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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
告白とお付き合い期間
3/95

03.最後の日(ユリ 視点)

いつものように、バスを降りた。

今日で学校は終わりだから、このバスで学校に来ることも終わり。

大きな、黄色いボディに赤いストライプ入りというスクールバスをチラリと振り返って少し感傷に浸る。

それは他の皆も同じようだ。


今日もユリは一人で立っていて、他の皆は誰かと連れ立っている。

勿論、皆は優しくて一人だからとユリを除け者にしたりはしない。


レオの事がずっと気になって好きだけれど、レオは私を選ばない。

レオは、まだネルの傍をうろうろとしている。

・・・そもそも、レオとは結局、あまり話す事も無かった、と思うと恥ずかしさで頬が染まる。

自分で声をかけようにも、レオはユリを避けてしまうから、かけられなかった。仲良くなりたかったけれど、それも難しかった。


パパーッ


クラクション鳴った。

あまりにない事で、大きな音に皆が驚いて振り返った。


黄色いスクールバス。その上に、運転手さんが立っていた。

そして、私たちに向けて両手を大きく振った。

笑顔で、嬉しそうに。卒業おめでとう、とでも言うように。


驚いた。


わぁ、と皆が歓声を上げた。すぐに楽しそうに振り返す友達もいる。


運転手さんは大きな声を出した。よく聞こえるように口に両手をあててメガホンのようにして。

「みなさん、卒業おめでとうございます!」


わぁ、と皆が歓声を上げる。

後続の車は、少し困ってクラクションを控えているのかも、とユリは思った。


「最後の日に、告白させてください!」


なにー? と皆が不思議そうになる。楽し気に興味の声を上げる。


「ユリさん、好きになりました! 良かったら、今日学校の後に、僕とお茶をしてください! お友達と一緒でも大丈夫です! お願いします!」


ユリは自分の名前が叫ばれたことに動揺した。それから内容にも動揺した。

隣の親友の茜が、純粋に驚いた「わぁ」という声を漏らした。

それから茜は彼氏となにか意志を交し合ったらしく、まるで宣誓のように手を上げた。

「私、ユリを連れていきます!」

「・・・ありがとう! 恩に来ます! 頑張ります!」


パッパー!!

今まで静まっていた車のクラクションが大きくなった。

パッパー! パッパッパッパー!!!


どうやらいい加減にしろ、という意味に思える。

今の時間帯、学校の前の道路は混雑するのだ。


「すみません! 戻ります」

運転手さんが慌ててバスの上から降りていく。

あっという間に、黄色いスクールバスが動いていく。


バスが移動したから、皆も移動を始めた。

ユリは動揺して茜を見つめた。しかし茜は彼氏と楽しそうに腕を組みながら、彼氏に向けて笑っていた。


どうしよう。どうしよう。

でも、茜と一緒なら、話ぐらいは・・・?


あまりに急で動揺が収まらない。皆は卒業イベントの一つだととらえたのか、「面白かったね」と興味を示しながらも、ユリの負担にはなるまいとそれ以上は発言を控えているようだ。


チラとレオを見てみたが、レオはユリの事など全く気にしていないふりをしていた。

少しはたじろいでいるかもしれないけれど。


でも、もしレオが動揺したなら、それは『レオだけが一人』になる恐れからに違いなくて。

はぁ、とユリはため息をついた。


徹底的に、自分はレオに対する魅力を持たない。いや、誰に対しても。

少なくともレオは、ユリを魅了しているのに。


「ユリさん!」

下を向いて進んでいた中、少し息の弾んだ声で呼びかけられた。

顔を上げる。

見ると、バスの運転手だ。その向こうに、黄色いバスが停まっているのも見える。どうやら停車位置を変えて、ここまで走ってきた様子。


「あの、急でごめんなさい。でも、この横のレストランで。お友達も2人までなら、奢ります。晩御飯が無理なら、お茶だけでも。もし僕がいなかったら、これ、番号です」

「え。あ、はい」

「あっ、私がちゃんと連れていきます!」

とグイと横から出てきた茜が言った。


「ありがとう」

と運転手が茜に嬉しそうに笑った。

それからユリに向けても。


でも。私は今まであなたのことを考えたことが無いのに。

断りに行かなくては、いけないのだろうか。


どう伝えようかとユリが迷ったのを察したのだろうか。


「大丈夫です。どんなお返事でも」

と運転手は言った。ふられても構わないと思っているのだと、ユリにも分かった。


なんだかストン、とその態度に納得した。

そうよね。あまりにも。運転手とは接点がない。

でも、なら、どうして、わざわざそんな風に会話を求めたのだろう。

誰からも相手に選ばれなかったユリに、最後に花を持たせようとしている?


運転手は、どこかユリを安心させるように、頷いた。包容力を感じさせるような大人の笑みだ。


私の心の中が分かるのかしら、とユリは少しそんな風に思った。


「いってらっしゃい。皆、ご卒業おめでとう」

一歩下がった運転手が、他の皆も見送りだした。



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