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その三 少女が奴に捕らわれるに至るまで

 高校二年生の飯塚玲奈はいろいろと後悔していた。

 バイトのシフトさえあれば、こんなことにはならなかっただろう。

 いま彼女は、見知らぬオッサンに羽交い絞めにされている。


 高校に入って漫画研究会に入って楽しくイラストや漫画、コスプレに精を出していたりしたのだ。

 意外とお金がかかるためにバイトをしていたのだが、今日は幸か不幸かバイトのシフトが無く、直で帰ってみた。

 そしたら二人のおっさんが着けているのに気付き、急に羽交い絞めにされて自宅のアパートに立て籠もられてしまった。

 よりにもよってこんな目に遭うとは。

 頭には拳銃(本物かどうかよくわからない)を突きつけられている。

 このおっさん。変質者じゃない。変質者だったらとっくの昔にやることやっているはずだ。

 なにしたいんだろう。


 警察がぞろぞろ集まっている。

 真っ赤に染まった夜の風景は何ともおどろおどろしいというか、火口の真上のように錯覚しそうだ。

「な、なんで、人質に取ってるの?」

 怖すぎて頭のネジが吹っ飛んでしまったのか、なにか言わないと気が狂いそうだった。

「人の命一つで世界は変えることができる」

 なんかすごい怖い言葉が聞こえた。

 頭がおかしいんじゃないだろうか。

「ならさ、総理大臣とか殺せばいいじゃん。私じゃなくて」

「……黙れ」

 そう言って急におっさんは押し黙る。

 図星を突いてしまったのかもしれない。

 このおっさん、中二病なのだろうか。

 自分はすごいとか根拠なく考えているようで、正論を言われると何も言い返せない。

 なんだろう。昔おまじないに凝りまくって変な本やアクセサリーを買いあさったっけ?

 そのころは大人はみんな汚いとか思ってたけど、今になってみれば自分も相当に汚いのだ。

 このおっさんは、そういう経験が薄い気がする。

 人間汚くてナンボ。クラスメートの悪口とかしてるんだもの。なかなかに汚い。

 このおっさんは、童貞なんだろうか?彼氏いない歴=年齢で処女の私が言うのもなんだけど。

「おっさん。開放したほうがいいと思うよ。警察のスナイパーが狙ってるはずだし」

「黙れ!」

 このおっさん、まじで物わかりが悪いかもしれない。

 電話が鳴る。

「電話に出た方がいいよ、ネゴシエーターだっけ?交渉してくれるだろうから」

 次の瞬間、銃声とともに電話機が木端微塵になった。

「……!?」

 かなりすごい音だった。

 てか、これであの銃は実銃ってことになる。

 からだが震える。

 急に尿意まで。

「あの、トイレ」

 言いかけるとすごい顔で睨まれた。

「ひぃ!?」

 びっくりして少し漏らしてしまう。

「逃げられては困るからな。命は惜しいだろ?」

「あ……あぁぁぁ……」

 怖すぎて遂に決壊してしまう。

「嫌……いやぁッ……」

「チッ……うるさい#$%&’(」

 もうここからは覚えていない。何があったかまったく。


 病院の中で女の刑事さんが慰めてくれた。大丈夫。犯人の脅しで暴れなかっただけでもすごいと。

 けど、人間の尊厳はお漏らしで吹っ飛んでしまった。

「その……気を落とさないほうがいいわ。あえて言えば、あれでよかったの」

「え?」

 刑事さん衝撃のひとこと。

「そのね、昔、バスジャックで人質がおしっこを我慢した結果病気になって入院する羽目になっちゃったの」

「それに、そう恥ずかしがることでもないわ」

 何処からか白衣を着た女の人が入ってきた。

「貴方は?」

「そっか。はじめましてだもんね。この病院でお医者さんしてます、久谷奉子って言います」

「くたに?」

「ええ。まあ、女の子ってのはどうしても恐怖とかで失禁、つまりはお漏らしをしてしまうの。だから、豪勢なジェットコースターのある遊園地だとそういう時のために下着とかを常備してるのよ」

「そ、そうなんですか?」

 絶叫マシーンとか乗ったこと無いからなぁ。お世話になったこと無いもんなぁ。

「そう。女の子の尿道は男の子のより短いから、堪えられないんだよねぇ。わたし、ジェットコースターで漏らしちゃったことあるし」

「え!?」

 久谷さん、衝撃のカミングアウト。

「それにね、恐怖が差し迫った時ってね、どの動物も反射で無理やり排泄して身軽になろうとするの。生物学的にも全くおかしくはない」

「そうは言っても……」

 やっぱり、納得できない。

「大丈夫よ。誰にも言わない。そんなこと調べるテレビや新聞もない。それにね、被害者に関する情報をあえて流して、これ以上興味を持たないように釘を刺したわ。違反したらもう二度と警察の取材を受けれないもの。誰も聞きにいかないわ。それに興味もないだろうしね」

 刑事さんはそう言ってにこっと笑う。

「皮肉な話だけど、うちのスナイパーが犯人撃ち殺しちゃって、みんなの興味はそこだからね」

「う……申し訳ありません」

「謝らなくていいよ。悪いのは犯人。あなたが謝らなくていいわ」

 刑事さんはそう言って肩に手を置くと立ち去って行った。

「さあ。これからの日程について説明するわね」

 久谷さんの落ち着いた言葉が病室に響いた。

次回完結!何故奴は立て籠もりを起こすに至ったか!

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