28.幸せ
「私の方は・・・サクのことを親は知っているし・・・。大丈夫よ」
「そっか。じゃあ、今日で良いよね」
「うん」
他の日でも良いけど、今日で良い。
お互い見つめ合っていたら、ユリが少し意を決したように見えた。
「あの、サク」
ユリが少し躊躇って僕を呼ぶ。
「うん」
「あの、私と、結婚して、ください」
「えっ」
思わず僕は目を見開いた。ユリが真剣な顔をしている。
僕は慌てた。
「え、うん。ぜひ! 僕からもお願いします! まって、僕が! 言うって約束してたから僕が言いたい!」
「え、返事はそれなの?」
ユリが少し困ったように苦笑して首を傾げて見せる。
待って待って。
僕は息を吸い込んで、吐いて、真剣な顔になった。
「僕と結婚してください」
ユリが目を丸くした。口を少し開けて、じっと僕を見てくる。『言葉をとられちゃった』と表情で伝えてくるようだ。
だけど、吹き出すようにユリが笑った。
「はい」
とユリは答えた。
僕も安心して笑ってしまう。
クスクスとユリが笑う。
「酷い。サク、自分のプロポーズを優先したわ」
「だって。じゃあ、ごめんもう一度言ってよ」
素直に詫びて、言葉をねだる。
ユリは笑い顔のまま、僕に告げた。
「サク、一生私の傍にいて。結婚してください」
「はい。僕からも、お願いします。ずっと一緒に暮らしたい」
知らず両手を握り合っていて、僕たちは幸せな気持ちに包まれて、しばらく二人でクスクスと笑い合った。
***
夫婦になったと届け出を出すと、世の中に夫婦だと認められて、いろんな支援も受けられる。
僕たちは、届けの出し方や、どんな支援があるのかをそれぞれ学んでいたけれど、ユリの方がきっちりと教えられているようだ。
それに僕は研究所生まれだ。だから一番初めに、担当者に報告して、注意事項を確認することにした。
***
『うわー・・・おめでとう』
担当者が、驚きを取り繕う事もなく、あっけにとられた表情で僕たちに祝いの言葉を告げる。
「ありがとうございます」
『はやー』
「はい」
『サクー』
「はい」
『はっやー』
「・・・はい」
ただの事実の指摘だけど、赤面してなぜか顔がにやけてくる。僕はそれを隠すために俯いた。
『いや、早いのに驚いただけで、いやびっくりなんだけどさぁー。おめでとう。うんおめでとう頑張ってこれから』
「はい」
僕たちの妙なテンポの会話を、ユリが少しキョトンとしながら聞いている。
向こうの画面には、僕とユリが並んで映っているハズ。
『で、そうだねぇ、注意事項。うん。サクは、公にはこんな人間』
ピ、と図が表示される。
僕とユリとで不思議に眺める。
ちなみに担当者は、僕がユリに、僕が研究所で生まれた人間だと話していると知っている。
『僕の両親の三男がサク』
「はい」
『僕は次男。本当は上に兄がいたんだけど、亡くなっちゃっててね』
「・・・そう、だったんですか」
『うん。年齢はさぁ。ユリちゃんのご両親には二十五の姿で挨拶にいってるからね。調べたりは無いと思うけど、サクの個人情報には、研究所で働く両親がいる、って理由で、この家族関係以外は全部シークレット。高レベルの鍵かける』
「はい」
『大丈夫、今までにもこういうケース起こってるからさ、上も慣れてるでしょ。これからの手続きは、全部、名前かIDだけで済む。普通に暮らせば良い』
「はい」
『あ、でもさ、ちょっと引くぐらいの超展開だから、何件か、手続きに引っかかるかも。変な情報確認とかしてきたら、こっちの手続きが完了してないってことで、数日待ってから改めてやってみてよ』
「はい」
引くぐらいの超展開って言われてしまった。事実だけど。照れる。
『じゃあ頑張ってね。支え合って長生きしてよ』
ふと優し気な笑みになって、僕はじぃんと感動を覚える。
隣で、ユリが、
「はい」
と返事をしている。
本当は、廃棄ナンバーと言われたことも確認したいけど、今は止めておこう。
***
夫婦を、時代は大いに支援している。
夫婦の届け出の手続きを開始したのを察知して、部屋の各所に案内が出てきて、僕たちの応答を待っている。
とはいえ、順番に目の前に来てくれるのでこちらが混乱することはない。
僕のIDと、ユリのIDを送信する。すぐに夫婦として承認されたと回答が来る。
次に、両親への通知をするかと確認が来る。二人とも通知を選択した。
両親あてに記録映像が送れるようだ。
僕たちは先に、僕の担当者宛てに、御礼の言葉を告げる映像を記録して送信。
次にユリの両親あて。
僕は姿を二十六に変える。ユリの両親には、結婚の報告と、僕からの決意表明と、ユリの明るい笑顔と。研修期間が終わってから、きちんと挨拶にいきます、とも記録する。
その後は、新居申請だ。




