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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
再会と顔合わせ
24/95

24.すがる

僕は急いでユリに電話をした。

『はい』

ユリはすぐに画面に現れた。


「ごめん、遅くなって」

『ううん』


「今、どこ?」

『え、伝言に・・・。サクの部屋にいるの・・・』

「分かった、すぐ行く」


僕は移動を開始する。エレベーターに乗りながらも会話を続けた。

「こっちに泊まる?」

『ううん。荷物が揃ってないもの』


「え、じゃあ、これからきみの方に送るよ」

『え』


「大丈夫? こんなに遅くなってごめんね。明日の準備とか無いの?」

『大丈夫。もう慣れているもの。・・・それをいうならサクこそ、ごめんなさい・・・』


「え、全然」

ユリがしょんぼりとしている。

急いで向かって、すぐに部屋にたどり着く。

「着いた」

『うん』


僕を認識して扉が開く。

ユリが嬉しそうに現れた。

「おかえりなさい!」

「・・・ただいま」


一瞬で僕は幸せになった。焦りとか色々が一瞬で吹っ飛んでしまった。

互いにニコニコして見つめ合ってしまう。


とはいえ、先にハッと気づいたのは僕だった。

「送るよ。もうこんなに遅いのに」

途端、ユリが不安そうになった。

でも、お互い明日の予定もあるし、何よりユリはこちらには泊まらないのだし。


ユリは悲しそうになってから、じっと何かを考えるように下を見つめ、僕の片手に手を伸ばしてギュッと指を握りしめた。

ドキリとする。

「いや」

と、ユリが我儘を言った。

「・・・うん」

と僕は言った。ユリは、自分が我儘を言っていると自覚している。


「遅いわ、サク」

とユリは今更苦情を言った。僕の指を握ったまま、俯いて。

「うん。ごめんね」

「いやよ」

とユリはまた言った。

「でも、荷物が整ってないから、泊まらないんだろ?」

と僕は現実を言い聞かせた。


「・・・」

ユリが無言だ。でも拗ねている。

僕の肩に額を付けるようになって、僕に顔は見せてくれない。


「今日は遅くなってごめんね」

「明日は早い?」

「それが・・・」

僕は目を泳がせた。

まだきちんと確認していないのだけど、どうもドーギーたちは、仕事帰りに毎日一緒に食事をしに行っている感じだった。


いつの間にかユリはじっと僕を見つめていた。

「まだ分からなくて・・・」

と僕は少し濁した返事をした。

ユリが無言で僕の腕にギュウとしがみついた。


「荷物、買う」

「え?」

ユリの言葉を確認しようと聞き返す。

「買うから、ここで泊まりたい。良い?」

「え、だって・・・」

「嫌」

と言って、ユリは顔を歪めた。じわりと涙が浮かんでいくのを間近で見た。


ユリが泣きだした。僕の腕にすがるようにしながら、子どものように。


ずるずると僕の腕からずり落ちるようにして座り込んでしまうので僕は慌てた。

ユリは顔を両手で覆って泣いている。

「ユリ・・・」


ぇっ、ぇっ、と押し殺そうとして泣いている。


僕は途方に暮れて、背中を撫でた。

しばらく撫でても変わらない。

「遅くなって、ごめんね」

とまず今日の事を謝る。

フルフルとユリは首を横に振った。まだ泣いている。


ぇっ、と声を上げながら、時折、『ごめんなさい』と言おうとして、言葉に上手くできずに失敗している。

我儘を言って僕を困らせていると、ユリ自身が自分を持て余している。


どうしよう。本当に困った。

僕はそっと抱きしめた。

「じゃあ、泊まる・・・? 荷物、買えば大丈夫?」


泣きながら、ふるふるとまたユリは首を横に振った。


「僕は大丈夫だよ。ここ2人部屋だし。ベッドはあるよ」

と言うと、まだ泣きながら、少しユリが笑おうとしたのが分かった。


「荷物買おう。勿体ないなと思ったんだけど、そうしよう。僕も一人だと心配だし」

ユリの事がだけど。


何かを言おうとして、ユリは失敗してしまったらしい。逆に涙が込み上げたようだ。

うぅー、と唸るようになってしまう。


本当に心配な状態だと今更ながら分かる。


明日、休みが取れないだろうか。

働く初日に休むなんて常識的に考えてダメだけど、僕がここに来たのは、ユリのフォローをするためだ。


まだドーギーは起きているはず。

どこまでの事情を知っているか知らないけど、正直に打ち明けて相談しよう。

他の人たちには呆れられそうだ。でも、仕方ない。


「明日、休める?」

と僕はユリにも聞いてみた。

ユリがピクリと動いて、驚いたように目を上げる。

「僕の方も、聞いてみるから」

ユリの目が揺れている。それからくしゃりと顔を歪めてしまった。


「大丈夫。ユリの方が大事だから」

と僕は言った。

担当者が僕に教えてくれていたからこんな風に言えるのだと、自覚しつつ。


うぅー、と、ユリが声を押し殺そうしながら泣いていて、僕に抱き付いてくる。


「荷物買って、ここに泊まって、明日休んで、のんびりしよう」

と僕は言った。

まるで悪魔のささやきだ。


ユリが僕に縋っている。

ごめんね、と、言おうとしている。

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