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30/95

30.始まり

どうやら、訪問者は、応接室以外に行くことができないのが普通みたいだ。道を外れると警告が出てくる。

ちなみに、ユリが僕のビル、応接室ではなくて直接僕の部屋に通されたのは、ユリが泊まりに来る可能性が高いと、先に使用登録されていたのだろう。


さて、今。

通されたユリの宿泊先の応接室は、非常に快適で豪華な作りだった。ユリの実家の雰囲気に似ている。


そういえば準備期間中に、ユリの宿泊先も選んだのだ。色んな写真や紹介があって、その中からユリが気に入ったところに予約した。

そう思うと、僕の場合は何の選択も無かったなぁ。


ついでに言えば、ユリの選択でみたような設備も、僕の宿泊先のビルには無さそうだ。


うーん。研究所生まれだと、扱いが違うのかな。

そういえばドーギーが、『研究所生まれって味』なんて応接室のおもてなしセットについてぼやいていたし。


「コーヒー頼んでも良い?」

「えぇ」

ユリがコーヒーを注文してくれた。

飲んでみる。

うーん。やっぱり僕には分からない。


「どうかした?」

「うん。仕事でお世話になる人がね、僕のビルの応接室のコーヒーの味が不満だったみたいで。でも、ここのも同じ気がするんだけど」

「そう・・・。ねぇサク、お仕事、初日だったのに、大丈夫?」

「うん。電話で話もしたし、今日は休めって言ってくれたよ」

「そう。良かった。安心ね」

「うん」


***


応接室で他愛もない話をしていたら、ピッと音が出た。

どうやら僕とユリが夫婦になったことをこの建物も認めたらしい。

出てきた案内に従い、ついでに僕の荷物をこちらに移動するよう手配する。

僕の端末が音を出したので確認すると、夫婦成立おめでとうございます、というこの建物からのメッセージだった。

いろんなサービスをするビルだなぁ。感心してしまう。


「サク。部屋を拡張できるって。お隣の部屋も貰いましょう」

「え? うん」

部屋からの画面に、このビルの見取り図が表示されている。ユリの部屋の面積は元々広かったけど、使用されていない隣の部屋をまるっと吸収できるらしい。

「この壁はとってしまって、台所ユニットをこっちに移動で良いかしら」

「うん」

すごい。こういうの、僕は見たことが無かった。

感心してしまう。


***


ユリの部屋に移動する。

ものすごく豪華で驚いた。


え、何。僕の部屋、ここ基準だったら物置みたいに見えたんじゃ・・・。

よくユリが僕の部屋に泊まったな、と思ったぐらいに差がある。

利用人数が増えたことで部屋を拡張できたけれど、拡張前でも4部屋あったというから驚きだ。僕はあの1部屋だけだったんだけど。


僕は多分、世の中をきちんと分かっていない。

ユリの当たり前の基準と、僕の基準は、多分違う。与えられている教育も。知識も。

茫然とした。


ただ。ユリたちが知る事のない、いわゆる裏事情というものは、きっと僕たちの方が知っている。


この世界は、思う以上に二重構造だったんだろう。表向きと、裏向きと。


嬉しそうに僕に部屋を案内してくれるユリをじっと見つめる。


だけど、僕が研究所生まれでも、ユリは僕が良いんだろう。そう自然に思うことができる。


***


晩御飯は豪華だった。

夫婦の届け出を行ったので、祝いの料理が勝手に提供されたのだ。

普段にない量で、食べきれそうにない。

でも残すなんてもったいないから、頑張って食べる。


保存が効くものはとっておいて、数日かけて少しずつ食べる、という案に途中で気がついて、日持ちしなさそうなものから食べることに。


「そうだ。僕、地下で仕事をするんだって。地下は注文の品が届かないから、昼食を持って行かなくちゃいけないって。ここから持って行くよ」

「そうなの。じゃあ、サンドイッチにしてあげるね」

「作ってくれるの? 本当に? 嬉しい」

「ふふ。私も明日はお昼を持参しようかな。そうしたらサクと同じものを食べてるって嬉しいもの」


祝いの料理を食べながらクスクスと笑い合う。


しばらく経ってから、あっと気づいて、一応ユリには口止めをすることにした。

「あの、地下っていうのは、もしかして言ってはいけないのかも。ユリには話すけど、他の人には言わないで」

「え。そうなの?」

「うん。研究所の関係の仕事なんだ」

「そうなのね。うん。分かったわ。そうよね、注文が届かない場所があるって驚いたもの・・・分かった、秘密」

「うん。ありがとう」


頷いてから笑ってくれるユリを見つめてから、僕は言った。

「あの、僕は、知ってくれているように、研究所で生まれていて。それで、学校ではなくて研究所で教育されていて」

「えぇ」

ユリが少し不思議そうに僕の話を聞く。


「だから、僕はいろんな、本当は公にされていない事を知っていたり、ユリに話してしまうと思うんだ」

「えぇ・・・。サクからの話は、他の誰にも言わなければ、良いのね」

ユリが判断してくれる。


「うん。・・・ユリから見て、一般的な事だったら、良いと思うのだけど、僕の話で初めて知る事は、秘密にしておいて」

「うん。分かった」

「ありがとう」

「うん。大丈夫よ」


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