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ようこそ!!友澤古書店へ  作者: 御津門
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いらっしゃい!友澤古書店へ

カランコロンと昭和の喫茶店にあるようなベルが鳴り、ドアが開いた。

「いらっしゃい」

「いらっしゃいませー!」

と中も喫茶店と言っても良いくらいコーヒーの匂いがした。


最初の声は決して接客業を好んでやりたがらない様な声で、客が来たから「仕方ない」という様な響きのある声をした男…無精髭を生やし、似合わないエプロン姿でコーヒーを飲みながら本を読んでいた。

本のタイトルは「怪奇幻想小説 ウィアード」だった。


2つ目の元気な声は女の子の声で、こちらは店に並ぶ本棚や床や机に所狭しと積んである本にパタパタとホコリ取りで掃除をしていた。

どうやら北神明高校の制服を着ているところを見ると、女子高生のようだ。

北神明高校は制式名称を北神明女子高等学校と言いキリスト教系のミッションハイスクールとして有名で、所謂お嬢様学校としても有名である。

その子は、ぶっきらぼうな声の男とは反対に長い髪の毛を後ろでまとめて制服の上から男と同じエプロンを着ていた、顔は整っており誰がどう見ても美人だという様な顔つきである。

ともかく言うなれば美女と野獣。

そんな2人がいるのは「友澤古書店」である。


「って、なんだセドラーか。いらっしゃいって言って損した」と店主である男が本気で残念そうに言う。


入ってきたのは、店の看板娘と同じくらい美人でなおかつスタイルの良い女性だった。


「なんスかーその言い方は、一応私も客っスよ」と見た目とは裏腹に軽々しい口調で答える。


耳塚皐月。この女性は普段は同人誌やアンソロジーコミックなどの漫画を描いているのだが、売れない。

そのため仕事が無いと、こうして店にやって来ては背取り行為をしてそれをネットで売って食いつないでいるのである。

背取りとは現代ではセドラーと呼ばれ転売を行う者の事で、嫌っている店が多いのが現実である。


「それにしてもいい匂いっスね〜葉月ちゃん、私にもコーヒー貰えないっスか?」


これまたちなみに葉月ちゃんこと友澤葉月は先ほどからエプロン姿でホコリ取りをしていた女子高生である。

今更だが、店主の名は友澤俊彦という。

2人は従兄妹である。


「葉月、こんなやつにコーヒーなんて入れなくていいぞ。背取りが図々しい……」と机の上にあった本と読んでいた本をさりげなく片付けようとする。


「兄さん、いじわるしちゃダメですよ。皐月さんも『一応』この店の数少ない常連さんなんですから」といつの間にか用意してきたコーヒーが入ったマグカップを皐月に渡しながら「はい、どうぞ。今入れたばかりですから火傷に気をつけてくださいね」と葉月。


「葉月ちゃんは、お兄さんと比べて優しいっスね〜うちに嫁に来ないっすか?」ズズッと飲みながら、先ほど俊彦の隠した本に早くも目が行く。


「相変わらず口がお上手ですね、皐月さんは。ですが私は兄さん一筋ですから」と葉月は最後の方は皐月だけに聞こえるくらいの声で言う。


「残念…店主、今隠したのは……ウィアードの短編集全巻じゃないっすか?それとドナルド・タイスンの『ネクロノミコン アル・ハザードの放浪』の学研M文庫版じゃないっすか?いくらっすか?売ってください。というか売れ」と皐月


「お前も目ざといなぁ……嫌だよ。これは売りたくねえ。少なくとも俺が読み終わるまで売る気はねえな。今、ラヴクラフトにハマってんだ。というか俺の読書とコーヒータイムという神聖な時間を汚すな」と俊彦。


「それじゃ売るときは私に言ってください。買うんで。それを売ってご飯を買うお金にするっス」とコーヒーを飲み終えた皐月は葉月にお礼を言い、カップを返すと店の中の在庫を確認し始めた。


カランコロンとまた音が鳴り響いた。

「こんにちはー!!葉月」と元気いっぱいな声で入ってきたのは、葉月と同じ北神明高校の制服を着た髪は短髪で、身体はスレンダーないかにもスポーツしていますよ、と言うような見た目の女子高生であった。


「いらっしゃいませ、智子ちゃん」と葉月

「おぉ、お前は……葉月の友達の智子ちゃんか。いらっしゃい」


讃良川智子。

日本のスーパーゼネコンの1つである讃良川グループの1人娘であり、葉月の親友である。

俊彦は葉月の友人である智子には優しいのである。

「と、俊彦さん…こんにちは」と急に智子は急に顔を赤くし先ほどの元気な声は何処へやら弱々しく答える。


そこに皐月がやってくる「あれ?智子ちゃんじゃないっすか。久しぶりっすね。葉月ちゃんと智子ちゃんは相変わらず仲が良くて同じ女として見ていて、ヨダレが……じゃなくて羨ましいっす」と獲物を見つめる虎ような目つきをする皐月。


「お久しぶりです、皐月さん。お元気でしたか?」と智子。


「見ての通りっスよ!元気!元気!なははは!」と皐月が言った瞬間、ぐ〜〜っとお腹が鳴る。

「げん……きっス」と少しトーンが落ちる皐月。

「ははは…相変わらずの様ですね」と智子は苦笑いしながら答える。


そこに「智子ちゃん、登さんから頼まれていた本が届いてるよ。今日はそれを取りに来たのかい?」と俊彦が割って入るかの様に言う。


「は、はい!そうです。実は父が本来なら来る予定だったんですが、急に会議が入ったとかで、代わりに行ってきてくれって。父は俊彦さんに行けなくて申し訳ないと言っていました」と智子。


「まあスーパーゼネコンの社長だからなぁ…登さんには気にしないでくださいって伝えてくれるかな?」と俊彦。


讃良川登。讃良川グループの創設者の会長に次ぐNO2で智子の父である。

「そして、これは母からです。いつも夫と娘が世話になっております、ありがとうございます、と言っていました。……母から改めて言われると恥ずかしいですね、ははは」と白い箱を渡す。

「なんだい?これは、お菓子かな?こちらこそいつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます。と良子さんに伝えてくれるかな?それと智子ちゃんもいつも葉月と遊んでくれたりしてありがとうね」


それに対し智子は顔を赤くして「私こそいつも葉月に仲良くしてもらい嬉しいです!」

「智子ちゃん、こちらこそいつもありがとうね」と葉月


そんなしんみりとした空気を壊す様な声が1つ

「ぐへへへ、良いネタもらったっスよ〜次はこれで行くっスよ!」

これに関しては全員放置状態である。


「ところで、その箱の模様って雅屋さん?」と智子の持つ白い箱の表面に書かれた模様を指差しながら問いかける葉月。

「うん、そうだけど。それがど…」

「すごい!!幻と言われているあの雅屋さんの和菓子があるなんて!」と葉月が興奮しだす。


「そんなにすごいのか?その雅屋って」

「すごいどころじゃないです、兄さん!幻の和菓子と私の茶道の師匠も言っているくらいで、江戸時代からの老舗でありながら皇室御用達で、基本一般には流通せず、作った物も予約していた茶道関係者にしか届かないという話です。私お茶淹れますね!!」と葉月は興奮しながら奥の台所に行った。


「茶道の師匠ってあのばーさん、まだ生きてるのか。

……えーっとそれじゃあ登さんが頼んでいた本『日本の古来から中世の建築物論集』全5巻な。お代は今度でも大丈夫だよ」と見てはいけない物を見て後悔するかの様な顔つきで智子に話しかける俊彦。

「は、はい。大丈夫です。父から代金は受け取ってるので。こちらです」とこちらも見てはいけない親友の顔をスルーするかの様に封筒を渡す。


「ありがとう、確認するね。全5巻で代金は15万円……はい、確かに頂戴しました。これ領収書ね」

「はい、ありがとうございます」と封筒の代わりに領収書を受け取る智子。


「15万!!!何スか?!その価格は。それにその私への接客と明らかに違う応対の仕方は。もぐもぐ」と叫び口に頬張りながら話す皐月。


「セドラーは客扱いしないからな俺。

お客様なら俺はしっかり対応するよ。

それにこの本は明治時代の貴重な本なんだ、だからその価格。

ということで、お客様何か本日はお買い求めしますか?

というか何食ってんだ、テメエ!!」


「お菓子っス。雅屋の。そして私の今日の最初で最後の食事っス。葉月ちゃんがお茶淹れてくれたので……ズズズ」

「兄さん、このお菓子美味しいですよ。兄さんと智子さんもこっち来て一緒に食べましょう?って食事?皐月さん、今日も食べる物無いのですか?」と心配気に話す葉月に対し皐月は

「まあ大丈夫っスよ。昨日は実家から送られてきた最後の1個のみかん食べたっスから」


「いや、大丈夫じゃないだろ。それ……葉月、悪いけど、今夜の夕食1人分多めに……智子ちゃんも良かったらどう?葉月、2人分追加できるか?」

「いや、そんな、悪いです。私は……家に帰って食べるので」と智子。


「智子ちゃん、1人分や2人分多めに作っても私は大丈夫です。食べて行ってくださいな」


「そうっスよ、遠慮する事無いっスよ」とお菓子を次々と口にしていく皐月。

「いや、お前は少し遠慮というか、計画して生きろ」


「そういえば、父が俊彦さんの事褒めていましたよ」と葉月が淹れたお茶が全員に行き届き、テーブルで小さなお茶会が始まったところで智子が言い出した。

「俊彦さんは顧客の望む物を揃えてくれる、立派な人だって。父も『私もこの歳でお義父さんから社長職を受け継いで経営者になったが、まだまだ若輩者だ。俊彦さんに見習いたい』と」と少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら話す。

「登さ『当然です!!兄さんは何て言ったって「古書店探偵」なんですから!!』と俊彦の言葉を大声で遮り興奮しながら話し出す葉月。

こんなに興奮した葉月を智子も初めて見たかの様に驚いた顔で見ている。


「こ、古書…店探偵?何すか、それ?」と可笑しいのか肩を震わせながら問いかける皐月。


「兄さんは今はこんな感じで店内の掃除もせず本の整理もせずに本を読みながら、踏ん反り返って私のコーヒーばかり飲んでいる人で、たまに来る店の利益にもならない背取りの方々を相手にしていますが」

「おいこら葉月、お前そんな風に見ていたのか」

「利益にもならないって…葉月ちゃん私の事そんな目で見ていたんスか…」

と葉月の言葉にそれぞれ反応する2人。


「ですが!一度注文が入れば、兄さんは必ずその本を探して用意するのです!!だから兄さんの元には全国各地から注文が入るのです。そして誰が言い出したのか……まあ私が名付けてネットに投稿したのですが…古書店探偵と呼ばれる様になったのです!!」と3人が引いてるのも気づかず語り出した葉月さん。


「確かに……いつの間にやら古書店探偵って電話やメールで注文が入ると言われるようになったがお前が付けていたのか?!」


「ねえねえ葉月ちゃん、私って利益にもならないの?」

言葉というのは残酷である。


「安心してください、兄さん!私が兄さんの全てをお世話しますから、存分に私の愛情を込めたコーヒーを飲み、本を読みながら注文が来るまで待っていてください!」


「ははは……葉月はお兄さん想いなんだね」と我に返った智子、だが若干引いている。


「……兄さんは昔から物を探すのが上手なのです。幼い頃、私が大切にしていたかんざしを失くしたときも見つけてくれました。だから私にとっては『探偵』なのです」と少し落ち着いてきたのか少し恥ずかしそうに語る。


「あったっけ?そんな事?」

その瞬間、世界が闇に包まれた。

初めまして!

読んでいただきありがとうございます!

連作短編的な作品「友澤古書店」始まりました。

マイペースに更新していくので読んでいただけると嬉しいです!

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