表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/95

11.怖い時

「小さい時はいつも?」

「ううん。たぶん、その日ぐらいかな・・・すごく怖いものを見ちゃったんだ。僕は怯えて眠れなくなっちゃって。それで、助けてくれたんだ」

「・・・そう。じゃあ担当者さんはヒーローね」

「そうだね」

僕は楽しくなって少し笑い声を上げた。


ちなみに、僕がそんなに怯えた原因は、いまではきちんと分かっている。


僕のように生まれた、ある一人が、自分の生まれを絶望したことが原因だった。

産まれてくる子にも色々いる。

そして、社会に出てみれば、暮らしていた価値観とは少し違う世界が広がっていて。

それで、その人は自分の存在を完全に否定したのだ。こんな風に人間は人間を生み出してはいけないのに、よりによって自分はそんな命なのだと。


たまに、そう結論を持ってしまう人が生まれてしまうことは事実で、精一杯防ごうとしても、万全では無くてどうしようもないと研究所でも言われている。

ただ、問題だったのは、その人の場合は、絶望があまりにも強くて、あまりにも周囲にも自らの感情を反映させてしまう能力が強かったこと。


一人の絶望が、研究所のいたるところに不具合を起こし、多くの者がその感情に影響を受けた。

幻覚を見た人もいるし、変化してしまった生命も出た。変化は大概見た目の恐ろしいもので、それを目撃した人も多く出た。そして、僕もそれを運悪く目の前に見た。


僕の見たものが幻影だったのか、何かが変化した実物だったのか。それはもう分からない。

僕にとっての事実として、まるで儀式めいたように、黒い魔術師が目の前にいて、宙に浮かせた人間を頭から喰らう。そんな光景に、僕は声も出ないほど恐怖し、動けなくなった。


「あの・・・その、誘ってるとかじゃ、無くて、本当に、怖くて」

とユリが言った。

「うん?」


「同じベッドで、隣に寝ても、困らない?」

「・・・分かった」

と、僕は了承した。

僕が困るのかは分からないと思ったので、そう答えてみた。


分かったと答えた僕のベッドに、ユリも入ってくる。

「手・・・」

というので、手を出して握る。


「ひょっとして、二十五の方が安心する?」

と尋ねてみた。

「分からない」


「そう。必要だったら言って」

「サクは、本当に優しい人ね。ワガママばかりで、ごめんなさい」

「大丈夫。怖いところに泊まってしまって残念だったね」

「うん」


「僕が、昔の日の僕の担当者で、きみが昔の日の僕だね・・・」

「うん・・・」

と答えながらユリが照れた。

幼い日に例えてみたけれど、実際は幼くはない男女で並んで寝ている。

こちらも照れて目が泳ぐ。早速困ってきた。どうしよう。


明かりを消してくれたら、まだ見えなくて良いかもしれない。

「照れるから、灯り、少し光量を落としたら駄目かな」

「うん・・・」

もう片方の腕を伸ばして光量を落とした。


「緊張してますか?」

とユリが聞いた。

「うん。勿論」

と僕は素直に答えた。


「私に、呆れていませんか?」

と聞かれたのには驚いた。すぐ近くにある顔を見ないようにしていたのに、思わず視線を向けてしまう。

僕の方に横向きにしているユリは、目線を下げていたが、僕の動きに気付いたらしく目を上げた。視線があった。

とても不安そうだった。


「大丈夫。呆れるなんてないよ。照れるだけで。どちらかっていうと嬉しいよ」

と僕は正直に告げた。むしろ『どちらかっていうと』という表現は我ながら格好をつけたな、と自覚がある。


僕の答えに少し安心したようで、ユリは少し微笑むようにしてまた視線を下げた。

「おやすみ。良い夢が見られると良いね」

僕は、幼い日に担当者が一生懸命、僕を思ってかけてくれた言葉をなぞって告げた。


あの時の僕の担当者は、偶然、僕の近くにいた、ただの子どもだった。研究所勤務の人の息子の一人。

震えている僕に気づいて、ずっと傍にいてくれた。少し顔見知り程度のお兄ちゃんだったのに。

大人たちは全て、原因解明や引き起こされている事態の収拾に大わらわで。きっと、僕は彼がいなければ同じように壊れてしまっていたかもしれないと、思うぐらい。


あの時の、僕の担当者のように、ユリに安心を与えられたらいいのに、と僕は思った。


「・・・海、楽しかったです」

とユリが小さく言った。御礼のつもりかな。

「うん。僕も」

と答えてから、付け加える。

「貝殻もきれいなの採れたね」

皆へのお土産に、選んで採った。

「えぇ」

楽しさを思い出したようで、ユリが嬉しそうに笑みをこぼした。


やっぱり可愛いなぁ、と僕は思う。

怖がっているのに、少しずつ安心しているところが。

そうか、だから僕の担当者は、僕の担当者になってくれたのだろうか。


「大丈夫。何か怖い事があったら、僕が二十五になって守ってあげる」

「ふふ。二十五でなくても、素敵ですよ」


「本当に? 本当にそうなら嬉しいな」

「本当に。私の方が意気地なしだわ」


「大丈夫。少しお化けを怖がるぐらい、とても可愛いから皆気にしないよ」

「もう・・・他の人には秘密よ・・・お化けって、私言ったかな・・・」


「分かった、秘密。誰にも言わない。・・・おやすみ」

「おやすみ・・・」


互いに話していて安心してきたのか、それとも海はとても楽しいけれど体力を奪うというのは正しかったのか、いつの間にか二人で仲良く眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ