や時間は変わるけれど、指定されたところに大人の姿で集合して、地下に潜る。


1ヶ月も経ったころには、僕は地下の仕事にも十分慣れることができたと思う。

それに大人の姿なので、本来の年齢よりも体力がある。

他の人たちに迷惑をかけない程度に歩くことができたし、何かが見つかった時には自分のリュックにもいれて持ち帰ったりもした。


チームの人たちは、初めこそ僕の大人の姿に、あんぐりと口をあけさえして驚いたけれど、毎日同じ姿で会うのだから、それが僕本来の姿のように慣れてくれた。


仕事後は、基本的に僕はユリが待っているからと夕食は一緒にとらずに帰らせてもらうのだけど、ドーギーに誘われたように、週に1度、一緒についていって一緒にご飯を食べている。


ちなみに、どうやら僕には味の違いは分からない。

「食べさせがいのねぇヤツだなぁ」

と、他の大人たちには呆れられたが、多分、僕が思うに、他の人たちの身体能力が高いから味だって違いが分かるのだろう。


とはいえ、この週1度の夕食に参加するたび、チームの人との交流が深くなる実感があった。

飲み食いを一緒にするってとても大事。


ちなみにこのお店は、地下から引き上げたもので勝手に作ってしまってから、研究所を通して建物認可を受けたらしい。

お店の人だと思っていた男の人も、普通にこちらの仕事に来て、食事の手配が楽しくて得意になったから、皆に夕食係だと任されている、チームの一員だというのも驚いた。

ついでに言うなら、動物育てる係や、植物を育てる係、それら食材の運搬係、なんかになっている人たちもいるそうだ。


とても驚いたのと同時に、よっぽど、味覚に優れた人たちにとってはこっちの食材の方が美味しいんだなぁ、としみじみ思ったりした。


***


「サク坊、奥さんの研修期間すんだらどうすんだ」

ある日は、地下での活動時、歩きながらそう尋ねられた。


「妻の実家の地区に、新居を選んだので、そこに行きます」

「仕事はどうするんだ?」


「妻と担当者とも相談する予定ですが・・・。そうだヴェドさん、僕、古いシステムを回収する仕事に興味があって、だけど具体的にどういう事か分かっていないのですが、ご存知ですか?」

「あぁ?」

と、僕と会話中のヴェドは不思議そうに僕を見た。

「ご存知も何もお前、今やってるだろうが」

「これですか。これって、他の町でもあるでしょうか・・・?」

「・・・」

ヴェドは歩きながらもじっと僕を見て、少し僕の耳元に顔を寄せた。


「止めとけ。せっかく普通の人間と結婚したのに、こんな仕事選ぶんじゃねぇ」

とても小さく、僕には聞こえるか聞こえないか程度の音量だった。

僕は驚いて顔を離したヴェドを見た。


後ろから、

「おい、グズグズ歩いてんなよ、お前らはぁ!」

と急に苛立ったような声がかかって、ヴェドは足早に僕の隣から離れていった。


なんだろう。


***


休憩時間、僕は、どうやら僕を保護対象と見ているらしいガドルに、そっと聞いてみることにした。

が、ガドルは僕がそっと伺うように近寄ったのを見て、眉を潜めて威圧してきた。

これは、

「何も話すな」

というガドルからのメッセージだ。僕は言葉を飲み込んだ。


そもそも、このチーム内にいて誰かと秘密話をする、というのは多分不可能だ。

皆揃って身体能力がとても高くて、小さな音や声まできちんと聞きとってしまうのだから。


***


「サク坊。送る」

その日仕事が終わって地上に戻ったら、ガドルが夕食を断ってそう言ったので驚いた。

不思議そうにした人も多い。


僕も驚いたけれど、きっと地下でのことをガドルが覚えてくれていたのだ。


「なんでだよ」

と一人が疑うように声を上げた。

「構わないだろう」

とはガドル。


チッ、と舌打ちが聞こえたので驚いた。

僕は慌てて、事情を説明しようとした。

「あの、実は、仕事の相談に、のってもらいたくて」


「だったら店で俺たち全員にすりゃいいだろうが」

と声があがる。とても不満そうだ。


僕としては、それでも良いと思うのだけど、この話を初めに打ち明けたヴェドや、威圧で僕を止めてきたガドルの態度が気にかかる。

多分、僕は皆の前で大きくこの話をしない方が良いはずだ。


「お前ら、ワイワイ騒ぐな。サク坊は姿はアレだが、思春期だぞ。秘密にしたいアレコレぐらいあるだろうがよ」

と呆れたように皆を宥めだしたのはドーギーだ。正直、ドーギーの対応にはいつもホッとしてしまう。

ドーギーはガドルにも声をかけた。

「ガドル、飯はどうすんだ。遅れて来るか?」

「いや。今日は久しぶりに味気のない飯でも食う」

「え、あ、すみません・・・」

と僕は謝りかけて、ガドルに冷たい視線で睨まれた。つまり、黙れという意味だ。


***


まだブツブツ声を上げる人たちもいたけれど、ガドルが僕の背を押して歩き始めたので、僕たちはチームから離れて僕の宿泊先に戻る事になった。


時折、チラ、とガドルを見るが、その度にガン、と威圧される。話すなというメッセージだと分かっているけれど、結構怖くてビクッとしてしまう。


「お」

とガドルは驚いたらしくて一声上げた。

話しかけようとしても威圧されるので、今日は、以前とは違うビル、つまり結婚して移動した宿泊先のビルに行くと説明しないままこちらに着いたからだ。


「こちらでも、良いですか? あの、良かったら、妻とも一緒に、食事も・・・味は美味しくないかもしれませんが・・・」

「サク坊の奥さんが怖がるだろう」


「先に連絡しておけば大丈夫だと思いますが・・・。会いたくないですか?」

「少し興味はある。嫌がられないのなら、では」

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