34.歴史と現状
※架空設定であり、科学的根拠等ありません
いろんな判断がされたはずだ。
そして、生き延びるために、皆を地球に戻そうという流れが一番強かった。
他の星から、戻ってこれた人たちもいる。
だけど、戻るには物質や、技術や、他の何かが足りず、その星に留まった人たちもいる。
「今はもう、地球にしか、人間はいない。つまり、他の星に残った人間は全て絶えたの。多くの物質をその星に残したままね」
だけど、もう取りに行けない。さらに地球の資源を宇宙にばらまいてしまう。賢明ではない。
人間は、残された物質を大事に守って、その中でやりくりして生きていくことにした。
だから現代では、人間以外すべて。建物も。システムも。木も。食べ物も。衣服も。最小単位にされた物質を分配して、作られる。
使用する時だけ、その品物に組み立てられるものも多い。例えば衣服。
データだけ持っておいて、使わない時は他のものに回した方が資源に無駄がないのだから。
なお、個人が使用できる物質量は決まっているらしいけど、普通上限を気にする必要はないそうだ。
支払いが必要なものは、自分の持つお金の中でしか購入できないので、そこでうまくコントロールされているそうだ。
さて。ユリが不安を抱いたのは、全てがこの物質分配で成り立っているから。
僕たちの町は、木々が多かった。
それも、分解された物質を使って、木々を作っている。植物は分解合成が可能だ。
「動物は無理なのよね。まぁ、ほとんど人間が回収しちゃって、大体の生物は絶滅させちゃったけど」
「お肉とか食べているけど、あれは牛じゃないんですか?」
「うん、牛のお肉。つまり牛の死体というか、身体でしょ。だから分解物質から作れるのよ、食べ物は」
「ふぅん」
という会話もしたっけ。
とにかく、今は木々の多いあの町も、『最新システムをもっと増やそう』と決まった場合、その分、不要なものが分解吸収されるだろう。いつか、木々も消えていくかも。
そうならなければ良い。
最新のシステムより、木々の方が必要な人間だっているのだから。ユリのように。
古いシステムはたくさん残っている。だから古いシステムを消していけばいいのに。
だけど単純にはいかない。古いシステムの分解が難しいせいで。
古いシステムを使いながら新しいシステムは作られていく。
物質や機能がいろんなところで混じっている。大きな範囲を一括してゴッソリ切り離す、というのが難しいそうだ。
だけど。
資源が限られているのなら、やっぱり時間をかけてでも、古いシステムを回収していくべきなんじゃないだろうか。
***
「僕、そういう仕事を選べばいいのかな」
「まぁ」
僕の思い付きに、ユリは少し驚いた。
「古いシステムを回収って、具体的にはどこでどんなことをするのかしら。サクは知っている?」
「うーん。知らない」
調べてみた方が良いね、とその日は結構、真面目な話をした。
***
ところで。休日4日目の夜のこと。
僕たちは、レオからのメッセージを受け取った。
「レオくんだわ」
とユリは小さく呟いて、僕はレオという名前にギクリとした。
レオには僕たちから夫婦の報告をしていないけど、きっと友達の間でニュースになっているんだろう。他の人たちからも祝いが届いているし。
ユリは無言で僕を見て、僕に手を伸ばして手を取った。
「一緒に見ましょ」
と少し大人っぽく告げられる。
僕は無言で頷いた。祝いのメッセージを拒否するのは大人げない。
ユリに誘導されて並んで座る。
自分が硬い表情をしているのが分かっているけれどどうしようもない。
ユリの操作でメッセージが始まる。
レオが画面に現れる。
レオはとても男前で。だからユリとお似合いだと思っていたのだ。美男美女だから。
変わらない姿に、僕の方は複雑になる。
レオが悪いわけじゃない。だけど嫌なんだ。
レオがゆっくりと話し始める。
『おめでとう。・・・どうか、お幸せに』
ゆっくりと笑う。男前。
少し何かを確かめるようにレオが頷く。
それで、終わり。
ユリがクス、と笑ったので驚いた。思わず、握っていた手をギュッと握ると、ユリが視線を僕に移す。
ユリは僕に何かを言おうとして、僕の様子をじっと見た。
動いて、僕にキスをくれる。僕からも。
またじっと見る。
サク、と名前を呼ばれる。多分、僕が硬い顔をしているからだ。
ユリがギュウ、と僕に抱き付いてきてくれる。だけど、きっと僕は拗ねている。
ユリが、ずっとレオを好きだったのを知っている。ずっと見ていた。そこからユリの事が気になったんだけど。でも。
「えっと、サク」
ユリが言葉を探している。僕を宥めようとしている。
「えっと・・・そうね、例えばね、レオくんがね、どこかに行って行方不明、ってなるじゃない?」
「え?」
「うん。でも、私は心配するけど、多分、探しに行こうとは思わないと思うの」
「・・・」
「でもね、サクがね。そうなったら嫌だから絶対嫌だけど、もし、行方不明になったらね、」
と言いかけて、ユリが想像したらしくてギュッと僕にしがみつく。声が泣きそうに震える。
「絶対嫌よ。泣き叫んで、私、飛び出して探しちゃうわ。当てもないのに、そうしないといられないの」
「うん」
「サクが好きよ。大好き」
すりすり、とユリが僕にほおずりしてくる。
「私は今ね、サクがいるから、生きている実感があるのよ」
「うん」
と僕は言った。
過去は仕方ないと、腑に落ちる。
今、ユリは僕の傍にいて、僕を大好きでいてくれる。
***
そんなこんなで、貰った休日は終わっていく。




