33.お勉強的な話
※架空設定であり、科学的根拠等ありません
その夜、僕たちはそれぞれの知識を披露し合った。
僕とユリの教えられている知識が違うかもしれないからだ。
結果、どうやら僕の方が、裏事情込みで、詳しく教えられていたようだ。
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昔、人間がここまで減っていなかった時代。
人間は、その環境で使えるものを材料にして、色んなものを生み出した。
宇宙進出の夢も持っていたから、宇宙船も作った。
人間はそして、ついに他の惑星でも住めるほどになった。
その結果、宇宙に出て行く人がたくさんでた。地球に残る人たちも勿論いたけど。
「ちなみに、保守的な性格の人間が残り、好奇心旺盛な人間が宇宙に出て行ったと分析されてます」
とは、その時に僕に授業してくれた研究所の女性のワンポイント知識。
それからしばらくは、人間が宇宙の色んな星でも活動する時代に。
だけど、また時が流れる。
なぜだか、それぞれの星で、人間が少なくなってきた。
一方で、人間は、地球にあるありとあらゆる物質を自由に使えるようになった。
存在しているものを最小単位にまで分解し、必要とされる別のものに再構築する技術を確立したから。
「あ、注文したものをすぐ受け取れるの、その技術のおかげだから」
とは、その日の僕の授業の感想を聞いた僕の担当者が、教えてくれた事。
町の下には大きなパイプが張りめぐされていて、建物などに繋がっている。中には最小単位に分解された物質が流れている。
注文があると、その場で必要な物質を組み合わせて、表に出す。
一方で、どこかにあった元々の品物だったり他の品物が、今度は分解されてパイプの中に吸収される仕組みなので、パイプの中の物質量は変わらないようになっている。
さて、この技術ができて、人間が使える物質の総量を把握するため、総計算されることになった。
計算には時間がかかったらしいのだけど、出てきた結果に、人間は自分たちの状況が不味い事に気が付いた。
「それまでの時代で、人間たちは宇宙に進出してました。宇宙船や生活に必要な機材や物資を持ち出してね。つまり・・・予想以上に、人間は地球の物質を宇宙に放出してしまっていた。人間には、地球の物質が必要だというのに」
補助的に他の星の岩石や何かを利用できても、根本的な生命の維持には、地球の物質が必要だった。
なお、他の星の物質を分解して必要な物質を作れば良い、という考えは消えていった。
他の星の物質を分解した場合、地球には存在しない物質までできてしまう。それらの扱いに困ったのだ。
そもそも地球に残っている人間たちは、確実に生き延びようとする保守的な性格が多いと言われている。
過去、資源の使える部分だけを使い、他は放置し、それらが災いを招く・・・という経験を何度もしてきた人間だから、人間にとって有害になるかもしれない未知の物質を恐れたのだ。
「ところで、これは私個人の意見ですが。この時代から振り返ってみれば、人間が宇宙に多くの資源を放出してしまったことは将来を深く考えていない最大の過ちでした。宇宙船などは全体的な取り組みでしたから仕方なかったとしても、個人レベルが好んで宇宙に散骨など行っていたのです。信じられます? 信じられない! わざわざ人間を構成する骨という物質を、宇宙に捨てて来るなんて! その輸送物質の損失も加わって、もう馬鹿としか言いようが無いわ!」
「・・・先生、落ち着いてください」
と当時の僕が宥めたほど。
「完全な自己満足! 地球上に存在するものは全て貴重な地球の資源なのよ! なにを考えてチマチマコマコマ、塵も積もれば山となるのに、そのせいで人間になれる最大値が小さくなっていくというのに!」
「先生・・・」
彼女も、僕に授業をしてくれる一人だけど、研究所の人間、つまり人間減少を危惧して人間を生み出す仕事をしている人だから、人間の最大値というものについてとても怒りを覚えるようだ。
きっと、当時はそんな考えはなかったんだろう。
だけど、今。人間の減少には、人間として必要な物質の減少も原因の一つと分かっている。
骨や肉や臓器や血になれる物質は、限られている。
そして、注文の品のように人間を『分解したものから合成して作る』なんてことはできない。
これは裏情報だけど、実験された過去はあるそうだ。
だけど、ただ。人間の身体ができあがっただけで、人間という生命体にはなれなかった。生きていなかった。
心臓が動くように制御したけれど、でもやっぱり違った。ただの機械制御された身体だったんだそうだ。
とにかく。
人間は宇宙に進出し、それぞれの星で衰退の兆しを見せ、地球では物質が減りすぎたと判明した。
いろんな星で、人間は減少を始めていた。勿論、地球も。




