18.再会
3日間もかかる高速移動中は外部からも切断されてしまうから退屈だったけれど、中央についた途端、着いたことへの感動とか味わう間もなく、待ち構えていたAI制御の車に僕は引き渡された。
なお、僕を研究所に迎えに来てくれて3日間の移動に付き合ってくれた人とはここでお別れ。
ちなみに、相手はずっと本を読んでいて、僕にも用意してくれていた本を貸してくれたので、基本的に黙々と読書して過ごすだけだった。
僕はあっという間に、ビルに運ばれた。
降りるように指示が出る。
次々に現れる誘導指示に従い、エレベータに乗って上階に移動する。
移動の際に見えた高層からの景色に僕は心を躍らせたけれど、僕の気持ちをAIは待ってくれない。促されるまま慌てて歩く。
1つの扉にたどり着く。ここに来るまで、人間には一人も会わない。
僕は今更、すでに別れた迎えの人に感謝した。あの人がいなかったら、僕は中央は無人なのかと勘違いしてしまいそうなほどだったから。
ピーッと、僕の到着を知らせる音が小さく聞こえる。
シュ、と扉が開いた。
「・・・サク!」
ユリだ、と現れた人物を判断できた時には、もう飛びつかれていた。
「サク、サク、来てくれた、嬉しい、うわぁああん」
ユリがまるで子どもみたいに泣き始めたので、僕は本当に驚いた。
彼女は僕より落ち着いた性格と思っていたのに。飛びついてきたのも驚くことだ。
本当にこれはユリなんだろうか、と混乱して固まっている僕に構わず、ユリが僕の胸元で泣いている。
「・・・ユリ?」
と僕はやっと声に出した。
僕が動揺しているのにやっと気づいたらしい。ユリが顔を上げた。見たこともなく泣いている。でもやっぱりユリだった。
「大丈夫?」
僕はすでに心配になった。
「会いたかった。ずっと寂しかった」
「うん」
ぎゅっと抱き付いてくるので、僕もそっと抱きしめた。
思った以上に不安だったようだ。
「ずっと一人なの。指導の人も、いるけど、画面越しで、あまりいなくて、普通の話ができなくて、寂しくて」
「うん」
ユリは電話の時は頑張って笑顔を作っていたのかもしれない。電話でもたまに泣いたりしたけど、一生懸命笑おうとしていたから。
僕に対して、見栄を張っていたのかな。
ユリが鼻をすする。
まだ良く分かっていないけれど、僕は同情した。1ヶ月ずっとこんな環境なら寂しくて仕方ない気がする。
「研修は大丈夫? 僕は邪魔してない?」
タイムスケジュールはユリから電話で聞いていて、たしか昼間はずっと研修に当てられているはずだ。
「うん。でも、訪問者が来るから特別にって時間を空けてもらってて。そこは融通してくれるの」
「そっか。良かった。ここが研修の部屋?」
「ううん。研修のビルだけど、ここは応接の部屋で、外の人に会う時はこの部屋って」
「そっか」
「いつもは違う小さな部屋にいるの」
「うん」
僕にひっついて離れないユリをまずは安心させた方が良い、と僕は思った。
それにしても、本当に誰も来ないなぁ。
それとも、普通はこうなのだろうか。人間が少ないのだから。
思えば研究所は普通より人口密度が高いらしいし、バスの運転手というのも、小さなバスに大勢の子どもを乗せる仕事だし・・・僕は、今の時代においてはとても貴重な環境しか知らないのでは。
いや、でもそう考えるなら、ユリたちにとっても同じでは。今まで学校という世界しか知らなかったのに、急に大人になったからと言って、無人に近いようなところに一人で放り込まれてしまうなら。
そう感じた僕は、ユリがこんなに寂しい思いをする状況にムッとした。
他の子どもたちだって不安な日を送っているんじゃないだろうか。そう思うと色んなことまで心配になって苛立ちを感じる。
どうして世の中は、そのあたりをきちんと考えてないんだろう。
「サク、ずっとこっちにいてくれるの?」
「うん。丁度2ヶ月、こっちの仕事になったんだ。その後は未定だから、ユリの状況に合わせて選べるかも」
「そうなの」
ユリははにかんで嬉しそうに僕を見上げた。
「ねぇ、本当に、ついたばかり?」
「うん。本当に。ついさっき着いたばかりで、ここに来たんだ」
「そうなの」
状況を確認して驚いたらしいけれど、ユリはすぐにまた僕を眩しそうに見る。
「座りましょう」
「うん」
僕はユリに腕にぎゅっとしがみつかれながら、応接室に踏み込んだ。
***
真っ白な整えられた空間。きれいすぎて僕には居心地が悪い。やっぱり研究所は随分薄汚れていたんだな、と僕は部屋を眺めて思った。
ユリがワゴンを押してきて、僕にお茶を渡してくれる。
それから僕の隣に座って、遠慮しつつ、僕に近寄ってくる。
余程嬉しいらしい。ソワソワしている。
僕は嬉しくてクスクスと笑ってしまった。
「何?」
「ううん。可愛いなと思ったから」
「だって、嬉しいんだもの」
「うん。会えて嬉しい」
「ふふ」
二人でお茶を持ちながら、ニコニコして見つめ合う。