22.紹介
「・・・先に、俺が言っといてやる。今から夕食で、チームの連中に会うが・・・。お前は、本当は廃棄される運命だった」
え、と驚く僕を、ドーギーがじっと見ている。
「無事に育って、不幸中の幸いってヤツだ。なんで俺のチームに来たのは俺たちが考えても仕方ねぇ。サク坊は、自分が廃棄ナンバーだって、知って、なかったな?」
僕の表情を見ながら、ドーギーが慎重に確認している。
僕は言葉なく、頷きを返した。
与えられた情報に、動揺している。
急にドーギーがブレて見えた。きっと緊張のせいだ。
僕はまた、時計を遅らせてしまいそう。
ドーギーの声は真剣だ。
「分かった。だけど、言ったように、俺たちのチームは馬鹿が多い。サク坊の知らない事を知ってるヤツもいる。良いか、そいつは、サク坊はそれを知らねぇってことが分からねぇで、お前に言っちまう。悪気はねぇ。深く考えてねぇだけだ。俺たちは身体能力型で、精神的な事が得意じゃねぇし、好きじゃねぇ。でも、だからって分かり合う事に手ぇ抜くな。怒ったって良い。ケンカなんてしょっちゅうある。言い分を伝えないと分からねぇ。俺の説明、お前にちゃんと分かってるか?」
コクリ、と僕は頷いた。
この人は、僕を思って話してくれている。
具体的に僕が良く分からなくても、事前に注意を促してくれている。
「言葉で返事しろ。無言でいるな」
「わかりました」
「そうだ。良いか、声が基本だ」
「はい」
「多少馬鹿な方が可愛げがある」
「・・・はい」
「まぁサク坊なら大丈夫だろう」
「はい」
つまり僕は馬鹿だと言っている。ちょっと微妙。でも悪気はないというのはこういう事なのかな・・・。
なんだか複雑な気分になったが、ドーギーの方は、言いにくい事を言ったのでスッキリしたらしい。
「よし!」
と両膝を自分の両手でバシッと叩き、立ち上がった。
その音に僕はハッとした。
「俺らのうまい店に案内するぞ! 奢りだ」
「あ、ありがとうございます」
「ん、んー? なんだ、時間経ってねぇな。いや、そんなはずねぇ」
『計器の乱れを感知しました。修正しました』
と壁にメッセージが現れた。
時刻が一瞬で修正されたので、ドーギーは口を開けてから無言でまた口を閉じた。
それから首を捻る。
「あ、あの」
僕の体質を説明する前に、ドーギーは呟いた。
「ここも駄目だな」
「いえ、あの」
「サク坊、行くぞ。俺んとこは時間厳守だ!!」
「え、はい!」
ズカズカ歩き始めるドーギーに、僕は慌てて後に続く。
移動中に説明した方が良い気がする。
だけどそうしたら僕を持て余す?
僕が、廃棄ナンバーって、どういう事なんだろう。
ついていけば、他の人が教えてくれる? 僕の意思に関わらず。
それを聞いたら、僕は大幅に時間を遅らせてしまいそうな気がする。
ドーギーに打ち明けておくべき?
***
移動中、とてつもなく親切な事に、ドーギーは僕に見える景色の色々から、中央について説明してくれっぱなしだった。
あれは、何の建物だ、とか。あそこにマークが入ってるから目印に覚えとけ、とか。
似た色の建物ばかりなので、僕が街を覚えやすいように話してくれている。
僕はうなずいたりそれに答えたりするのが精一杯だった。とても親切な僕を思っての情報で、自分から急に違う話題に持っていけない。
ただ、途切れないドーギーの話に僕はふと心配になった。
夕食って、結構遅くまであるのかな・・・。そんな気がする。話が盛り上がって長引きそうな・・・。
夕食後にユリと会う約束をしていることを、先に話しておいた方が良い気がしてきた。
だけどどうも僕の歓迎会らしくて、とても言い出す事ができない。
***
案内された店に驚いた。
他の建物に相応しくなく汚れていたのだ。
明らかに他の建物から浮いている。
「新人連れてきたぞー!」
ドーギーが声を上げて扉を乱暴に手で開けた。
僕は色んな意味で動揺した。
扉が自働じゃない!? ボタン制御でもなくて、手で開けるんだ!?
オー、という低い声が歓声なのだろうか。
「おいサク坊だ!」
「おー」
「は、はじめまして」
「おー!!」
「酒だすなまだ16だぞ! ジュース! お子様の飲み物だ!」
「おー・・・」
「サク坊そこ座れ!」
「は、はい」
長いテーブル。カウンターだ。カウンターしかない。
ドーギーみたいな男の人ばかりが並んで座っている。カウンターの中にも!
「ウィ」
変な掛け声と共に、僕の前にグラスが置かれる。
「なんだそれ」
「ミルクだ」
途端、馬鹿にした大きな笑い声が店内に弾けた。
「ミルクだと!」
「貴重品だぞ」
「違いねぇ! 取り寄せか!」
「当たり前だ、言っとくが乳児用じゃねぇぞ、カルシウムが骨に良い」
「違いねぇ!! 俺もミルクいっとくか!」
「取り寄せが面倒だっての」




