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神の涙  作者: 森乃 雅
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 〜第六章〜

        


二人が密林に入ってどれくらの時間が過ぎただろう・・・


休むことなく歩き続ける二人。


木々は高くそびえ立ち、太陽の光を遮っていた。


道なき道を歩き続けていると、ジュリアの頭にふと浮かんだ。


「あれ?・・・・こんなに歩き続けているのに・・・疲れない・・・」


「そういえば、宝玉を埋め込まれてからお腹をすかせることがない・・・・」


「と、いうかあれ以来何も口にしていない・・・」


ジュリアは自分の存在にゾッとした。


本当に普通の人間じゃないんだ・・・・と頭によぎった。


思わずエルの手をぎゅっと握ってしまった。


「ん?どうした?」


少し先を行くように歩いていたエルが立ち止まり振り向いた。


「あ・・・ごめん。ちょっと考え事してて・・」


ジュリアは顔を逸らして言った。

エルはジュリアに近寄り、無言で抱き締めた。

長身なエルはすっぽりとジュリアを包んだ。

エルの穏やかな鼓動が伝わった。


「!」


エルに抱き締められジュリアは安堵を感じながらも、突然抱き締められた事に驚いた。


「大丈夫だよ。何も心配しなくていい・・」


エルの存在、エルの言葉、一つ一つがジュリアを支えた。


その存在は一緒に居れば居るほど、尊くもあり、何か別な存在にも感じ始めた。

その別な何かはまだどういう意味なのか理解できなかった。

ただ今判ることは、エルはとても大事な存在と言う事だけだった。

エルの優しさを全身に受け、ジュリアは一言言った。


「ありがとう・・・」


ジュリアの一言にエルは優しく微笑み、頭をポンポンと軽く叩き励ました。


二人は再び歩き始めた。


密林を抜けると一気に辺りが開けた。

そこは無数の花が咲き乱れる広大な草原だった。

その光景は・・・『神の庭園』と、言うだけのことはあった。


「綺麗・・・・」


ジュリアが呟いた。


「そうだろう。ここは別名『天使の楽園』とも言われてるんだ」


「天使たちは時々ここに来て休息を取ると言う言い伝えがあるんだ」


草原に足を踏み入れると甘い香りがジュリアを包んだ。


「あっ・・・この香り・・・」


その香りはエルから時々してくる香りと同じだった。

不思議に思いながらも、エルに手を引かれ先へ先へと進んだ。

木一つ無い草原を歩き続けていると、遠くから水の音が聞こえてきた。


「もう少しだ。頑張れ」


疲れは感じていなかったが段々と足が重くなるのは感じた。


「足が・・・重い・・・・・・」


そう思ったジュリアは、同時に胸元がザワつくのも感じた。


力強く手を引かれ、エルに励まされながらザワつく胸元を押さえ、

重くなる足を必死に持ち上げ歩き続けた。

徐々に前方に、夕焼けに照らされた岩肌が見えてきた。

オレンジ色に照らされた岩肌を見た時、ふと太陽を見上げた。


「太陽が・・・もうあんな所に・・・」


知らないうちに太陽は西の空へと近づいてきていた。


後、数十分もすれば日が暮れる・・・・


ジュリアは近づいてくる闇に怯えた。


「闇が近づく前に早くしないと・・・・」


焦る気持ちと裏腹に足はどんどん重くなって行った。


「ジュリア、頑張れ!」


エルに励まされながら、必死に足を持ち上げ歩いた。

遠くに見えていた岩肌がどんどん近づいてきた。

近づくにつれてその岩肌から光輝く水が流れ落ちているのを確認できた。

さらに近づくと岩肌に囲まれた奥地にキラキラと夕焼けに照らされ輝く滝つぼが見えた。


暖かい風が二人を後押しする様に吹き付けた。


その風はまるで、神が手助けしてくれているかの様だった。

風に背中を押されたジュリアは、少し足が軽くなるのを感じた。


「あそこだ・・・」


二人は神々しい光を放つ滝つぼの前に着いた。


「さ、ジュリア入って。」


ジュリアはゆっくりと一歩足を踏みいれた。

水は思ったより冷たくなく、ジュリアを優しく包み込んだ。


「大丈夫!そのまま進んで」


エルの声にまた一歩と進み続けた。

次第に水は深さを増し、気がつくと腹部くらいまで浸かっていた。


先に進むほど深さを増し水が胸部に達した時・・・・


ジュリアの足を止めるように胸が痛み出した。


痛む胸を押さえながらジュリアは進み続けた。


水がジュリアの首まで達した時・・・・


胸がドクン!と言う音と共に蠢いた。


「うっ・・・」


ジュリアは思わず声を出した。


「大丈夫か!ジュリア!」


エルが心配した表情で叫んだ。

ジュリアが振り向き少し辛そうな顔をしながらも笑顔で答えた。


「大丈夫」


エルがホッとした顔をした時だった。


辺りの様子が一変した・・・


「!!」


一気に深い霧が辺り一面を包み、

本当に近くにいないと見えなくなるくらい真っ白に覆われた。


エルは慌てて滝つぼに飛び込んだ。


「バシャッ バッシャッ」


後一歩でジュリアの姿が霧の中に消えそうになる前に腕を掴み力強く引き寄せた。


エルは自分の中に包み込んでしまう様にジュリアを強く抱き締めた。


ジュリアは何が起こったのか理解できず呆然としていた。


「ジュリア、絶対俺から離れるな・・・」


緊張した声でエルが言った。

ジュリアは状況を理解できないまま、とにかくエルにしがみついた。


霧が全てを包み込むと辺りは恐ろしいほど静まり返った。


ジュリアは何とも言えない恐怖を感じた。

エルの体から伝わる緊張感が更にジュリアを怯えさせた。

ジュリアは怖くなり強くエルの胸元にしがみついた。


その時!!


もの凄い力がジュリアを引っ張った。

あんなに強くしがみついていた手が簡単に外れた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴と共にジュリアの体は宙に浮き、もの凄い勢いで後ろ向きのまま引っ張られた。


ジュリアは一気にエルから遠ざかった。


ジュリアの姿が真っ白な霧の中へと消えて行った・・・・


「ジュリアァァァァァァァァァ!!」


ジュリアの瞳に最後に映ったのは・・・・


真っ白い霧の中、エルの手だけが自分に向けて伸ばされている光景だった。


それは・・・まるであの時の夢の様な光景だった・・・


その光景を瞳に残し、ジュリアは気を失った。


一瞬の出来事だった・・・・


ジュリアが姿を消すと一気に霧が消えていた。

エルはジュリアの名を叫び続けた。


「ジュリアァァァァ!」


エルの声は滝つぼに吸い込まれるように消えていった。


エルの声は・・・もうジュリアには届かなかった・・・・


優しく髪を撫ぜられるのを感じ、ジュリアは目覚めた。


「ん・・・エル・・・?」


寝ぼけながら目覚めたジュリアの瞳に映ったのは・・・・


一瞬エルかと思う人影だった。


ぼやける目を擦り、もう一度その存在を確認したジュリアは言葉を失った。


「・・・・・・・」


暗闇の中、窓から差し込む月明かりがその人影を照らした。


銀色の長い髪、暗闇に不気味に浮かび上がる冷酷な蒼い瞳。


そして・・・ニヤリと笑みを浮かべる口元・・・・


「あぁ・・・もう駄目だ・・・・」


ジュリアの脳裏に浮かんだ。


男は大きな椅子に座り、ジュリアを膝に乗せ横抱きに抱えていた。

自分の懐に横たわるジュリアを冷酷な瞳で見つめながら、優しく髪を撫ぜていた。


ジュリアの体は石のように硬直した・・・


髪を撫ぜながら男が口を開いた。


「残念だったな。後もう少しだったのに・・・クックック」


不気味な男の笑い方が耳にこびりついた。


ジュリアの思考回路は、もう・・・何も考えられなかった。


「しかし・・・ヤツに助けられていたとは・・・」


冷酷な瞳が憎しみの瞳に変わった。


今まで優しく撫ぜていた手が急に髪を容赦なく掴み、

後頭部が後ろに下がるくらい髪を引っ張った。


「うぅぅぅ・・・」


痛さにうめき声をあげ、顔が苦痛に歪んだ。


「我から逃げれると思っていたのか?」


「お前はやっと見つけた我の餌。どこに逃げようと・・・絶対に逃さぬ!」


反り返った首筋に冷たい男の舌が触れた。

氷の様に冷たい舌は、下から上へと纏わりつく様に這い上がってきた。


ピクリと体が反応した。


ジュリアは恐怖のあまり泣くことも、悲鳴をあげることも、逃げようとすることも忘れた。


男の体から急に冷気を感じた・・・


その瞬間!!男の姿が変貌した。


「バサッ!」


ジュリアの耳に翼の音が聞こえてきた。

抱き抱えていたジュリアを冷たい床に叩きつける様に投げつけた。


「ドサッ!!」


「うっ・・」


ジュリアは苦痛のうめき声を上げうずくまった。

男は立ち上がりジュリアに近づいた。

気配を感じジュリアは苦しみながらも横目で男を見た。


男の姿を見た瞬間・・・ジュリアの精神は音を立てて崩壊した・・・


男の背中に漆黒の12枚の翼・・・・・


その翼は暗闇に馴染むくらい黒く・・・・


翼のせいで男の銀の髪は光る様に見え・・・・


冷酷な蒼い瞳はジュリアと捕らえ続けた・・・・


ジュリアは魂が抜けたように男を見つめた。


男は舌なめずりしながら片手でジュリアの首を持ち、軽々と持ち上げた。


「うぐぅぅぅ・・・・」


持ち上げられた体は宙に浮いた。


苦しさに声を出すことさえできなくなり・・・・


ジュリアは感覚も思考も・・・・五感全てが麻痺した。


「ビリビリィィィィィ!」


鋭く尖った男の爪がジュリアの服を引き裂いた。

裂けた服の間から、色白の肌が剥き出しになった。


男は胸元の宝玉を見つめ、ニヤリとした。


そしてジュリアを天高く吊るし上げた。


「神は人間を創り、そしてもっとも愛した・・・」


「全知全能である神よ!貴様は見守ることしか知らず」


「今この瞬間も救いの手を差し伸べる事をしない・・・」


「貴様など無能な存在にしか過ぎん!!」


「貴様が愛する全てのものを踏みにじり、汚し、そして・・・破壊してやろう・・・」


「何も出来ない貴様は天から見ていればいい!」


「我が名はルシファー!我こそが真の神なり!!!」


天に向かって叫んだルシファーはジュリアの胸元に手を当て、

この世には存在しない言葉で詠唱した。


ジュリアの体内に邪悪な気が流れ込んだ。


宝玉は漆黒の黒に変わり、漆黒の光を放った!


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」


ジュリアはけたたましい叫び声を上げ、白目を向いた。


宝玉はゆっくりとジュリアの胸に埋まっていった・・・


ジュリアには既に意識はなかった。


宝玉が完全に埋まった時・・・ジュリアの瞳から血の涙がこぼれ落ちた。


「フハハハハ!神よ己の無力さを知れ!!」


ルシファーの高笑いは暗闇に響き渡り続けた。


ジュリアの瞳からこぼれ落ちる血を一滴も逃さない様に舐めりあげた。


ルシファーは全身に力が漲ってくるのを感じた。


「これ・・だ・・・我が欲してたのはこの力だ・・」


ルシファーは体を震わせながら歓喜に満ちた表情を浮かべた。


そして、ぐったりと意識を無くしているジュリアをベットにほうり投げた。


「満月の夜が楽しみだ・・・・クックック」


不気味に笑い、ジュリアを見つめながら言った。


もうすぐ満ちる月を見つめニヤリと笑みを浮かべ・・・・


ルシファーは12枚の漆黒の翼を羽ばたかせ、暗闇に消えて行った・・・・


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