31.休日
次の日が来た。
「おはようございます・・・」
『おぅ。どうした』
僕はまたそっと電話をかけていた。ドーギーに。
「えっと・・・その・・・僕は行けるんですが・・・」
ドーギーが呆れたような顔をしてから、フッと諦めたような顔をした。
「す、すみません、やはり、分かりました」
『新婚め・・・。いや、今日は祝いだなって連中と言ってたんだがよ』
「あ、いえ、行けるんですけど」
『なんだ。朝からダルい連絡すんな。何だ用件は』
「・・・すみません、休ませてください・・・」
『分かった。休み申請出す前に連絡してきたのは評価してやるよ』
「はい・・・途中合流ってできますか」
『無理だ』
「申し訳ありません・・・休みます」
『おぅ』
普通にしているんだけどユリはやはり不安傾向が強くて、あと、多分僕に会えたのが反動で嬉しすぎるらしくって、加えて夫婦となったので、無警戒にすぐ僕に接触して来る。
ので、昨日も一緒のベッドで眠る事になったのだ。
その結果、僕は眠っているユリを置いて仕事に行く、という選択ができないでいる。
『サク坊よぉ』
「はい」
『若いって良いよな』
「・・・え・・・はい・・・」
『今のうちに青春謳歌しておけ。そのうちしょっぱい現実にぶち当たっちまうんだからよ』
「・・・は、い・・・?」
『お前、いっそ5日ぐらい来んな。何もなくても』
「え? あの、それは・・・」
事実上のクビだろうか。僕はザァと青ざめる。
『その方が良いだろ。俺も楽だわ』
「すみません・・・」
どうやらクビではない、のか・・・?
『まぁサク坊の嫁さんの研修先が、俺んとこみたいに融通きかすのかは知らねぇが。まぁ、サク坊は基本休みで、来れる日があったら来いよ』
「っ!! ありがとうございます・・・!!」
驚きつつ、感謝を伝えた。なんて良い人なんだ! 頼りがいがある! じぃんと来た。
『じゃ、切るぞ』
「はい、本当にありがとうございます」
『おぅ』
どこか満足そうに、ドーギーが電話を切った。
***
結局、ユリも休みを申請し、休みの許可が下りたので、僕たちは5日間をのんびりと一緒に過ごせることになった。
夫婦の手続きの時に、親や友人にメッセージを送っていたので、その返事が届いてきている。
電話ではないから好きな時に見る事ができるので、届いた順に、飲み物を飲みながら二人で見る。
スクールバスで顔を知っている子どもたちが、ユリと僕に、祝いの言葉を伝えてくれている。
蒼のメッセージも入っていた。
『おめでとう。まさか僕たちより、こんなに早く結婚するなんて思わなかったから驚いてる。でもユリちゃん、幸せそうに笑っているのを見れて良かった。サクさんと幸せにね。困った事あったら僕か茜に相談してくれたらいいから。またいつか、夫婦同士で食事したいね。・・・サクさん。上手く言って良かったね。応援しています。本当におめでとう。末永くお幸せに』
メッセージの中で蒼が笑っている。
『そうだ。僕の近況連絡も。セキュリティ関係の仕事の担当になれそうなところ。何か気になる事があれば相談に乗れるよ』
という付け足しで終わっていた。
それから茜の分もある。
茜の方は、驚きと祝いと笑顔と勢いが満載だった。
『おめでとうー! 良かったね、ユリちゃん、すごい、本当にすごいよね、おめでとう、幸せなんだね、良かったー!!』
身振り手振りも激しくて、画面の向こうでバタバタしている。喜んでもらっていて僕たちも嬉しくなる。
ちなみに、茜からはユリへのメッセージばかりで、僕あての言葉は忘れていたみたいだ。
蒼と茜のお陰だな、と僕はメッセージを見てまた強く思った。
この2人がいたから、僕は今、ユリの隣にいることができる。
***
貰った5日のうちの2日目。
午後に、せっかくだから中央で観光しようと思いたった。
だけど残念なことに中央には観光名所などないらしい。しかも、事前申請が必要な場所も多い様子だ。
ずっと部屋にいるのももったいない。
周辺を調べて、レストランに予約を入れる。少しアンティークで大人びている。
行くにあたって、ユリは楽しそうに、オシャレをした。
僕はあまり服に頓着しないので、よく分からない。ので、ユリに選んでもらう。
「これ、似合うと思うわ」
「そうかなぁ」
「サイズはどうする?」
「一応、大人サイズまで買っておいて」
「えぇ・・・」
ユリが決定しかけて指を止め、隣に座っている僕を見上げた。
ん?
「どうしたの」
と僕は聞いた。
「25のサクさんには、ちょっと可愛すぎるかしら、って思ったの」
そっか。
「でも僕、都合で25の姿になるから、全部のサイズパターンが揃っている方が便利なんだ」
その年齢に合わせた服サイズに変わるので。
「そうよね・・・」
ユリは少し小首を傾げつつ、ポチ、と操作を決定した。
「でも、サクが本当に25になった時には、大人っぽいのを選びたいな」
「・・・うん」
ずっと一緒にいられるのだと実感する。嬉しいな。




