37.地下にて
お宝とは何だろう。
「大昔には廃棄されてた物質だ。今なら大抵が分解できちまうから資源として回収できる」
「たくさんあるんですか?」
「さぁな。まぁ、潜れば潜るほど何かあるわけだが。AIで回収できる場所ならあとは別チームに託す。無理な場所なら、回収も俺たちがやる場合もある・・・。まぁどっちかっていうと探す方がメインだ」
初めて聞く仕事内容なので、なるほど、と素直に頷いた。
つまりはドーギーたちに付いていって指示に従えば良い。今は具体的によく分かっていなくても。
***
少しの休憩ののちに移動開始。
長距離で疲れを覚えてきたけど、弱音は吐けない。頑張ろう。
「着いた」
と言われた時は、僕はものすごく汗をかいていた。
「水分補給しろよ、サク坊ー」
と傍の人が声をかけてくれる。
僕は小さく「おー」と言って栄養ドリンクを取り出し・・・取り出したところで、取り上げられて驚いた。
「お前、これ濃度が高すぎだろ。フツーのないのか? こんなん飲んだら余計に喉が渇くだろバカ」
「あ、お茶も持ってきました」
「おいドーギー! もうガキがくたばってる!」
呼ばれたドーギーが、分かっていたように答えてきた。
「そりゃそうだろが。サク坊は身体強化タイプじゃねぇ。しかもまだガキだ。だからなんでこのチームなんだっていう話じゃねぇか」
「連れてくのかよ?」
「当たり前だろが。置いとく方が危険だ、分かるだろ?」
「こっちの仕事が進まねぇ」
すみません、と僕は内心で思いつつ様子を見守った。じっと聞く。
「初日だ。そこまでカリカリすんな、シルヴェ。お前だって6歳ン時は塀も超えられなかっただろが」
「このガキは俺の6歳ってことかよ」
嫌な雰囲気になっていく。
「仕方ねぇだろ。言っとくが、サク坊は精神強化型だ。ってコトはお前、サク坊の5歳の頃が今のお前かもしれねぇぞ、精神年齢がな」
「アァ!? 精神年齢が役に立つかよ!」
「良いから黙れ、おめーの方がウルセェよ。だったらお前がサク坊担いでやれば良いだろが。互いにラクだろ」
他の誰かが加わりだした。
「そりゃ良い案だな」
と誰かが面白がって笑いだす。
「お前らな、てめぇらも昔はガキだったと思い出しやがれ」
ドーギーがため息をついた。
「おぃサク坊、何黙ってる。言う事はねぇのか!」
僕は慌てて声を上げた。
「す、すみません! えっと」
とはいえ、どういえば良いのか。
実際、ついていけるか不安になってきている。どう意見を持てばいいんだろう。素直に言うしかない?
「体力が無くてすみません! 頑張ります!」
「おぅよ。倒れたら担いで持って帰ってやるよ」
ぶっきらぼうにドーギーが言った。
ブーブー、と不満そうな声がチームから溢れる。
「すみません。感謝します」
「良いか、ギリギリまで倒れんな」
「は・・・、おー!」
「よし。良いか、行くぞお前ら」
おー・・・。
不満そうにしながら、皆が声を上げる。
舌打ちの声も聞こえたけど、それでもまた移動が始まる。
***
宝さがしとは。ひたすら、歩いて、探すこと。本当に。
目印とか特に無いそうだ。
僕の隣の、初日の飲み会の帰り道に宿泊先まで僕を送ってくれた人、ガドル、が、そう教えてくれた。
一方、他の人たちも結局話しかけてくる。色んな人がいるけど、やっぱり親切なんだろう。
「見つかればこういうんだって見せてやれるけどな」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、面白い事を聞いたような顔で僕を見て、その人は、周囲を指差した。ライトに照らされた範囲だけが見える。
「見ろよサク坊。ここは、今の町の下に埋まった、昔の町だ」
「昔の・・・。埋まったって、どうしてですか?」
「どこかが壊れたんだろ。廃棄だ。ドーギーも言ってたろ、物質分解使って作られたモンは、いきなり壊れちまう。チマチマ直すより、上に新しいもん作った方が楽だったんだろ。頭良いのか悪いのか分かんねぇけどな」
「・・・」
僕は見回した。
壁に、床に、パイプ・・・。真っ暗。
「サク坊は耳は良いか?」
と他の人が口を出してきた。
「え、いえ、普通だと思います」
「視力は? 身体的感覚は? 全部フツウか?」
「多分、そうです」
「仕方ねぇなぁ・・・」
その人は息を吐いた。
待ったがため息の理由は口に出さない。
じっとその人を見ていると、傍のガドルが口を開いた。
「耳が良ければ、壊れ始める音が聞こえる。気づいたらすぐに知らせる決まりだ」
僕は驚いた。
壊れ始める音って。
「どんな音でしょうか?」
ため息をついた人が答えてくれる。
「小さい、弾ける感じだな。サク坊には、まぁ、聞こえねぇだろなぁ・・・」
「そうですか・・・」
僕は周囲を見回した。
壊れ始める音・・・。とても小さな。
ここは地下深い場所だ。
そんな音が聞こえたら、怖くなりそう。
あまり、聞きたくないなぁ・・・。
***
ごく少量の鉱石が見つかった。黒い粉も一杯落ちている。
社会見学に見せてやれ、と誰かが僕を押したので、僕はかなり目の前でその黒い塊を見ている。
「これ、火が出たな・・・」
と大人たちが言いながら、テキパキ回収を始めた。大きいものは手袋をはめた手でリュックの中に。粉は吸引。
「聞こえるか?」
と立ち上がって誰かが言った。
「聞こえねぇな」
と誰かが答えた。
「あれはなんだ。緑の。光ってる。揺れてるぞ」
「・・・火だ! 燃えてやがる」
「消火だ消火! 行くぞ!!」
「まずいな」
少し向こうに向けて、皆がすぐ動き出す。
ギョッとして、僕もついていこうとしたら、ガドルが僕の肩を押さえて動きを止めた。
「子どもには危険だ。ここにいろ」
「・・・分かりました」
ボォッ!
と、急に一際大きな燃え上がる音がして、僕はビクリと驚いた。こちらにまで暖気が来た。
視線を緑色の煌めく方に移す、と。
僕と緑色の間を、女の子が走って消えた。右から、左に向かって。
え、何。
目の前、皆がワァワァ騒いでいている。
「おい」
ガドルが、僕の肩に置いている手に力を込めた。
「え、はい!」
「今、何をした!」
ガドルが僕を睨むように覗き込んだ。
「一瞬消えてたぞ! なにしてた!」




