第三話 夢喰う魔法使い
「私は魔法使い。夢を叶える魔法使いだよ」
雲の間から月明かりがスポットライトのように辺りを照らした。
目の前の少女は魔法使いだといった。何の混じり気もない純粋な笑顔でそういった。
「でもね、」
彼女は続ける。ただ、闇がなくなってしまった途端、前を向いてしまい表情はもう見えない。
「代わりに夢を食べちゃうんだ」
「夢を…食べる?」
「そうだよ」
夢を食べる生き物として有名なのはバクだろう。もちろん実在するバクが夢を食べるはずもなく、食べるといわれているのは龍のような想像上の生き物であるバクのほうだ。
確か、体はクマで鼻はゾウ、目はサイで尾はウシそして足はトラの見た目をした鉄を食べるというバケモノだったはずだ。
僕は目の前の少女を見る。どう見てもそれとは似ても似つかない。『少女』と形容しているように、人間なのだ。それも若い女性であることもはっきりとわかる。
「夢って、寝るときに見る夢?」
僕は聞いてみた。クスッという小さな笑い声がした後、彼女は首を振った。
「ちがうよ。『将来の夢』とか、そんな風に使われる夢。希望とか欲望とか、目標なんかのことだよ。私はバクじゃないからね、悪夢なんて食べれないし食べたくもないよ」
彼女はまた笑った。僕は笑えなかった。考えていることが完全に見透かされていると思った。
「大丈夫だよ。心が読めたりなんかしない。ただいろんな人間と会ってるからね、なんとなくわかるだけ」
また読まれた。そう思ったことも見透かされたのか、彼女はまた笑った。
「私に特殊な力なんてないよ。ただ夢を叶えて、その夢を食べるだけ。叶っていらなくなった夢をね」
「夢を叶えて食べるっていうのが、特殊な力じゃないの?」
僕は考えることをやめた。思ったことを素直に口に出すことにした。
「そんなことはないよ。人間とやってることはさして変わらない。食べてるものが違うだけ」
「全然違うと思うけど」
「人間だって家畜を殺して肉を食べてるでしょ?私は夢を叶えて夢を食べてるだけ。私から見たら動植物を食べて生きていける人間のほうが特殊なんだよ」
僕にはどうしても動物を殺すことと夢を叶えることをイコールで結ぶことができなかった。ただそう思っていることもお見通しだろうから、納得したことにした。
また月が雲に隠れた。今度の雲は大きくて、しばらく明かりは差しそうになかった。彼女の姿は完全に闇に飲まれた。
「ずいぶんと話し込んでしまったね」
闇の中から声がした。
「夜は危ないからね。事故なんかに会わない様に…」
足音はしなかった。ただ確実に声は遠ざかっていた。
「くれぐれもその美味しそうな夢をなくさないようにね。それは私が食べるんだから」
やっと目が慣れてきたころ、彼女の姿はもうそこにはなかった。
こうして僕は魔法使いにであった。あだ名でもない、手品師でもない、おそらく本物の魔法使い。
ただそれはイメージとは遠く離れた存在で、あれは僕のなりたい魔法使いなんだろうか。そんな疑問を覚えた。
しかし、彼女は僕の夢を食べに来るらしい。つまり僕の夢が叶う。魔法使いになれる。
僕は使えるのだろうか。人を幸せにする魔法を…いや、
自分を幸せにする魔法を
前日の夜に僕の身に何が起ころうとも日常は知らん顔で進んでいく。だから僕もそれに乗っていかなければならない。
朝起きて、制服に着替え、手品のタネを持ち学校へ行く。
学校につけばみんなにせがまれ手品をし、今日はギリギリのところでミサトも間に合って…
何も変わらない。いつも通りの日々。
ただ、この場にユージがいないことを除けば
どうもkinaです。
今回はちょっと短め?
しょうがないテラリアが面白いからしょうがない。