第一話 少年の夢
子供のころの夢ってもんは、大概叶わないものだ。
現実を知らない子供が考えるのだから仕方がない。警察官やスポーツ選手なんてものならまだ可能性があるかもしれないが、カレーライスになりたいなんて言われちゃあもうお手上げだ。
かくゆう僕も昔はとんでもない夢を持っていた。まあ昔といっても僕はまだ高校生、さっきまでさんざん子供子供と言っていたが世間から見れば僕自身まだまだ子供だ。
だからなのかもしれない、僕はどうやらその『とんでもない夢』を諦めきれていないらしい。
「よう、魔法使い」
バッシーンと音が鳴ったんじゃないかと思うくらいに背中を乱暴に叩いて、一人の少年が僕の視界に入ってきた。
「いったー、おいユージなにすんだ!」
ユージはこちらをふりむいてニヘラと笑った。
「おまえ魔法使いなんだからヒールとか使えるだろ~」
「んなもん、使えるわけねーだろう…がっ!」
僕は再び前を向いたユージの背中にめがけて、通学カバンをフルスイングした。
―――― そう、僕の夢は
僕は廊下で倒れているユージを華麗にスルーして、教室の戸に手をかける。
「おっ、おはよー魔法使い」
「あ、魔法使い君おはよー」
「よっしゃ、まってたぜー魔法使い」
教室に入るなり、クラスメイト達が挨拶をしてくる。みんな仲がいいのは良いことなのだが。
「そのあだ名、なんとかならないか?」
「えー、だってミサトがそう呼べってゆーしー」
僕の問いかけに、二番目に挨拶してきた女の子が答えてくれた。にしてもやっぱりこのあだ名は大元であるミサトをどうにかしないと直らないらしい。
「それに、ほんとに魔法使いみたいなんだし、いーじゃん」
「そーだそーだー、ほらそんなことよりはやく『いつもの』やってくれよ」
後ろから立ち直ったらしいユージが言う。
「しょうがないな~」
そういうと教室は朝だというのなんでこんな元気なんだろうかと不思議に思うほど盛り上がる。
―――― 魔法使いになることだ
「しかし、毎日毎日飽きないもんかねぇ」
「飽きさせないようにお前が工夫してんじゃねーか」
僕のボヤキにユージが反応する。
「別にそんな気はねーよ」
「またまたぁ、そんなこといって今日も新作なんだろ?」
「…まあな」
「ほれみろ、ちゃんと飽きないようにしてんじゃねーかこのツンデレめ」
「ツンデレゆーな。それにこれは仕事のために…」
ユージと言い合いをしてるうちに僕の机の周りには小さな人だかりができる。大体1クラス分、僕のクラスには今からやることに興味のない人や部活の朝練をしている人もいる。つまり他クラスの連中も何人かいるということだ。
「ほらほらぁ、前説はそのくらいにして早く始めてよー。ホームルーム始まっちゃうよ」
机の真ん前に陣取った女の子がそういうと、ほかの連中も囃し立てる。ユージは言い合いを止め、
「こりゃ、シツレイしましたぁ~」
そういって他の人同様、観客となった。
僕はため息ひとつ。そして仕事モードに入り、一礼した。
クラスメートたちの拍手が静まるのを待ち、僕のショーが始まる。
―――― 手品なんてものじゃなく、僕は魔法を使いたいんだ
約10分後、僕はピンポン玉を手に再び礼をした。始まりの礼の時より大きい拍手が起こる。
「すごいすごぉ~い、ビー玉がどうやったらピンポン玉になるの~」
「俺、後ろから見てたのに…」
「てゆーかビー玉ん時結構強く握ってたよな?どのタイミングでかわったんだよ、ピンポン玉潰れちゃうぜ」
「もっかい、一回だけでいいからみせて~」
おのおの感想をやんややんや言っている。アンコールの声も上がるが、いつも通り無視する。
「まっ、もっと見たいって人はこいつの店に来て金払えってことだな」
空気を読んでユージが締めに入ってくれる。かわいそうなことにブーイングを受けているが。
「うるさいうるさい!そーゆーことで朝の部は終了。昼の部を待て」
「いや、昼はやらねーからな」
「じゃあ、…夕方の部?」
「やらねーよ。てかそれこそ店に来い」
―――― 空想の世界の物だってわかってる
僕のショーが終わり、机の周りからみんな離れていった頃、一人が教室にすごい勢いで入ってきた。彼女は僕のほうを見るなり明らかに落胆した。
「あちゃー、もう終わっちゃったか『魔法』ショー」
「魔法じゃない、手品だ、マジックだ」
僕はすかさず反論する。
「なーに言ってんの。魔法使いなんだから魔法でしょうが」
「いや、だからそう呼んでるのは…」
「わたしだけじゃないよ~今やみんな魔法使いって呼んでるもんね~」
「くそっ、そうだミサトのせいだ。なんなんだお前の影響力は。いつの間にか浸透してるし。最近あだ名でしかよばれねーよ」
「え~、でもなりたかったんでしょ?」
「うぐっ」
―――― わかって、成長して、諦めたんだ
「昔のことを掘り出しやがって」
「ほんの数年前だけどね」
―――― でも
「だいだい、魔法なんて物語の世界の物で実在なんてしないだろうが」
「あらあら、かわいげなくなっちゃって~」
「お前は僕の母親かなにかか!?」
―――― いまだに魔法使いになれたらって、そう思う
どうも、はじめましての方は初めまして、kinaです。
もう一方のほうもろくに書いてないくせに新作です。でも形式が違うので許してね☆
さてさて本編のほうに触れていきましょう。
ん~、日常風景を描きたかったからしょうがないいんですけど地味ですよね一話。ファンタジー(笑)みたいな?
次回からちょっとずつファンタジー要素が入ってくるので、まあ導入部だし仕方ないよな~みたいな温かい目で見守っていてくださると幸いです。
実は短編じゃない連載形式の話を書くのはこれが初めてだったりします。なのでどんなふうに構成していくべきかヒジョーに悩んでおります。
たとえば一話あたりの文字数だとか。大体2000字程度で読みやすく区切ったほうがいいのかなと思って今回はそうしてみました。
ファンタジー要素の絡んでくる二話とくっつけちゃおうか迷ったんですけどね。
ということで意見をもらえるととてもうれしいです。是非に是非に~
では長ったらしいあとがきはこのくらいにして、よろしければ次話も見てやってください。
それでは見てくださりありがとうございました。