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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
中央にて働く
39/95

39.あの時

研究所管理のビルだから、研究所データへのアクセスが、不可ではないそうだ。

そして、ドーギーは年齢も高いし皆のリーダー役ができるほど、色々権限も持っている、そうだ。


僕はドーギーと、同席したガドルから、僕が『廃棄ナンバー』だとか言われてしまう理由を、映像なんかも見せてもらいながら、知る事になった。


***


僕が4つの時。


人に影響与えるほど能力強かった人が、研究所に戻ってきてから暴走した。世の中に絶望してしまったのだ。

結果、機器異常も起こったけれど、生物にも影響が出た。


そして僕は、今までその深刻さを、随分軽くしか聞いていなかったらしい。


「狂ったヤツを中心に、そこにいてたヤツほとんどに影響が出た。死んだのも多くいるし、身体が変わっちまったヤツもいる。よっぽど鈍感なのは例外でいたらしいけどな」

とドーギーは言った。


ドーギーは、僕に見たいか確認を取ってから、見せてくれた。

僕も、事件の前と後では、組織が色々変わってしまっているのだそうだ。

ただ、生きるのには支障ない範囲だった。


話の流れで、大人の姿にもなってみせた。

二人とも驚き、どうしてそんな事ができるのかと訝し気だった。

事件の影響かもしれないし、単純に持って生まれた能力なのかもしれない。

僕にも分からない。純粋に、そういう風に生み出されたのだと思っていたのだから。


なお、明日からは大人の姿で仕事をすることになった。歩幅が違うから、移動が楽になるはずだ。


一方で、同席しているガドルは僕を宥めるように教えてくれた。

僕が当時とても小さかったのに、死なず生き延びたのは、精神強化型だからだろう、と。


精神強化型は、肉体強化型よりも精神的に強いそうだ。

精神的な影響を受けてしまった人ほど、影響に耐えられずに死んでしまったり、身体が大きく変わってしまったと言われているらしい。


「サク坊に今こんな話をするのは、消えるのを俺が確認するためでもあるんだけどよ」

とドーギーはじっと僕を見ていた。

「事件そのものはここで終わったが、この問題自体は終わらねぇ。研究所は、大きく人間離れしちまったヤツらをどう扱うか決めようとした」

「え」


初めて聞く話なのに、研究所生まれの人たちは、それぞれの事情で調べたりして、事件の全体を知っている人がほとんどだという。

だから知っておけ、と、ドーギーは言い、同席しているガドルも頷いた。


研究所は、研究所で生み出した人間を、どうしようか判断しようとした。

結果、全体で意見が決まったわけではなく、それぞれの判断に任される事になった。


「サク坊は、運よく『このまま研究所で育て続ける』という思想側の担当者に保護された」

ドーギーは、円グラフを見せてくれた。

僕は、半分より少ない方に入っている。つまり、半分より多い方は、僕とは違う扱いを受けることになったという事。


研究所で働く人たちも亡くなり、相当混乱したそうだ。

僕は知らなかったけれど、僕の本来の担当者はもっと年上の男の人で、この事件に巻き込まれて亡くなった。

そこを、リクさんが僕の担当者になってくれた。


あの時、リクさんだってまだ子どもだった。

あの時、動けなくなっている僕にずっとついていてくれたリクさんは、その後の僕のことまで、引き取ってくれたのだ。研究者のご両親にも訴えて、無理を通してくれたんだろう、きっと。


僕はそんな幸運に恵まれた。


だけど、担当者が亡くなってしまった人は他にもいた。

そして、担当者は生きていたけれど違う判断を下された人も。


「人間はな、1人作るのも育てるのも、素材から何から色々と手間だの何だのかかる。変異しちまったのは放り出して、新しく一から作ろうと判断したヤツも多かったらしい」

とドーギーは言い、ガドルも口を開いた。

「俺は別の場所ですでに働いている年齢だったから直接は関係なかったんだが。酷い有様だと聞いていた。今のサク坊より年下が、使い潰しのように働き手として社会に出されていると噂になった。普通に暮らす人間が気づかない場所に送られてな」


そしてドーギーのチームにも、研究所の子どもたちが、6人も急に配置された。働き続けて今もいる。

誰なのかを、ドーギーは映像で見せてくれた。名前はまだ知らないけれど、確かにチームにいる人たち。


「こいつらは単純に、担当者に恵まれなかっただけだ。確かに人間離れした力があるヤツらだが、だけどそれぐらい良いじゃねぇか。正直、サク坊の方が特殊個体になっちまってるのにな。サク坊が悪いって話じゃねぇ。こいつらの不運がどうしようもねぇ」


そして、話はここで終わりでは無かった。

研究所は、育てていた子どもたちの多くを労働力として社会に放り投げた一方で、新しい子どもたちを生み出そうとした。


「だけどよ。保管してた精子と卵子もな、変異しちまってたんだよ。考えてみりゃ、あれも生物だからな。だけど4・5年ぐらいかな、気づかずに新しく作られ続けてた」


それぞれの担当者は、また同じような判断を迫られた。

新しく生みだしたけれど変異種だった子どもたちを、そのまま育てるか、放棄するか。


そして。

変異した精子と卵子から生まれた子の大多数が、安楽死させられた。


研究所は、普通の人たちから採取しなおし、保管していた精子と卵子を全て入れ替え、また新しく、人間を生み出し始めた。


余談だけれど。

だから、僕のシリーズは、僕の次、40という不思議に中途半端な番号で終わったのだと、理解した。

全て打ち切られ、新しいシリーズから始められた。


ところでなぜか、ドーギーは画面から情報を読みとり、じっと眉を潜めていた。

僕の保護者リクさんの、他の子ども、つまりソルトとソウについて見ていた時だ。


「ソウってのについて、サク坊、何か聞いてるか」

「いいえ・・・」

「そうか・・・まぁ、良い」


気になったけど。

だけどそんなどころでは無く僕は相当なショックを受けていて、茫然としていた。


僕の姿は、話の途中で何度も消えたらしい。

とはいえ僕に自覚は無い。強いて言えば、ドーギーとガドルの姿がぶれて見えたぐらい。


「ショック与える話ばかりですまねぇな。だがな、俺のチームには6人巻き込まれたのが所属してる。全員、サク坊より年上だけどよ、普通に面白くねぇハズだ。サク坊は自分たちとは違って、大事に育てられたって思っちまう」

と、ドーギーは言った。

「だからよ、サク坊は言動に気をつけろ。分かったな」


***


その後、僕の気分を少し紛らわそうとしてくれたのかもしれない。

新婚だとは知っているけど、週に1度ぐらいはチームで一緒に夕食に来いと誘われた。


あの店は、味の分かる大人たちが何代もかけて作り上げた、貴重なお店だそうだ。

きちんと動植物を育てて、そのまま人の手で運んで来る。つまり、分解物資ではない品物が飲み食いできる。


僕は、心遣いを感じて、「おー」と返事をした。


ドーギーたちは、どうして僕がドーギーのチームに来たのか不思議がるけれど。

きっと、面倒見が良いからなのだろう。

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