04.嬉しさと緊張と待ち合わせ (僕 視点)
やってしまったと僕は思った。
ついにやってしまった!
嬉しくて、管理担当者に電話した。
「だから、今日は特別に外出許可を貰いたいんです! 告白するので!」
『そうですかー。それは人生の一大イベントですねぇー。そういうのはできれば、もうちょっと前もって言ってもらいたかったですねぇー』
電話の向こう、担当者は僕に苦情を言った。だけど不許可ではないようだ。嬉しい。
「今日の状況を見て決めたのです。もし今日何か変わりそうだったら、僕は名乗り出なかった。でも今日も何も変わらなかった」
『そうですかー。そうですねー。怒っているのとは違いますよ、えぇ。ちょっとした急な変更への労働に対する不満ですよ。そもそも早めに申告してもらっていればきみにも利点はあったのにー、とか? 私の手配がもっと簡単で楽だったーとか、他を急いで手配しないといけないー』
「すみません。そこは本当にごめんなさい」
『それに告白と言うなら、成功率を上げたいじゃないですかー。きみにはノウハウをプレゼントしたのに。いったん戻っていらっしゃい、と言いたいのにこの距離では難しい。あーあ』
「・・・普通に考えて振られてしまう、とは思うんですが・・・精一杯伝えてきます」
『結果が出る前から落ち込まないように。まだ未来なんて決まってもない。頑張って掴んできなさい』
「ありがとうございます。あと、なんか本当にすみません」
『あーぁ。まぁね。あーぁ』
と言いながら、電話は切れた。
こんな態度だけど、僕は応援されているようだ。あと、僕の担当者は今日はとても大変らしい。ごめんなさい。
***
バスは駐車場にきちんと格納して、僕は今日はレストランで学校が終わるのをじっと待つ。
レストランのAIにどこまで通じるか分からないと迷いながらも、素直に『今日の卒業生に告白したくて、学校が終わるまでここで待っていたい、それからお茶か食事かをしたい』と伝えてみると、スムーズに『かしこまりました』と返答があった。
ここは学校の横だから大人数が収容できるように作られているけれど、基本的には空いている。僕が長時間居座っても何の問題もないようだ。
本当に、突拍子もない申し込みだったと思う。
来てくれるのかどうかも分からず、来てくれますようにと祈って待つ事になった。
来て欲しいけれど、来てくれることの方がきっと奇跡なんじゃないか。
あの子はレオが好きなのだし。
だけど、学校が終わって、あの子はちゃんと友達に連れられるようにしながら来てくれた。
ユリに、茜。それから、少し離れたテーブルを選んで、茜の恋人の蒼が着席する。
蒼は別席で良いのかと茜に尋ねたら、
「蒼は私ほどおせっかいじゃないから、って言うの」
と茜は笑う。
「でも心配だからって一緒に来たの」
この形が彼らのベストならそれで良いと、僕は理解したと示すために頷いた。
それから、僕はユリを見た。
緊張していて、すでに頬が赤くなっている。困っている。
僕は真剣になった。決してストーカー的な変態だとは思われたくない。だけど好きになった事は伝えたい。
望めるなら、付き合ってほしい。
条件が必要なら、その条件に僕を合わせたい、なんて思っている。
「学校終わりに、来てくれてありがとう」
「いいえ」
とユリは俯いて言った。大丈夫です、という意味だと分かる。
あまり時間を取らせても勿体ない。
「注文は好きなものをどうぞ。蒼くんも。全部奢るよ。きみたちの貴重な時間を貰っているんだし、来てくれたことへのお礼だから、遠慮しないで頼んでね」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
素直に言葉が返ってくる。席の離れたところにいる蒼からも。皆良い子だと僕は嬉しく目を細めた。
ユリはホットレモネードで、茜はホットケーキで、蒼はソーダ。
「運転手さんは頼んでないの?」
とは茜。
「あ。そうだった。栄養ドリンク頼んでいい?」
「運転手さん、幾つ? お父さんみたい」
と茜が笑うのに、僕も苦笑で返す。
「え。いくつ?」
「いくつに見える?」
「えー。私たちより上よね」
皆は18歳。
茜が積極的に会話を進めて来る。ユリは不思議そうに僕を見つめている。
僕は具体的な数字を返さない。
「きみのお父さんたちより若いよ?」
「そりゃそうだよー!」
茜が楽しそうに笑う。
「二十五。見える?」
と僕は尋ねた。
「二十五かぁ! 納得!」
茜が笑う。
ユリがじっと見つめているのを、僕は笑顔を見せる。
嘘じゃない。騙すつもりは全くない。
ユリはますます不思議そうな顔をした。
注文したものが頼まれてきた。僕のも透明なグラスに入っている。