表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/95

12.1ヶ月

朝起きたら、目の前に綺麗な顔があった。ギョッとした。慌てて周囲を見回す。

ここはどこだ。

ものすごく動揺してから、傍にいるのはユリで、そうだ、海の帰りだ、とやっと思い出した。

うわぁ心臓に悪い。


いや。

これってものすごい状況なのでは。


僕は自分を落ち着かせて、身を半分起こしていたのをまたそっと寝た。

そしてすぐ傍を見る。


とても安心して眠っているユリがそこにいる。


僕はただ、じっと見とれた。


***


ユリの瞼が動いた。

それからフッと瞼が開いた。


その動きを僕はやはり見とれてしまっていた。


が、ユリもどうやら驚いたらしい。

急にバッと大きく目を見開き、息を飲むようにして身を引きかけ、ベッドから落ちそうになったので僕はやっと慌てた。

「危ない!」

「え、あ」

片腕を掴んだけれど間に合わず、ゴトン、とユリが床に落ちてしまった。

「大丈夫!?」


慌てて覗き込むと、床に痛そうに顔をしかめたユリがいる。

「僕だよ。おはよう。僕は十五の姿で、きみと僕は、海の帰り。思い出した?」

「・・・」

ユリはまた薄ら目を開けてから、僕を見て、それから部屋を見て・・・。

何かにハッと怯えてて、慌てて僕のいるベッドの上に登り、僕の腕をつかんだ。部屋の中を探るように見回している。

朝が来ても、何かが怖いみたいだ。僕も部屋を見回すが、やはり僕には分からない。

「大丈夫? 灯り、全部つけるね」

朝だから昨晩よりずっと明るいのだけれど。

「うん」


灯りを全部つけると、やっとユリは息を吐いた。

「やっぱり、ここ、怖いわ」

と泣きそうだ。

僕は頷いた。きっとユリにはそうなんだろう。


「もう出よう。ユリ、は車の中で休めばいいよ」

「うん・・・」

あまりに怖そうなので、心配になる。

一方で、僕の傍から離れようとしないので、頼られている実感が密やかに嬉しかったことは、ユリには秘密だ。


***


食事は別の部屋で食べることができた。提供される少しそっけない朝食を採り、僕とユリはすぐに宿を出て車に乗り込んだ。


帰路についてもまだ怖そうで、僕は不思議になってふと思った可能性を口にした。

「あの部屋、最後まで余っていたって事はいわくつきだったのかな?」

「・・・え」

口にしない方が良かったかも、と気付いたけれどもう遅い。

ユリは気になってすぐ端末で噂を調べた。きちんと調べる性格らしく、ボードに情報を細かく映し出して目を走らせた。


「・・・ねぇ、やっぱりそうみたい・・・」

運転は基本的にAI制御だけれど、より快適に迅速にを意識するなら、都度使用者が細かな部分で調整をする。何もしなくても目的地には着くけれど、少しの違いで快適さが変わる事も知っている僕は、基本的に走行状態を見ている。

だけど、ユリの不安そうな声掛けに視線をユリに向けると、やっぱり泣きそうな顔でユリは僕にボードを向けていた。

ユリがピックアップした内容が3つほど表示されている。


どうやらあの部屋は、ユリのように、『怖い』と評価されることが時々あるみたいだ。だから人気がなくて空いていたらしい。


「・・・わぁ」

と、僕は言った。それ以上どう言っていいのか困ってしまった。

ユリは助けを求めるように困っている。


とはいえ、もう泊った後だし、もう出た後。

どうしようかな。僕が冷静なのは、僕にとっては全く何も怖くなかったからだろうか。


困った僕は、話題を変えようと思った。

・・・そうだ。

「・・・良い景色を見てから帰ろうよ。今日の出発、予定より少し早いから」

「うん。良いの?」

とユリも顔を上げる。


「僕も見たいし」

「うん」

ユリの気持ちが少し上向いたようだ。

良かった。


「少し寝てていいよ。ついたら起こしてあげるから」

「ううん。大丈夫。きちんと眠れたもの。・・・手を繋いでくれたから」

と照れたように教えられる。


「寝てる間は、怖くなかった?」

「うん」

とユリが恥ずかしそうに笑う。それから「ありがとう」とお礼も言われた。

僕も嬉しくなって笑った。


***


帰り道、少し予定のルートを外れて、小さな花がたくさん咲いているという丘の上に足をのばした。


長い草の間に小さな花がたくさん咲いていた。

風がけっこう強めに吹いていて、僕たちはその意外さにものすごくはしゃいだ。

追い風に走ってスピードを楽しみすぎて、車に戻るのに大変だったことすら、二人とも楽しくて笑っていた。


***


「今日は本当にありがとう。とても楽しかったです」

とユリが車から降りていく。

「僕も。とても楽しかった。一緒に行ってくれてありがとう」


「明日も会ってくれる?」

とユリが少し心配そうに確認してきた。

「うん。喜んで」

「良かった」

「明日はどうする?」

「行ってみたいところある?」


***


次第に僕たちは、どこに行きたいかというより、互いに会う事ができれば良いのだと気づくようになった。


一方、ユリはこれから働き出す準備を整えなければいけない。

どうせなら、その準備を一緒にしようと僕は提案し、ユリもそれに同意した。

そしてある日、準備の相談をユリの家でしたいとユリが言った。つまり、ユリの家を訪問するのだ。

ユリは僕の返事をじっと待っている。

「うん」

と答えたが、僕はものすごく緊張して動揺していた。

お家、つまり、ユリの両親に、僕は紹介される!!


僕は、担当者に、ユリとの外出内容を報告するように言われている。


ユリと別れて研究所に戻った後、慌てて駆け込むように、担当者に相談をした。

「ユリのご家族に紹介される事になったんですけど!! どうしたら良いでしょう、ついてきてくれますか、リクさん!!」

「うっわー」

いつものように怠そうな口調で感想を口にした僕の担当者は、僕をまじまじと見てから、なぜか嬉しそうに顔を綻ばせた。

「じゃ、僕がサクの保護者ってことで僕も行こう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ